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デス・レター(沈降日誌その2)

過日、ライブが跳ねた後、共演者の友人との話の中、友人が言った「体当たりで音楽やり続けたら、死ぬよ」の言葉が忘れられない。

俺もこの意見には100%同意だ。しかし、現実には、彼も俺も今死んではいないのだ。だから俺たちのこの意見は、直感と推測の結果である。いやもしかすると、彼はそれを体験しているかもしれぬ。というか、おそらくそうであろう。それでなければ、あんなに心揺さぶるドラムが叩けるわけがない。(そのことをおくびにも出さないところが、彼の魅力でもあるのだが)

俺がサイドプロジェクトを始めるのも、これが理由である。10年前これを作ったことはすでに書いた。その過程で起きたことである。今でもはっきり覚えている。いつものようにヴォーカルを何十トラックも歌っては没にして、さて帰ろうとなった時、俺は階段から転げ落ちた。蒲田行進曲ばりに落ちたのである。うめきながら立ち上がって、これが「ハイ」というものかと思った。あの時俺は「これが潮だな。明日は、今までの積もった留意点を全て気にかけず、感じたまま歌おう。そして、これで終わりにしよう」と思った。

留意点のパートは、当たりであった。俺は次の日、1テイクでその曲のヴォーカルを上げた。そしてその後何曲か作った。全てヴォーカルは悪くて数トラックで仕上げた。

一方、これで終わりのパートは、後悔が残った。外部(資金面)の障害があったこともそうだが、「潮だ」と思ったこと自体により大きな後悔が残った。同時に、「俺は本来明るいやつだったはずではないか?明るい音楽をやりたい」と思って今のロックになったというわけだ。

そして今、俺は再び沈降している。断っておく。これは忘備録である。決して諸兄のお涙を頂戴するのが目的ではない。書かないと、後になって自分が思ったことを確認できない、後があればの話だが。

尊敬するスキップ・ジェームズは、極度に荒んだ環境の中、持て余した悲しみをブルースにして歌った。それは彼の望んだものではなかったろう。荒んだ環境は彼のせいではない。その歌に、情緒に、俺は憧れる。しかし俺は彼ほどの荒んだ環境にはなかった。だから自発的に、荒んだ環境をを作った。これは偽善である。分かっている。分かっているが、オレはジェームズの後継者になりたい。そうなりたいのなら、彼の流儀に倣わなければならない。偽善者の汚名を被ってでも、である。そして話は前述の友人の言に戻るのである。

音楽は悪魔である。そのことを俺は、10年前に知った。友人もそのことを、多分知っているだろう。悪の魅力に惹かれてしまった不幸を、である。バンドが一定の軌道に乗り、俺はもっと、自分の声にある方向での深みを持たせたかった。その時、10年前に感じたことが蘇った。あの時のことは、絶対現状のブレイクスルーになる。サイドプロジェクトを始めた、もう一つの理由である。

俺もまた不幸な人間の一人である。彼のドラムは、楽しい。楽しいが、決して気楽ではない。俺もそうありたい。毎日が辛いが、それが道である。



新しいサイドプロジェクトは、名を
FAKE  ID(フェイク・アイディー)
という。最近知り合った友人と始める。彼は「曲が体に入ったら、練習を始めましょう」と言った。この一言だけで、俺は彼を信用できる。→とは全然違う音楽だが、これはこれで味となろう。先述した通り、この体験がまた、→に新たな深みを加えることにもなろう。そして、こういう打算があるところ、やはり俺は偽善者なのだろう。

FAKE  ID “Honey”

https://soundcloud.com/yajirushi/honey?ref=clipboard&p=i&c=0&si=40BB4D2EA5F4427BA512BB98EC044C34&utm_source=clipboard&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing

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