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『ちはやふる』とわたし

8月1日発売の「BE LOVE」2022年9月号をもって、末次由紀先生の描く『ちはやふる』が15年の連載に幕を降ろします。

普段は単行本派の私ですが、最終回はリアルタイムで読みたい。そう考え、単行本48巻の続きとなる「BE LOVE」2022年8月号を購入。そして本日9月号をこれから入手してきます(このために有給をとりました)。

しかし、まだ48巻と本誌8月号は読めていません。最新刊を読みたい気持ちはあるのですが、大好きな作品が終わってしまうのが本当につらくてさみしい。1〜47巻までを3回くらい読み返しながら、この名作が終わってほしくないという感情と、千早たちの「かるた」にかけた青春の最後を見届けなければいけないという決意がごちゃまぜになった状態で、この日を迎えました。

というのも、わたしの青春も『ちはやふる』と共にあったと言っても過言ではないからです。感情の整理もかねて『ちはやふる』との出会いを振り返らせていただければと思います。

『ちはやふる』との出会い

『ちはやふる』と出会ったのは私が高校生の頃。当時の私はだいぶ荒んだ気持ちで高校生活を送っていました。

わたしは高校受験に失敗し志望校をものの見事に不合格をくらいました。志望校は憧れの先生の卒業校であり大好きな先輩の在籍校。市内ではそこそこの優秀校で部活も活発。素敵な先輩や仲間と勉強も部活も頑張って、楽しい高校生活をエンジョイしたいという一心で勉強に励んでいました。

しかし、入試で玉砕。忘れもしない受験当日、最終科目は数学。数学はただでさえ苦手としていたのですが、最終問題として出題された図形問題。これがびっくりするほど解けない。試験終了の合図がかかった瞬間、「これは落ちた」と確信しました。そして家に帰り布団の中で大号泣。中学卒業後の春休みも外に出る気も起きず、部活の追い出し会も欠席。まじでなにもやる気がしませんでした。

というかショックのあまり当時の記憶があまりない。唯一覚えているのは、当時のわたしはおおいに落胆し自分に失望していたということ。

そうはいっても時は過ぎていくもので、滑り止めの私立高校に入学。いろいろなことにやる気のなかった私は、勉強も遊びもそこそこになんとなく日々を過ごしていました。

そんなとき、地元住人御用達のスーパーマーケットであるヨークマートの雑誌棚で目に入ったのが「BE LOVE」の2008年2月号。きれいな女の子が着物を着ている表紙。その絵には見覚えがありました。末次由紀先生の絵です。思わずその雑誌を手にとりました。

もともと、わたしは末次由紀先生の人形のロボットと真っ直ぐな性格の女の子の交流を描いた作品『Silver』が好きだったのですが、諸般の事情で打ち切りとなったことをまさに高校受験当時に知りました。

その後、時間を経て末次先生がまた作品を描き始めた。そのことがとても嬉しかった記憶があります。そしてなんとなく、自分もいつまでも落ち込んでいてはいけないな、と感じました。

そしてその出会いから15年間、発売日当日に単行本を買い、わくわくしながら読む日々が続いたのです。

大学受験のときも一緒に戦った

そうこうしているうちに大学受験が近づいてきました。高校受験のトラウマを克服すべく勉強に打ち込みます。

平日の授業以外の時間は朝から晩まで自習室に籠もり、休日は朝イチで地元の図書館に並び自習席を確保し、閉館時間ぎりぎりまで居座って勉強を続けました。

大好きな漫画や読書も絶ちました。小学校の頃にどハマりし、ホグワーツ校歌が歌えるぐらいにまで読み込んだハリーポッター。最終巻が出るタイミングと受験時期が見事に被ったため、受験が終わるまではと読むのを我慢しました。

ただ、『ちはやふる』だけは、私を支えてくれる気がして受験期間中も最新刊を買って読んでいたのを覚えています。

英語がどうしても苦手で、ただ親にもなるべく金銭的負担をかけたくないと考え、中学時代に通っていた塾の先生に頼み込み、月謝1万円で英語の指導をお願いしました。小中学生しかいない塾の空き教室を借りて、ひたすらに英語の問題集を解く日々。

『ちはやふる』の最新刊が出た12月、塾に早めに着いて、勉強前の15分だけ『ちはやふる』を読む時間に充てました。夕暮れの教室で、隣の教室では小学生がにぎやかに授業を受けているなか、オレンジ色の表紙の『ちはやふる』を読みはじめる。端沢高校かるた部が東京代表を目指して勝ちに向かって邁進している姿を応援しながら、自分も頑張らなきゃと鼓舞した記憶があります。

大学受験は見事第一志望群の学校に合格しました。ちょうどその時、千早たちの端沢かるた部も全国大会出場を決めていました。めちゃくちゃ感極まったのを覚えています。

漫画で読めるのは千早たちの人生の一部

その後も大学生活、就職活動、社会人の第一歩を踏み出す時も、ずっと『ちはやふる』と共にありました。社会人になると学生の時に比べて、多くの人と出会い、それに伴い負うべき責任も増え、自分の世界がどんどん広くなっていくことを感じます。社会に参加している意識が強くなる、という感じでしょうか。

私たちが成長するように、『ちはやふる』も巻数を重ねるごとに成長し、千早たちの世界もどんどん広がるのを感じました。高校3年生になった千早や太一、新は自分の将来のことを考え始め、新たなつながりを作ったり、仲間に別れを告げたりとその関係性も変わってきます。

私の中で印象的だったというかびっくりしたのが、クイーン若宮詩暢(わかみや・しのぶ)のYoutuberデビュー。「かるたしかない」と考えるしのぶが生きるための手段として選んだツール。

「かるたで戦う」ということだけを読み手に見せる作品であれば、しのぶちゃんの「かるたしかない」「かるたのプロになる」という葛藤にそこまで焦点を当てる必要はないように感じます。だって、「かるたしかない」というのは、競技かるたの漫画において、もっとも重要な存在意義。ラスボスとして主人公の前に立ちはだかるという重要な役目があるからです。

でも、日々の生活を送るのであれば、現代においてかるたは生計を立てるための手段にするのはまだ難しい。実際に、現実世界の競技かるたの競技者の多くは、プロとして収入が発生する囲碁や将棋などと違い、本職が別にあることが多い。

しのぶちゃんは自分の人生を歩むにあたって、「競技かるたしかない」という事実は重要な問題で、実家からきちんと独立して生活していくには、生計を立てる手段を考えなければいけない。不器用なしのぶちゃんが「仕事が作りたい」、そう言って戦う様子が描かれています。

そしてしのぶちゃん以外にも、千早のかるたの師匠の原田先生や、チームメイトのかなちゃん、肉まんくん、机くんたちにも人生がある。彼らが表紙を飾るのだって当然だし、もっと言えば誰だって、漫画になるくらいのストーリーを持っていると思う。社会の中で毎日必死に生きる私たちと同じように、登場人物ひとりひとりにバックボーンがあって、生活がある。

『ちはやふる』ではかるたの選手はもちろん、先生や読手にだってそれぞれの生活に物語があって、『ちはやふる』という作品において千早の目線で物語が進んでいくけれども、千早が挑む試合のひとつひとつにまた別の人の思い入れがある。

この作品の魅力は、登場人物ひとりひとりの厚みのある人生が描かれていることだと思っていて、作品に出てくる登場人物の一部分を漫画を通して読ませてもらっている、という感じ。だから登場人物のそれぞれにスポットライトを当てても、みんなの物語が見えてきて、そしてその背景にある想いを知ることができる。

正直、40巻目以降はありとあらゆる人の物語に感情移入し過ぎで、涙腺が大変なことになっている。最終巻に向かっての名人・クイーン戦なんてもう、様々な人々の想いが交錯していて本当に涙なしでは読めません。

ちはやふる展

ちはやふる展の入り口に飾られていたパネル。美しい……。

2022年の年明け、銀座松屋で開催された「ちはやふる展」に満を持して行ってきました。これが本当に、『ちはやふる』の集大成を飾るめちゃくちゃ良い展示会でした。『ちはやふる』を愛する全人類は見に行くべき(主語がでかい)(これから九州や名古屋、神戸、島根でも見れるよ)。

生原稿がもうめちゃくちゃ綺麗!美麗!しかも驚くべきことに末次先生が下書きなし一発書きで原稿にペン入れをしているという事実……。天才では?

また、千早たちが実際に試合で配置した札が並べられており、これにすごく千早たちの存在を感じた。たぶん千早は実在する。そしてこの札を並べて試合をしたんだと思う。

高校選手権団体戦三位決定戦の初期配置 綿谷新 vs 綾瀬千早

それくらい、『ちはやふる』の世界は作りこまれていて、展覧会では登場人物ひとりひとりの息遣いが聞こえてくるんじゃないかと思いました。さっき『ちはやふる』の登場人物ひとりひとりに物語があるって書いたけど、それを改めて実感したんです。本当に彼女たち・彼たちは実在するんだと思う(2回目)。

そして、それをひしひしと感じるほど、末次先生の『ちはやふる』にかける情熱と愛情を感じました。展覧会の最後に、末次先生のインタビューがあるんですが、末次先生が涙ながらに千早たちの物語に対する想いをお話されていて、見ていた私も号泣してしまった。

だって私も15年間、千早の物語と共に歩んできたんだもん。もはや千早は私の家族の一員。千早だけじゃないな。『ちはやふる』に出てくる人たち全員私の家族なんですよ……。

おわりに

さて、文章も終盤にさしかかりました。終わったら、最新号を買いに出かけます。そして最終巻まで一気に読み進めたいと思います。

でもまだ心の準備が……。名人戦・クイーン戦の結末、どきどきするな……。千早と太一と新の関係はどうなるのかな……(ここでは書きませんでしたが、わたくし、太一に相当に重い感情を抱いているので、本当に彼に報われてほしいんだ……幸せになれ太一……)。

「ちはやふる展」の最後で、末次先生は以下のように語っておられます。

物語の最終版に、ちはやふる展を開催できたことも、またあなたの近くに来られたことも
ハグ100回したくなるくらいの喜びです。
ちはやふる展に足を運んでくださってありがとうございます。
あなたと共有できたこの物語の足跡を、どうかもう一度なぞって、消えない足跡にしてください。

ちはやふる展 公式イラスト集 最終ページより

高校の頃、本当に『ちはやふる』と出会えてよかった。

今まで何度もこの作品に救われたし、感情を揺さぶられました。そして千早たちの世界を創って、その一部を『ちはやふる』という作品を通して私たちに見せてくれた末次先生にめちゃくちゃお礼を言いたいのです。

とにもかくにも、こんなに素晴らしい作品にリアルタイムで時をともにできたことを本当に幸せに思います。何度も何度も読み返して、なぞって、きちんと消えない足跡を私の中に残しています。

末次先生、15年間本当にありがとうございました。

むしろ私が300万回くらい、ハグしに行きたいです(重い)。


※ちなみに末次由紀先生が協賛する「ちはやふる小倉山杯」では、「強くなるためにたくさんの情熱と努力を重ねてきた選手の皆さんを応援する」という想いから、ちはやふる基金から副賞として賞金が授与されます。しのぶちゃんも参加する未来が見える。


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