『薔薇物語』を読む。(第二回)
「『薔薇物語』を読む。(古フランス語入門)」の続きです。前回は入門編ということで気持ち丁寧な説明を心がけましたが、今回からは沢山更新してゆけるように、解説はすこしシンプルになっています。不明な点などございましたらコメントください。
原文
Quiconques cuide ne qui die
Que soit folor ou musardie
De croire que songes aviegne,
Qui ce voldra, pour fol m'en tiengne ;
Car endroit moi ai-je fiance
Que songes soit signifiance
Des biens as gens et des annuiz ;
Car li plusors songent de nuitz
Maintes choses couvertement
Que l'en voit puis apertement.
大意
夢が実現するなどと信じることは、狂気じみて馬鹿げているなどと思う(言う)ものは、お望みならば、私を狂人として扱うがよい。というのも私には確信がある。夢はというのは人々の幸不幸を知らせる予兆であると。なぜなら多くの人々は夜に様々なことを——隠れた形で——夢に見るのである。そしてそれは後になって明らかとなり彼らの目にするところとなる。
解説
Quiconques cuide ne qui die
cuide ; cuidier の三人称単数・接続法(?)現在
ラテン語 cogito に由来する語。「思う」の意。
ne = et / ou / ni
qui = celui qui
die = dire (接続法現在)
「(que...)と思ったり言ったりするものは誰でも」
Que soit folor ou musardie
De croire que songes aviegne,
動詞は soit で非人称だと思われます。
folor ; fol の派生語で folie の意味だと思います。
musardie = 1. Folie, bêtise 2. Étourderie 3. Fainéantise
songes ; s は主格を表す?
aviegne ; 三人称単数・接続法現在
「夢が実現すると信じるのは狂気の沙汰である」
* songes aviegne のところは songes を主語にとりました。
Qui ce voldra, pour fol m'en tiengne ;
ce (ço) = cela
voldra = voudra
Qui ce vodra は「お望みなら」くらいの意味でしょう。挿入かな?
tiengne は三人称単数・接続法現在
tenir A pour B
Quicunques (qui) を主語にとって「私を狂人扱いするがよい」
en は「そのことによって」?
Car endroit moi ai-je fiance
Que songes soit signifiance
Des biens as gens et des annuiz ;
endroit moi = quant à moi「私としては」
fiance = confiance
「(que...)という確信を持っている」
songes が主語。男性名詞なので単数主格に -s がつく。
Des biens ... et des annuiz (enuis)「良いことと悪いこと」
enui は現代の ennuyer から想像されるように「苦しみ」の意。
as gens;as は à + les;signifiance に掛かる?
Car li plusors songent de nuitz
Maintes choses couvertement
Que l'en voit puis apertement.
li plusors = la plupart;li は男性主格の定冠詞。主語だと分かります。
le, lo art. masc. sing. cas régime, li cas sujet, les plur. cas régime, li plur. cas sujet (Le Dictionnaire de l'Ancien Français, A. G. Greimas, Larousse, 2012)
songent が動詞。li plusors が複数だと分かります。
voir と apertement の因果関係についてはちょっと分かりません。「見えた」から「明らか」になったのか、「明らか」になったから「見えた」のか……
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