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第25話 不動産契約時の重要事項説明書と売買契約書はどんな意味があるの?


【登場人物】

〇藤堂さおり(32歳)・・主人公
大学職員として勤務している。夫の啓補は警視庁勤務。
気が強く、はっきりと言うタイプ。地図が好き。初めての住宅購入に向けて、不動産業者だけの話では納得いかず、FP事務所に相談へ行くが・・。

〇神崎勘太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所所長
CFP認定者、1級FP技能士、宅建士。「脱カモ」サポートをモットーに、龍太と二人でFP事務所を切り盛りしている。

〇藤堂啓補(34歳)・・さおりの夫。
警視庁勤務。素直で人を信じやすく、そのせいで営業マンのトークに乗せられやすい。基本的におっとりした性格。

〇神崎龍太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所 勤務 宅建士。
不動産業界での経験を活かしながら、勘太のサポートをしている。無口で勘太とは体型含めて正反対。

〇G不動産 花積亮介(36歳)・・勘太の高校の同級生、親友。    勘太のFP事務所と連携して、不動産事業を行っている。

前回までのあらすじ。

主人公の藤堂さおりと、夫の啓補。ある日夫の啓補が気に入って一気に購入しようとしていた建設予定のマンションがあった。そんな展開に不安なさおりはFP(ファイナンシャルプランナー)の無料相談をきっかけに、その物件の調査依頼をした。災害に弱い危険な立地であることを理由に購入をやめるように勧められ、実際にその建設予定地は後日台風で冠水してしまった。それがきっかけで、2人はここのFP事務所の住宅購入サポートプランを申し込む。それから、様々なレクチャーをしてもらいながら物件探しをするが、気に入った物件は、再建築不可だったり、FP事務所の龍太同行で他社不動産紹介物件も回ったが、と中々うまくいかない。しかし、やっととある中古戸建て物件を気に入り、申込むこととなった。銀行の仮審査や、住宅診断、契約までの準備は整い、数日後に売買契約日を控え、不安になった二人は勘太の事務所を訪ねるのだった。


第25話 不動産契約時の重要事項説明書と売買契約書はどんな意味があるの?


「いらっしゃい、いよいよ売買契約日ですな」
勘太の事務所を訪ねてから、1年と3か月くらいが経とうとしている。なんだかあっという間だな。3日後の売買契約時に持参するものなどは、花積からの連絡で確認してはいるけど、今後の流れや、その意味合いなど、初めてのことでもあるから勘太にわかるまで説明してもらいたかった。説明してもらうことによってどこか不安を埋めようとしているのかもしれない。

それに、啓補とも話していたが、ぽっちゃりした勘太のあっけらかんとした雰囲気は、どこか会話していて安心してくるような感じがするのだ。啓補もこれまでのこともあり、勘太を信頼しているようだ。
 

「まず、こちらから。住宅診断の報告書ね。家が傾いていたりとか、特に問題はなさそうだったみたい」
勘太は、数枚の写真つきの報告書と6万円の請求書を渡した。
「ありがとうございます。問題ないようで良かった。まずは、銀行回りの報告からさせてもらうわ」
大手S銀行から仮審査通知を受け取ったこと。啓補が訪問した大手MJ銀行は、収入合算でないと厳しいといわれたこと。準大手銀行Rのフラット35が、当初5年間の優遇金利もあり、一番安く、現在その審査結果待ちであること。そこが通れば今回は準大手銀行Rのフラット35を一番に考えていることなどだ。
「お二人ともこの短期間によく頑張って回られましたな。その金利まで下げられれば、十分じゃないかなとも思う。金利だけじゃなくて、事務手数料や保証料なども確認しておくべきよ。」
「確かに。金利だけに目がいっていたかもしれないわ。ありがとう。でも、よかった。まだまだ!って言われるかと思ったわ(笑)」
「まぁ、正直、警視庁勤務の旦那と大学職員に勤務している共働き夫婦なのだから、よほど消費者金融とかからお金借りているとかじゃなければ、年収による借り入れ限度額とかはあると思うけれど、それさえクリアしていれば、どこの銀行も審査は基本的に通るとは思う。じゃ、銀行の方はこれである程度目途がたちそうやね。」

「次に売買契約書や重要事項説明書だけれど、どこか問題はありそうだったかしら」
「まず今回購入しようとしている土地、建物の登記謄本を法務局で取り寄せてきた。」
「あ、ありがとうございます。登記謄本って誰でも入手できるんですね」
「閲覧する分にはね。それで、契約書と重要事項説明書ざっと目をとおして何か気になったことはあったかな。」
「ざっと目を通しはしたんだけど、あれ?何これ?と思うような文言はなかったですけど。またそもそもの質問なんだけど、売買契約書と重要事項説明書ってどう違うんですか。もちろん売買契約書が契約書を交わすものであることはわかっていますけど」
「まぁ、何でも聞いて(笑)実際に契約交わしてしまったら、後戻りできないしね。今が大事。まず売買契約書は、書いて字のごとく、土地や建物の売買に関する取引に関することの取り決めをメインに記載している契約書ってこと。たとえば後でもまた話すけれど瑕疵担保責任や契約書に記載の面積と違う場合はどう対処するとか、代金の支払時期はいつにするとか、隣地との境界線はどんな風に扱うとか、担保についてはどうする、特約はどうするとか、そういうことをすべて細かく取り決め、記載したうで契約を取り交わす。」
「たしかに、瑕疵担保責任とか記載がしてあるわね。」


「その売買契約書に対して、重要事項説明書は、まぁこれも書いて字のごとくですけど、今回購入する対象物件の重要な情報を記載していますよってこと。例えば、対象物件にはどんな法規制に抵触するか、前面道路の種類とか、ライフライン(電気・ガス・水道)などね。重要事項説明書は、対象物件の売買契約にあたって事前に詳しく知るためのものだから、重要事項説明書は必ず売買契約を交わす前に、重要事項説明が実施されなければならないことになっとるわけ。」
「なるほど。契約にあたって、重要な事項を説明しておきますからね。いいですか?ってことね」
「そう、だけど実際の現場では不動産業者に何も言わなければ事前に重要事項説明書の写しを見せてくれたりすることは少ない。契約日当日の時に売買契約の取り交わしの際に、重要事項説明があり、そこで問題ないようなら契約、みたいな流れがほとんど。今回の場合だったら、売主さんも個人なわけだから、その場に同席している。その目の前で、重要事項をじっくりその場で読んで、いや今回辞めますなんてなかなか言えない」
「それがわかっていて、事前に見せないってこと?」
「見せないというか、わざわざ事前にこれです、みたいに顧客から要求がない限りは見せたりしない、ってニュアンスが近いかな。不動産業者だって、仲介料が急になくなるのは避けたいからね」
「うーむ。何だかな。色々な業界で顧客第一主義がどうの、とか謳われたりしているけど、この不動産の世界は、何かブラックというか、合点がいかないことが多い気がするわ。」
「まぁ、だからカモになりやすいとも言えるけどね。」
「ああ、だから「脱カモ」サポート宣言なのね(笑)」
私は壁に貼ってある『脱カモ』サポート宣言!の張り紙を指さして言った。初めて事務所に訪問したときは、怪訝な気持ちさえなったが、今はだいぶしっくりくる。


(第25話終わり) 次回は12月6日(日)に更新予定です。

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※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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