ドイツのブドウ栽培(品種別及びワイン生産地域別)の近況(2023年)
本年6月終わりから7月初めに、ドイツ・ワイン・インスティテュートが、2023年のブドウ品種別及び13のワイン生産地域別の栽培面積の速報をプレスリリースしている。要約すれば以下のとおり。
1.ブドウ品種のトレンド
新品種の栽培が増加
新しい品種であるソーヴィニエ・グリ(Souvignier Gris)は、栽培面積が183ha増加し、増加面積は全品種の中で第2位であった。ソーヴィニエ・グリの栽培面積は388haとなり、2023年に46ha増加して306haとなったカベルネ・ブラン(Cabernet Blanc)を抜いて、新品種として最大のものとなった。ソーヴィニエ・グリの増加面積は、シャルドネ(181ha増加)も上回った。栽培面積の増加が最も大きかったのは、グラウブルグンダー(278ha増加)である。
もっとも、ドイツの生産地域全体の2023年における栽培面積103,687haと比べれば、新品種は全体で3%強と比較的低い水準にある。
(筆者注)ここで「新品種」とされているのは、PIWI(ピーヴィー)と呼ばれるカビ菌への耐性が強い、最近開発された交配品種である。
白ワイン用品種の増加
白ワインの消費か増加していることを反映して、白ワイン用品種の栽培面積も増加している。全面積に占める白ワイン用品種の割合は、最も低かった2006年(63.1%)以降継続して伸びており、2023年には68.8%となった。面積で見ればこの間に約6,000ha増加しており、2023年には71,378haであった。赤ワイン用品種は、2023年には約1%割合が減少し、32,310haであった。
ブルゴーニュ系品種が人気
リースリングは、前年と変わらず約24,400haで、ドイツの栽培面積全体の4分の1弱を占め、揺らぐことのないトップ品種である。
白のブルゴーニュ系品種は引き続き増加傾向にあり、最も人気があるのはグラウブルグンダーで、全ドイツで8,372haを有し、ミュラー・トゥルガウ(10,738ha)に次いでドイツの白ワイン用品種第3位であった。第4位は6,318haのヴァイスブルグンダーであり、4,330haのジルヴァーナーに続いて、第6位は2,912haのシャルドネであった。同じくブルゴーニュ系品種であるオーセロワ(307ha)を加えると、白のブルゴーニュ系品種は合計で18,000ha近くに達する。
アロマ系品種が求められる
アロマ系品種であるソーヴィニヨン・ブランは、非常に好まれている。2023年には79ha増加して2,002haに達し、ドイツの主要栽培品種トップ10にランクインした。ゲルバー・ムスカテラー(598ha)やショイレーベ(1,499ha)、ゲヴュルツトラミネール(1,122ha)といった他のアロマ系品種も、栽培面積が幾分増加した。
赤ワイン用品種の中でも国際品種は増加
赤ワイン用品種の栽培面積は全体としては減少しているが、国際品種は幾分増加している。メルロー(47ha増加し933ha)、カベルネ・ソーヴィニョン(19ha増加し502ha)、シラー(16ha増加し139ha)、カベルネ・フラン(12ha増加し129ha)といった状況である。シュペートブルグンダーの栽培面積は2023年には約11,500haで、ドイツ最大の赤ワイン用品種の座を維持している。
2.13生産地域の状況(生産地域のアルファベット順)
(1)アール(Ahr)
比較的小規模な生産地域であり、2023年の栽培面積は、前年比2ha増加の531ha。洪水被害の前の2021年の564haまでは回復していない。赤ワイン用品種の割合は79%で、13生産地域の中で最も高い。栽培面積全体の約3分の2の342haはシュペートブルグンダー。
(2)バーデン(Baden)
ブルゴーニュ系品種が中心の産地。全栽培面積は15,679haでドイツで3番目に大きいが、ブルゴーニュ系品種が62%(9,763ha)を占め、シュペートブルグンダー(5,029ha)とヴァイスブルグンダー(1,660ha)はドイツ最大である。フライブルクで開発された新品種ソーヴィニエ・グリも123haとドイツ最大になっている。地域特産のグートエーデルは、マルクグレフラーラントを中心に1,021ha栽培されている。
(3)フランケン(Franken)
フランケンで最も重要な品種はジルヴァーナーで、地域全体の約4分の1の1,563haで栽培されている。ミュラー・トゥルガウも、1,375haを占める主要品種であり、これら両品種で全体のほぼ半分を占めている。全栽培面積は6,173haであり、その83%は白ワイン用品種である。
(4)ヘシッシェ・ベルクシュトラーセ(Hessische Bergstrasse)
2023年の栽培面積は461haであり、2007年にザクセンから引き継いだドイツ最小の生産地域の座を、ミッテルラインに譲った。リースリング(164ha)やグラウブルグンダー(59ha)といった白ワイン用品種が中心である。
(5)ミッテルライン(Mittelrhein)
栽培面積は対前年で6ha減少して460haとなり、ドイツの13生産地域の中で最小となった。全体の約3分の2を占めるのはリースリングである。
(6)モーゼル(Mosel)
全体で8,536haのうち91%は白ワイン用品種であり、この比率はドイツの中で最も高い。最も好まれているのはリースリングで、5,330haである。地域特産のエルプリングは425haで、435haのシュペートブルグンダーに地域第3位の座を明け渡した(訳注:地域第2位の品種はミュラー・トゥルガウ)。約3,400haは斜度30%以上の傾斜地であり、傾斜地にあるワイン生産地域としてモーゼルは世界最大である。
(7)ナーエ(Nahe)
栽培面積4,250haのナーエは、ドイツでは中規模な生産地域である。土壌の多様性から栽培品種も多様であるが、全体の4分の3は白ワイン用品種である。最大なのはリースリング(1,244ha)で、次いでブルゴーニュ系品種(1,158ha)である。
(8)プファルツ(Pfalz)
5,954haでリースリングが栽培されており、世界最大のリースリング産地である。また、7,535haは赤ワイン用品種であり、ドイツ最大の赤ワイン産地でもある。ドイツの伝統的な赤ワイン品種の他、メルロー(429ha)、カベルネ・ソーヴィニヨン(256ha)、シラー(71ha)及びカベルネ・フランン(64ha)はドイツの約半分を占める。白ワイン用品種においては、ソーヴィニョン・ブラン(798ha)が全ドイツの40%を占めている。生産地域全体では23,793haあり、13生産地域の全面積の4分の1に近い。
(9)ラインガウ(Rheingau)
ドイツの全生産地域の中で、最も明瞭な特徴を有している。リースリング(2,441ha)が中心であり、地域全体で3,207haの栽培面積の76%を占めている。これはドイツの13生産地域の中で最も高いリースリング比率である。赤ワイン用品種は473haで栽培されているが、85%はシュペートブルグンダー(403ha)である。
(10)ラインヘッセン(Rheinhessen)
ドイツの栽培面積全体の4分の1強に当たる27,499haを有するラインヘッセンは、ドイツ最大のワイン生産地域である。グラウブルグンダーの栽培面積は、昨年110ha増加して2,424haとなり、バーデン(2,398ha)を抜いてドイツ最大となり、また、シャルドネも1,087haの面積でドイツトップである。リースリング(5,383ha)は、ドイツ第2位の栽培面積である。それ以外に、ジルヴァーナー(1,875ha)はドイツ全体の43%を占め、ミュラー・トゥルガウ(3,834ha)もドイツの3分の1強を占めるが、いずれも減少傾向にある。新品種ソーヴィニエ・グリは、2023年には前年の35haから96haと3倍近くに増加した。
(11)ザーレ・ウンストルート(Saale-Unstrut)
ザーレ・ウンストルートの栽培面積は、東西ドイツ統一時の390haから2023年には853haと2倍以上に拡大した。1,000ha未満の小規模な生産地域5つの中では最大となっている。地理的に見れば、北緯51度にあるザーレ・ウンストルートは、ドイツのクヴァリテーツヴァイン生産地域の中で最北に位置する。主要品種は、ヴァイスブルグンダー(117ha)とミュラー・トゥルガウ(122ha)である。
(12)ザクセン(Sachsen)
ザクセンも、1990年(東西ドイツ統一)以降、300haから昨年は522haと拡大に勢いがある。ドイツで最も東に位置するこの生産地域は、気候変動の影響が大きい。比較的晩熟のリースリング(74ha)が、地域最大の栽培面積となっている。ザクセン全体の約5分の1を占める赤ワイン用品種では、半分近くでシュペートブルグンダー(46ha)が栽培されている。
(13)ヴュルテンベルク(Wuerttemberg)
ドイツ第2の赤ワイン生産地域であるヴュルテンベルクは、他の生産地域とは異なり、トロリンガー(1,855ha)とレンベルガー(1,757ha)が中心である。赤ワイン用品種として、他に、シュペートブルグンダー(1,302ha)とシュヴァルツリースリング(1,175ha)の役割も大きい。赤ワイン用品種は合わせて7,327haを占め、生産地域全体11,392haの3分の2を占める。白ワインの半分以上はリースリング(2,120ha)から造られている。
(以上)
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