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爆弾みたいなラストのおすすめ短編小説


なんだこの短編は。爆弾みたいじゃないか。

短編小説を読み終わった時の衝撃があまりに大きい時、私はそんなことを思う。
ミステリーの短編の場合、短い時間の中でそれだけの衝撃を読者に与えることができるということは、もはや美しいアートのようだと思うこともある。

美しい短編小説は、この先の人生で何度も読み返し、付き合っていきたい存在だ。

人間椅子 江戸川乱歩

人間椅子は何度か読み返している。なぜ読み返すのか。真夏の夜の肝試しのように、スリルと気味の悪さを味わいたいから。

この本のほとんどは、小説家である奥様に送られてくる手紙という形をとって、語りかけてくる内容だ。

この手紙には、まるで洞窟の中をひたひたと後ろから歩いてくるような、本物の薄気味悪さが漂っている。ずっと何かが後をついてくるような。手紙であるにもかかわらず、『それ』はすぐそこにいて、私に語りかけてくるようなリアルさがある。

ラストでは、その何かが頂点に達して、私は思わず叫び出したくなった。
爆発の後には、むらさき色のドロドロしたものが出ていて、それがなぜか一瞬にして消えてしまった、そんな感覚が残った。
読後はしばらく呆然としてしまう短編だ。それでいて嫌な気分は残らない。まるで狐にばかされたような、そんな感覚が残るだけ。


かくし味 乃南アサ 
(短編集 不発弾 より)

何気なく入った古い居酒屋だったり、食堂だったり。意外なほど美味しくて、その後ちゃっかり通うようになる。

現実にありそうなストーリーだが、この小説ではラストに衝撃の事実が明らかになる。

誰にでも起こりそうなこと、日常にありそうな出来事だからこそ、なんだか明日にでも自分の身に起こりそうな気がして、ゾッと背筋が凍る。

ストーリーも短く簡潔で、けれど一度読んだら忘れられない。
まさにアートなストーリーだと思う。多くを語るとネタバレに繋がりそうなので、とにかくおすすめ!ということだけ伝えたい。


儚い羊たちの祝宴 米澤穂信


まず、このストーリーに出てくる『バベルの会』という読書サークルに私は入ってみたいと本気で思う。バベルの会のメンバーは、なかなか曲者が多くて楽しそうだ。

この短編集は、バベルの会の関係者が全ての短編に出てくる。それぞれのストーリーは別物だが、そこに『バベルの会』という共通項があるのだ。

儚い羊たちの祝宴は、まさにそのラストで集大成だという気がする。この短編集のストーリー全てが面白いが、このラストの1作が私のお気に入り。

登場人物が10代のフレッシュな顔ぶれが多いのも良い。それぞれの苦悩や事情があり、読んでいると感情移入してしまう。

もちろんラストにどんでん返しのサプライズが待っている。
けれどなぜだろう。私は読後は爽快感を感じた。

週末の午後にでも、ゆっくり読みたい作品だ。

短編集はサクサク読める

日々の忙しさに追われている時でも、短編集ならサクサクと読むことができる。
「短編でも読んでみるか」という気軽な気持ちで読み始めたら意外とハマって、「この作家の長編も読んでみたい」と思うきっかけになることもある。

私は爆弾みたいなラストの短編も好きだが、穏やかなストーリーの短編も好きだ。最近では村上春樹の『女のいない男たち』を読んだ。一番好きだったのは『木野』というストーリー。

これからも忙しい日には短編をサクッと、読んでいきたいと思う。

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