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男性ブランコを観に京都会場へ出かけるまでの心持旅

 「推しは推せる時に推せ」とは誰の言葉だっただろうか。
私の場合、推しは生活に張りを与えてくれる「活力剤」だ。
あらゆる事情で推せなくなる前に、パワーを頂戴し、こちらからは応援とお金を支払い、「推し」には富と名声という形で贈与される。
WinWinな関係、それが推しとファンである。
 
どうしても推せなくなる事情は、ファンである私の金銭や体力、時間的な事情の場合と「推し」自身のプロデュース力の欠如がもたらす場合がある。
自身のプロデュース云々については「推し」が人間だった場合に限る。
 
「推し」も人の子、悩み苦しみひねり出したりして生きている。
自分自身のブランディングに失敗したものは、淘汰されてしまい、ファンが推しきれなくなってしまう。
だから推しの頑張りが周辺を巻き込み相乗効果を生み出し始め、脂が乗ってきそうな時に、さらなる頂上へ押しやるべく「推す」対象となる。
 


いざ京都へ


 京阪出町柳駅のすぐ側には高野川と賀茂川が合流する地点があり、誰が言い出したのか定かではないが、今では地図にも表記されるようになった「鴨川デルタ」と呼ばれる三角のデルタ地帯がある。
正式名称は「京都府立鴨川公園」である。
 
この公園を横目に、橋を2つ渡ったところの三条商店街へ向かって歩く。
方角でいうと東から西へ移動する。
別ルートで加茂大橋を渡って西へ向かうこともできるが、私はわざわざ小橋を2つ渡って行く方が好みだ。
 
到着したのが夕方ということもあってか、最近問題にもなっているオーバーツーリズムの影響は皆無。
公園には老人と学生集団が点在し、歌い踊り、カップルは等間隔で座るといった何十年も変化のみられない光景が広がっていた。
 

河原町通りを下る(南へ移動)


変化のない風景への安心感を勇気に変えて、京都府立文化芸術会館へ向かう。
なぜ勇気を出して向かうのかと言えば、ひとえに推しと「同じ空間」へ行くからである。
そして初見のネタを観るからでもある。
推しと会話ができるわけでも、推しが私を認識しているわけでも全くない。
なんなら最後列席を引き当ててしまっているので、舞台上の推しの表情が見えるか見えないか、自分の視力の限界に挑戦する過酷席なのである。
それでも緊張はしてしまう。
 

赤い実がはじけ飛ぶが如し


観たいと思って申し込んだ今回の公演に、抽選で2度落ちている。
当たって欲しいという気持ちと同じくらい、私なんて者は落ちてもいいかも…
という気持ちにもなる。
そうすると当然落選する。
ああ やっぱりか。
 
しばらくすると京都会場の追加公演が発表されたが、別の公演会場ではチケットの売れ行きがあまりよろしくないことも告げられている。
1枚でも売上に貢献せねば推しのモチベーションが、ひいては所属事務所からの評価が下がってしまう。
とはいえ遠方の会場へ行く財力に乏しい私は、近くの会場で貢献したい。
 
推しのモチベーションが下がる = 今後のネタ質低下で面白さ無くなる
 
それは困る。
日々の活力剤が効かなくなると、大変困る。
 
今度は必ず当選しますようにと願い申し込んで、最後列席を引き当てた。
そりゃそうです。
自分を卑下して落ちてもいいなんて思ってたから。
悪い考えは、実際に起こるというか。
 
 

個人的な思考ですけど、みなさんもそうですか?


開催日が近づくにつれて行くのが億劫になる。
これは観劇などに限らず、友達と出かける予定がある時などもそう。
約束した時や、チケットが取れた時などは嬉しいくせにだ。
もう、わくわくする気持ちを通り越して、行きたくなくなってしまうのだ。
 
思い返せば幼少期からそうだ。
遠足の前日までは楽しみだけど、当日の朝は急に行きたくなくなる。
ただ眠いからだという人もいるが、眠さを超えられない「何か」が存在していそうだ。
齢を重ねるごとにその気持ちが前倒しになって、いまでは3日前あたりから億劫になる。
楽しいわくわくの期待感が極度の緊張に転嫁されて、心がはじけ飛ぶ前に回避しようとしているのかもしれない。
 
 

いよいよ、この横断歩道を渡れば会場


会場側面に設置されたポスターたちが見えてきた。
しかし公演期間中の男性ブランコ単独公演「駐車場」のポスターが見当たらない。
 
あれ、日程を、間違えたか…
 
散々SNSでも京都公演観ました感想が上がっていたではないか。
ほとんどネタバレなしでの感想で、お心遣いありがたいです。
お優しいファンばかり。

感謝の念は、横に置いて後で整理するとして。
もしかして公演時間を間違えたかな。
いや、時間は関係ない。
 
青になったので横断歩道を渡ろう。
正面玄関に近づくにつれ、お客さんらしき人は… 見当たらない。
あれ?
 
朝、電子チケットを確認したときに、最後列席だー!
あー!なんだよー!
やっぱり悪い考えが引き寄せたのか、はたまた悪いことを予知してて…
ああ、やっぱり行きたくないかも、とか思ったからか。
 
もうチケット代金は支払っているから、貢献になっている。
一瞬頭をよぎったが、いや待て空席があったら推しが悲しむ。
本日の公演パフォーマンスが下がってしまっては、楽しみで来ている他のお優しいファンの方々に申し訳ない。
とはいえ最後列席にぽつねんとある空席まで、視力の悪い「推し」が気づくだろうか。
 

悶々と思いを巡らせながら歩みを進めているうちに、会場に到着した。
入口付近のガラスケース入った公演ポスター前で記念撮影している人や、待ち合わせをしているであろう淑女の方々がいらっしゃる。
 
やはり間違っていない、到着できて一安心だ。


ここへ来て急にまたはじけ飛んだ。
嗚呼、会場に入りたくない。

【しゅん】

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