セイちゃんちのピアノ
二人暮らしをしながら高校に通っているコウとルカは両親のいる実家に帰省していた。しかし居間にいるのもなんとなく退屈な気分になり近くの勝手知ったる邸宅を訪ねた。そこには本格的なグランドピアノが置いてあった。
ルカは猫ふんじゃったを嬉々として弾き散らかす。音を外しても無邪気そのもの。鍵盤の反応の良さを本能的に察知しながら挙句の果てに大声で歌い出す始末である。
コウは棚にあるレコードを気にしながらルカをとおくで嗜める。おい、ほどほどにしとけ。
この部屋の主は設楽聖司という。彼らよりひとつ上の「セイちゃん」は体が二人よりも小さい。小学校中学年くらいまではルカなら泣かすことができた。しかしその仕返しにくるコウには今まで一度も反撃できたことがない。
コンサート用に調律したばかりのピアノが厚かましいド素人によって荒らされていくのを設楽は顔を顰めるばかりで止めに入ることができずにいる。
だから嫌だと言ったんだ。あいつらは。いくら家が近所だからって。