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華と地味のあわいに

「設楽先輩のショパンは透明感がずば抜けていると思います。」と彼女は感嘆する。
「…まあな。」得意げになりそうなのを隠しつつ、なんのこれしき。
「ショパンも音楽の父バッハを規範にしていますよね。」
「うっ…そ、そうだな。」いきなりなんなんだ。話題が飛びすぎだ。

「私、このあいだ玉緒さんと聴いたコンサートで平均律クラヴィーア曲集の第2巻のみから抜粋したプログラムがすごく躍動感があって面白かったんです。」
「あんなお経のように聴こえる音楽がか?」単調な練習曲集がなぜドラマに化けるのかということに設楽は納得ができない。
「お経なんかじゃありませんよ?」あの生演奏を聴いてきた彼女は余裕で言葉を返す。
「……物好きだな。」なのに謎は残る。

翌日からウォームアップで軽く流す練習曲としかみていなかった曲集に熱を入れ始めた。

(作者による補足考察)
ピアニスト設楽先輩のレパートリーを想像してみる。まずはショパン。続いてシューベルト、モーツァルト、ドビュッシー辺りかなと。リストは体幹の強さが求められるため避けて、変わり種としてショパンの影響が濃いスクリャービン。バッハとその同時代は地味だからと手が回らない。