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【基礎教養部】小泉悠「ウクライナ戦争」を読んで

第二次大戦以降最大規模の軍事衝突であるウクライナ戦争の終結は未だその形すら見通せない.現在のところウクライナが抗戦の意思を持ち続けているので,ロシア軍の決定的敗北もしくはロシアでの政変が起こるといった事態しか終結はしないだろうが,それでもやはりウクライナ,そしてロシアにおける軍人,一般市民多数の犠牲が出ることには変わりない.ロシアにおける極少数の施政者が情勢を見誤り侵攻したことによる結果は,ただただ無辜の人たちが流す血である.一刻も早くウクライナの人達が安寧を取り戻し,ウクライナ,そしてロシア双方の軍人が無事に家に帰れるように祈るばかりである.

さて,ウクライナの地に再び平和が戻ってくるのを願うことももちろん大切なことではあるが,我々がまず考えなければならないことは「日本に再び戦火が訪れないように」するためにはどうすればいいのかということである.普段あまり認識しないかもしれないが,日本を取り巻く安全保障環境は朝鮮半島,台湾といった火種の存在もあり世界でも有数の不安定なものである.我々が今享受している物質的にも文化的にも豊かな生活は実は薄氷の上に危うく維持されているものに過ぎない.以下に,それを維持するために私が必要だと考えることを3つほど軽く述べる.

集団安全保障の拡充


現実的に,自国単独で安全保障を完結できる国は世界中で数えるほどしかない.近年急速に拡大を続けている人民解放軍と比べ通常戦力に劣る日本もその例外ではない.故に,「自由と法による秩序」など基本的価値観を共有する,アメリカ合衆国を始めとする国々との連携が必然となる.この点,イギリスとイタリアとの共同で戦闘機を開発する計画を進めるなど,従来深い関係であったアメリカ合衆国以外にも欧州諸国との安全保障における関係性をより強化しようとする岸田政権の動きは評価できる(どうでもいいが,「日英同盟の復活」というワードには私の厨二心がくすぐられざるを得なかった.「日英同盟」,語感があまりにもいい).特に,元「世界帝国」でありウクライナ戦争の事例でもわかるように強力なインテリジェンス能力を有するイギリスとの関係強化は大きい.

先述したが,我々が今営むことができている物質的・文化的に豊かな生活は「自由と法による秩序」のような基本的価値観が,国際社会において一応守るべきものだという共通認識がなされ,それが維持されいているという現状の上に基づいている.「自由」や「法」,そして「安全」はタダでは得られず,それを維持している努力があって初めて成立する.今まで日本がそれらの維持に十分コミットできていたかと言われるとかなり微妙であろう.直近の防衛力拡充は,基本的価値観を守る上であるべき姿勢に戻ったといっていい.

防衛力の拡充

先月,安保関連文書が内閣官房から公開された.「戦後の防衛政策の大転換」と銘打つ通り,防衛体制の大幅な強化を図る内容となっている.個人的には,内容は別にしてちょっと説明やら公開が唐突すぎるような気もするが.先に言った通り,人民解放軍と自衛隊を戦闘機などの通常戦力によって比べた場合,おそらく人民解放軍側有利といっていい.もちろん日本周辺で有事が起きた場合には高確率で在日米軍等が介入してくると思われるし,人民解放軍側にも多大な損害が出るので今の均衡が保たれている.しかし,中国の軍事力拡充のペースを鑑みるにこの防衛体制の大幅な強化は「均衡をギリギリでも保つため」に必要だとされる事項であろう.防衛力は,いざ有事の際に国民の生命や財産を守るための「公共インフラ」ともいっていい.その拡充は当然であり,投ずる資金に見合う価値はあると考える.

相互理解


さて,ここまでさも日本周辺で有事が起こる際中華人民共和国,及び人民解放軍がその起因となると前提に置いた上で議論を行ってきた.それは無論可能性が一番高い事象ということもあるし,中国が力による現状変更の意図とそれを実現しうる力を備えた存在ということもある.しかしながら,それは中国を「敵」,つまり理解の範疇の外側に置くということを意味しない.むしろ,有事という日中両国,そして世界に莫大な経済的損失を与え,何より夥しい血と鉄量を消費する事態を避けるために努力してその意図,能力,本音を「理解するべき」相手である.それには相手国の文化,歴史を知り,旅をし,そこに住む人と議論するなど様々な手段がある.防衛力による抑止も有事の回避に効果的ではあるが,何より自らと相手,双方をあらゆる面を理解することこそが歴史上において戦争が勃発した理由を鑑みるに重要だと考える.


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