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Damian 6

 5人目のダミアン・サンダースはアイルランドの山羊飼いだ。彼は父親と共に小さな農場を経営し、人との接触を避けて暮らしてきたらしい。時折嘶くような声で叫び、その音で山羊を集める。それが日課の男だった。彼が失踪したのは、3日ほど前らしい。SNSの投稿を翻訳し、俺はそう結論付けた。
 1人目はニューオリンズのトランペッター。2人目は釜山に住む外国人留学生。年齢も顔も背格好も全く同じ『ダミアン・サンダース』という男が世界中に偏在していて、こいつはその5人目らしい。床に転がるそいつの顔を確認すると、隣に並ぶ連中と全く同じだ。俺はそいつの瞳孔から目を逸らし、黙考する。何故だ?

 この部屋には5人の死体がある。長期出張を終えて帰ってきた俺のワンルームに、見慣れない外国人の死体が積み重なっているのだ。慌てて警察に通報し、到着を待つ間も思考は巡り続ける。俺が捕まるという不安よりも、この状況をなんとか理解のできる形にしたいという感情が勝った。
 ここは日本だ。なぜ世界中のダミアン・サンダースがここに来て、重なるように死んでいる? 血痕が五芒星を刻み、奴の瞳は山羊だ。脳裏に浮かぶ不吉な想像を切り裂くようなサイレンで我に帰れば、安心感が高まっていく。

「無駄だよ。アンタはハメられたんだ」

 死体の一つがケタケタと嗤う。異常な状況がもたらす幻聴だ。そうに違いない。

「召喚は為された。来るぞ」

 チャイムの音。ドアスコープ越しに映る警官の制服を確認し、俺は慌ててドアを開ける。

「た、助けてください! 死体が……?」
「キキキ……キキ……」

 二人組の警官は、嗤っていた。制帽の下は無貌で、暗闇に口だけが浮いている。無貌警官は制帽を脱ぐと、その首は回転し、

 ———無惨に刎ね飛んだ。

「邪魔をするな、僭称者」

 5人目のダミアン・サンダースが起き上がり、嘶く。その顔貌は、捻れた山羊の頭部めいていた。

「6人目はお前だよ、ダミアン」

【続く】

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