見出し画像

左派vs中道派 民主党は内戦に突入か

バイデン大統領候補の受諾演説で終わりを向かえた民主党の党大会は「打倒トランプ」を前面に打ち出したものだった。オバマ元大統領、クリントン元国務長官などといった民主党の重鎮らはトランプ氏の感染症対策、人種問題への対応に対して辛辣な批判を繰り返した。また、民主党はコリンパウエル元国務長官、ジョンケーシック前オハイオ州知事といった共和党員を党大会に呼ぶことで、政治的な分断を助長させるトランプ氏への不満が党派関わらず存在し、バイデン氏こそがその分断を是正することができる人物だということをアピールしようとした。

政策マニアである筆者の個人的な見解として、党大会では民主党からの具体的な政策の提示が見られなかったため、物足りなさを感じた。しかし、党大会の一番の目的は自らの党の既存の支持者の熱狂度を高めて、選挙に行ってもらう意志を確実なものにすることが根底にあるため、その点では今回の党大会は目的は果たしたのではないかと考える。

しかし、民主党の結束力を示した党大会であったと同時に、大統領選以後の民主党という党の中に存在する対立の火種を垣間見ることができた党大会でもあった。また、対立の火種はサンダース氏とケーシック氏によるバイデン氏の評価の仕方の違いが浮彫りにしたと筆者は考える。

そして、その違いはあまりにも大きい。ケーシック氏はバイデン氏が左派的な政策を実施する「急進的」な候補ではなく、共和党支持、無党派層関係なく一票を投じることができる候補だと評した。一方で民主社会主義者を自称するサンダース氏はバイデン氏が大統領になれば、最低賃金は15ドルまで上がり、15年以内に再生可能エネルギーの大幅な導入をすすめると明言し、自らの支持母体である熱狂的な左派層、若年層に対してバイデン氏がいかに「進歩的」な候補だということを強調しようとした。

どっちの人物が適格にバイデン氏、バイデン氏が率いる民主党の姿を描写しているのだろうか?

奪われた大統領候補の椅子 

ひとつ言えることは民主党の幹部らはサンダース氏が急進的すぎると思っており、彼ではトランプ氏に勝てないと思っていたということである。

今ではバイデン氏が2020年の民主党の顔として注目を集めているが、民主党の予備選の勝者を事実上決定した3月3日のスパーチューズデー直前までは、ほとんどの人がサンダース氏こそが大統領候補の座を確実なものにすると思っていた。

バイデン氏は予備選の序盤戦であった、アイオワ州、ニューハンプシャー州で惨憺たる結果に終わり、そのことからバイデン氏の資金提供者が彼を見限る寸前までいき、予備選からの撤退もささやかれた。

バイデン氏のパフォーマンスが良くなかった最も大きな理由は彼と政治信条が似ている、中道派と目される候補が予備選で乱立していたからである。名前を挙げると、アイオワ州でサンダース氏と並んで一番多くの選挙人を獲得したブデイジェッジ氏、地元であるミネソタ州の予備選で勝利を確実視されていたクロブチャー氏、元共和党員で大富豪であるブルームバーグ氏といった面々である。いくら副大統領を8年間務めたバイデン氏であっても、こんなに思想、政策が似ている候補が並んでしまったら勢いを削がれるのも当然であった。
 
そして、この中道派の乱立がサンダース氏の漁夫の利となり、他の候補の支持率が伸び悩む中で、熱狂的な支持者のおかげもあり、支持率、選挙人の獲得数で他候補をリードしていた。

しかし、民主党の予備選の雌雄が決するスーパーチューズデーの直前に異変が起きた。中道派の候補が次々と撤退を表明していったのである。まず、3月1日にクロブチャー氏が正式に予備選から撤退を表明し、次の日にはブデイジェッジ氏も同様のことをした。これによって、形勢は一気に逆転した。

人気のある中道派の候補が二人も離脱したことは、バイデン氏にとって大きな追い風となり、バイデン氏は完全に生き返る形になった。そして、結果的にスーパーチューズデーで大勝利を収めた。

だが、中道派の分裂によって得をしていた、サンダース氏にとっては悪夢であった。目に見えるところまで近づいていた大統領候補の地位がバイデン氏にかっさわれた形になったからである。

ちょうどこの頃、現地で民主党の予備選を追っていた筆者はあまりにもいろんなことが数日間で起きたせいで困惑していたが、今になって考えると中道派の突然の撤退はサンダース潰しの一貫であったと考える。

そして、繰り返しサンダース氏が大統領候補となることを不安視する声党内からあがっており、2016年の選挙戦でもサンダース氏の勝利を組織的に阻もうとする動きが民主党内で起こっていたことを考えると、筆者の仮説が全くの的外れのものではないことが容易に分かるであろう。


余裕が見られるバイデン陣営

民主党が有力な候補を無理やり撤退させてまでバイデン氏を勝たせようとした最も大きな理由はサンダース氏と比べてトランプ氏に勝てる確率が高いからである。

アメリカでは20世紀を通じてソ連率いる社会主義国と対峙しており、それらの勢力とあわや戦争になりかけたことから、歴史的な理由から未だに多くのアメリカ人が「社会主義」という言葉を嫌悪するきらいがある。

そのため、何が何でもホワイトハウスを取り戻したい民主党にとっては、自分を社会主義者だと自称し、世論の大半が受け入れない候補よりかは、党派にかかわらず人気があり、且つ穏健的だと目されるバイデン氏が候補である方が望ましいはずである。

しかし、いくらサンダース氏が候補として適格ではないとしても、彼の支持者(左派層、若年層)は絶対につなぎ留めておく必要がある。そして、2016年のヒラリー氏の敗因の要因のひとつがサンダース氏の敗戦に幻滅した支持者が投票をしなかったことだったと考えると、2020年も同じようなことが起きても不思議ではない。

だが、最近のバイデン陣営の動向を見ているとサンダースの支持者を軽視?しているのではないかと思うことがあった。

ハリス氏を副大統領候補に指名したことである。ハリス氏の指名が決まってからトランプ大統領は連日ツイッターで、いかにバイデン氏とハリス氏のコンボが急進的であるかを糾弾しており、あたかもハリス氏の指名がサンダース氏の支持者にアピールするためであったかのように思わされる。しかし、トランプ氏の批判は残念ながら的外れなものである。

なぜなら、ハリス氏、そしてサンダース氏の支持層は全く違うものである。まず、ハリス氏の支持層はバイデン氏と被っている。この二人の支持層は高学歴層、黒人層が中心であり、両方とも民主党の中道派を代表する候補である。そして、それもあってか、ハリス氏はバイデン氏と同様に多数の中道派候補の乱立により勢いを削がれ、去年の段階で予備選から既に撤退している。また、統計によると多くの有権者はバイデン氏とハリス氏は中道派であると答えた。

一方でサンダースの支持者である、左派層や若年層は生活に困窮している、または不安を抱えている人々によって構成されている、そして、その状況を改善するためにバイデン氏が主張している穏健的な政策ではなく、社会構造を大きく変えるサンダース氏の急進的な政策を好む。

そして、このような差があるからこそ、バイデン氏は自分と似ているタイプの候補ではなく、サンダース氏に近い考え方を選ぶ必要があったと筆者は考える。

そして、その差を埋める努力をしなければ左派が中道派に軽視されていると感じてしまい、後々禍根を残すことに繋がりかねない。

しかし、情勢がバイデン氏に有利になっているからなのか、中道派であるハリス氏が副大統領候補の指名を受け、サンダース支持者からの票を積極的に取りに行く気配はバイデン陣営から見られない。


トランプという共通の敵が消えたら、、、

今まで述べてきたように、民主党内にはサンダースを代表する左派層、そしてバイデン氏を代表する中道派という大きな塊が二つある。そして、民主党の党大会を見る限りでは、主張、信条関係なく、民主党は一体となって大統領選に臨む準備が出来ているように思える。

だが、民主党がトランプを倒して、現在優勢と言われている議会選でも勝利すれば、党内に存在する二つのグループの軋轢が表面化する可能性がある。

そして、その軋轢が問題になるのかどうかは民主党の主流であるバイデン氏も含めた中道派がどのようにして左派を扱うかにかかってくる。バイデン氏が率いる民主党ははサンダース氏が望んでいるような社会主義的な政策を実施するのだろうか?はたまた、安定的な政権運営を行うためにケーシック氏が述べているような現状維持に近いような政策を打ち出すのであろうか?

民主党内に潜む対立の火種は、新たな分断を生じさせる可能性を持っている。


参考文献



https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56305430T00C20A3000000/


https://www.wsj.com/articles/john-kasich-vs-bernie-sanders-11597793061



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?