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フランスといえば……

パリに留学中のピアニストである友人設楽へ、紺野のメールに彼女は続けた。「アサス城にはもう行かれましたか?ピアノの前身である鍵盤楽器の名器があるお城です。せっかく今フランスにおられるのですから本場のクラヴサンを試し弾きしてみてはいかがでしょう?」と興味半分で。

「何を言っているんだ。俺はピアニストだぞ。」設楽の返信は思いのほか早かった。

「エラそうなのは相変わらずだな。」と紺野は目を細めたが、最近になってお笑いに目覚めた彼女は敢えてマジメに返信した。

「鍵盤楽器奏者とはピアニストだけを指す言葉ではありません。私が好きなフランスの国民的ピアニストはちゃんと触れた上で自分はクラヴサンが下手だと言ってます。」

1週間後、設楽から写真付きメールが送られてきた。
「おまえが言っていたアサス城だ。クラヴサンという楽器は腕が空気椅子みたいに攣ってくるな。でもピアノより細やかな音色は悪くないぞ。」

紺野が笑いを堪えながら言葉を紡いだ。「空気椅子…空気椅子…涼しい顔したあいつが腕をプルプルさせながら弾いて……あはははは!!」

その笑顔を見て彼女はお笑いが好きな紺野のツボを突くことに成功したと胸の内で喜び微笑んだ。

(作者より)アサス城は南フランスに実在します。