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20年ぶりに伊藤賢治を聴いた話

自分の小遣いで初めて買ったCDは「ロマンシングサガ3オリジナルサウンドヴァージョン」だった。1996年頃だろうか。これを皮切りに、伊藤賢治が手掛けた音楽のゲームを遊んでは、関連アルバムの入手を繰り返していた。ゲームの発売順に列挙すると、サガ2秘宝伝説、聖剣伝説、ロマンシングサガ、ロマンシングサガ2、ロマンシングサガ3、サガフロンティアまでは。

しかしサガフロンティア2で音楽担当者が変わり、購入意欲が一気に減退してしまった。最後に求めたのは、カルドセプトセカンドOSTと記憶している。2001年のことだった。

ゲーム音楽自体はその後も追い続けてはいた。伊藤賢治の情報も断片的には耳に入っていたものの、すでに他の作曲家に魅了されており、現物にあたるわけでもなかった。決して忠実なファンではなかった。

そして時は流れに流れ、2021年1月25日まで飛ぶ。

Spotifyによるゲーム音楽の自動生成プレイリストから流れてきた音楽に耳を奪われた。「リチューン/ロマンシングサガバトルアレンジ」の一曲であった。すかさずアルバムに移動して通しで聴いた。

そこにはひと昔前に描いたであろう理想の焼き直しではなく、深化と発展を感じられた。ゲーム機の内蔵音源に四苦八苦した頃から実績はあったにもかかわらず、それを全く引きずっていない。決して洗いざれることのないメロディを無理に歌わせようとせず抑制の効いた音色を発していた奏者のクレジットも見ておきたく、パッケージもすぐに注文した。

かつての名声という拘束を振り解く努力を惜しまなかった人間には、相応の新しい舞台が用意される。一方、子供の頃に好きな音楽をたくさん作ってくれた作曲家が、老いて伝説の復刻や焼き直しに身をやつしている姿には物悲しさが漂う。伊藤賢治からゲーム音楽を好きになり始めた幸福を思った。

さらに気が向いて、本人のTwitterアカウントを見てみた。ちょうど週末に「30周年記念コンサート配信」があると知った。しかも全曲サガシリーズである。なんといういいタイミングであろうかと唸った。これもすぐに申し込んだ。定価と投げ銭の合計で、名の知れた大ホールの全席指定相当を充てた。

2021年1月30日17:00、開演。

配信会場は大宮ソニックシティ大ホール。ステージ上はキーボードの伊藤を中心に扇形に各パートが配置され、彼の背中を信じて仲間たちが楽しく奏でていたのが印象的であった。情熱的で美しい音楽を堪能した。

「#イトケン30th」というタグがTwitterタイムライン上で踊った。振り返ると、残り1時間余りとなったあたりで発動された最終ボス戦の楽曲3連発から、演者・観客とも精神の最高潮を突破してしまっていたのだろう。

巧みな照明とカメラワークもあり、ミュージックビデオさながらであった。物凄い3時間であった。酸欠ものの力の開放を目撃した。配信だから身が持ったけれど、現地であれば卒倒していたかもしれない。伊藤賢治らしさ全開で渾身のライブに痺れた。

リアルタイムで夢中になったのは20年ぶりであった。

2021年1月30日20:00、終演。

サガシリーズの音楽は「遠い日の花火」でも充分であった。それにもかかわらず、より成熟した現代の姿で再び出会うことができた。法外の喜びであった。

古参ファンの私だが、前述したようにこれまでライブ等は一切観たことがなかった。本人の声も実は当配信で初めて聞いた。しかし約10年も前から、試行錯誤もありつつあのように観客を楽しませ活力を与え続けてきたであろうことは容易に想像がつく。

伊藤賢治からゲーム音楽を好きになった幸運をこれからも大切にする。