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[道順障害の研究 #4]何科を受診すればよいの?という問題

知識がないとGoogle検索すらできない

当時の私は、病院という場所は血を流していたり/松葉杖を必要としていたり/歩けないほどにふらふらしていたりといった「あきらかな病気やケガ」でなければ受け入れてもらえないと思っていたし、「[#3]医師に相談して良いことなのか」で友人が言ったように、日常生活に支障をきたしている人が訪れる場所(健康診断や付き添いは除く)だと決めつけていた。私自身、過去に仕事のし過ぎで頚椎椎間板ヘルニアを発症してしばらくのあいだ寝たきりの生活を余儀なくされた以外は、ありがたいことに健康の問題にあまり悩まされずに生きてきたように思う。

病院とあまり縁がないことは非常に幸運なことだ。一方で、病院に慣れていないがゆえに、いざ困ったときにどこに行けばよいか分からないという事態に陥っていた。他人から見て病気やケガである様子が伝わらないうえ、なんとも説明の難しいこの症状は、果たして診察の対象になり得るのか。そもそも重度の方向音痴や人の顔が見分けられないといった症状は何科に相談すればよいのか……。

PCに向かってGoogle検索しようにも、キーワードがまったく思いつかず検索すらできないことに気付かされた。くどいようだが、私は映像技術やブロックチェーン、フィンテックといったテクノロジー領域を専門とするライター・編集者をしている。顔認証や指紋認証といった生体認証技術、フェイシャルアニメーションやモーフィングに関する検索を散々してきたこともあり、情報テクノロジーに関する単語ばかりが脳裏に浮かんでくる。「顔 認証 むずかしい」といったキーワードでGoogle検索してはiPhoneの顔認証に関する記事ばかりがヒットする。自分のITオタクぶりにあきれつつも、まがりなりにもプロのライターではないか。これまでに培った検索スキルを発揮するときだ、と自分を奮い立たせ、思いつく限りのキーワードをロングテールで検索してみたところ、次第にそれっぽい記事がヒットするようになっていった。そしてついに「相貌失認(そうぼうしつにん)」という用語に行き当たった。

それでも判断がつかなかったから

試行錯誤の末にようやくヒットした記事を上から順に目を通し、医学的な用語に触れていく作業がはじまった。自分にあてはまる症状が多く記され、原因から対処に至るまで丹精にまとめられている。どの記事も非常に勉強になるのだが、どうしても釈然としないところがある。果たして私は本当に相貌失認なのだろうか。方向音痴は関係ないの? 「ひとりで悩まず、専門家に相談したり、支援団体に参加したりして助けを求めましょう」と書かれているけれど、では私の生活圏ではどこに相談しに行けば良いの?

答えが出そうにない疑問が頭のなかで渦を巻き始めたので、その日はPCをシャットダウンした。手に負えない問題は「離れる、寝かせる、熟成させる」ことで解決策が得られることがある。今日のところはかなり良いところまでリサーチしたので、続きはまた明日。

そして翌日、あっさりと答えが見つかった。「自分でできることはもう十分に手を尽くした。それでも判断が付かないならば病院に質問しよう」という、1周まわって極めてシンプルな手法だった。私は、これまでにかかったことのある大きな病院(総合病院)に、診察券の番号を添えてメールを送ることにした。総合病院であれば、どこかの科で診てもらえるだろうと考えたのだ。メールの文面は「病院に相談するべきことなのか悩みましたが、人の顔が見分けられていないようで仕事に支障が出ています。お忙しいところ恐れ入りますが、どこの科に相談すればよいかおしえていただけますか?」といった具合で、さらりとシンプルな内容だ。この段階では質問を広げず、まずはショックを受けたばかりの「人の顔を見分けられず仕事に支障が出ている」という内容に絞った。そして返事がもらえないことを前提に、送信ボタンを押した。

補足:そもそも、メールで質問して良いものなのかも定かではなかったので、「お問い合わせフォーム」で質問対象となり得る選択肢が設けられている病院にだけメールを送った。

力を借りて一歩前進

計3つの病院に送信したところ、驚いたことに1週間もしない内にすべての病院から返信があった。いずれも非常に親切な内容で、専門と思われる医師に確認をしてくれた病院もあった。毎日おびただしい数の問い合わせがあるだろうに、感謝してもしきれない。この時の気持ちをどのように説明すればよいか……、孤独な暗闇で初めて人の気配を感じた時のような安堵感だろうか(余計わかりにくくなったかも)。

せっかくなので、いただいた返信の一部を少しだけ紹介しよう(原文ママではないです)。私のように、病院に行くことに抵抗がある方の参考になれば幸いである。

病院A:脳神経外科の先生や精神科の先生など、数名の医師に聞いてみたところ、当院では精神科で対応できるかもしれないとのことでした。よろしければ、一度受診されてはいかがでしょうか。
病院B:病院内の科をいくつか当たってみたのですが、当院では該当する科がないようでした。また、どの科を受診すればよいかわからないときは、救急相談センター(#7119)に相談すると解決するかもしれませんよ。
病院C:メールを拝読し事務局内でも話し合ったのですが、該当する科はないようでした。お力になれず申し訳ありません。

3つのうち2つの病院では該当する科がないとのことだったが、私にとっては十分救いの手となっており、新たな手がかりまで得ることができた。

①病院でも「その症状はこの科へ!」とすぐに判断できるものではない
②該当するのは脳神経に関する科か精神科であるらしい
③救急相談センター(#7119)という相談窓口が存在する
④相談したことでクリアになることがあり、一歩前進した

……振り返ってみると、他人に相談したり助けを求めたりということをあまりしてこなかった。問題を解決するのが好き、という難儀な気質もあるかもしれない。一人で解決するのが難しいときは専門家に頼った方が良いのかも、と考えられるようになっただけで気持ちが少し楽になったように感じた。改めまして、当時、私の問い合わせに丁寧に対応してくださった皆様、本当にありがとうございました。

少しずつではあるけれど、着実に、確実に、一歩ずつ前に進んでいるのではなかろうか、そんな手ごたえを感じ始めていた。20年以上かけて蓄積した悩みであり、ライターの仕事を辞めるか否かの境界線に立っている。一刻も早くなんとかしたいという気持ちは強い。しかし私は、病院からの返信を読み返し、焦る気持ちを抑えて自分の気持ちの変化をしっかりと味わうことにした。そして、自分は何と向き合おうとしているのかをもう一度よく考えることにした。

TEXT_みむら





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