MIKE - マイク・タイソン (Disney+ドラマ)

今回は、"許すまじクソ映画"ではなく"許すまじクソドラマ"。
Hulu制作、日本では今や天下のDisney+配信のマイク・タイソンの半生を描くドラマ『MIKE - マイク・タイソン』。

マイク・タイソンとは、80年代後半から90年代にかけて一世を風靡したヘビー級ボクサーで、そのキャラクターも含め当時の世界的スーパースターだ。今で言うところのフロイド・メイウェザー.Jrの上位互換といったところか。ボクシングの豪快な試合だけでなく、私生活も良くも悪くも豪快だっただけにその半生をドラマ化したと言われると長年格闘技を観てきた者としては、観ざるを得ない作品だった。つまり、期待はそれなりに大きかったということだ。

しかし、蓋を開けてみれば内容は散々たるものだった。まずその内容の薄さ。現在56歳でマイク・タイソンの超絶濃厚な幼少期から現在までを1話=約30分×8話で描くこと自体に無理がある。

1話ごとにトピックを変え話を進めるが、そうなるとたった30分で数年分の出来事を展開させる必要があり、必然的に各話の内容は浅くなる。しかも、そうやって時間を進めることに重心を置いた為に"第四の壁"を越えるという手段を取ったのも大きな過ちだった。話を進める為に必要な説明が、この壁越えによってなされた為に観る側は早送りでその場面を見せられたかのような感覚に陥り、内容に対する没入感は完全に損なわれてしまう。例えばそれが2時間の映画で数回行われるのであれば問題ないだろが、たった30分で何度も行われるとただストーリーを追っているだけで、あっという間にエンディングを迎えることになる。

さらに壁越え同様に大きな過ちとなったのは、全編を通してマイク・タイソンが、ステージに立ち自分の半生を振り返る講演をしているという設定にしたこと。これが冒頭だけならまだマシだが、この講演シーンが何度も挿入されるのだ。その度にドラマは分断され、観る側はここでも内容に没入することが出来なくなる。ここまで来るともう目も当てられない。

さらに最悪なのは、肝心な試合のシーンだ。スポーツもので最重要と言ってもいいシーン、それは試合、ゲームのシーンだろう。それは、音楽ものにおけるライブのシーン同様、観る側を熱くさせる為の最も重要なファクターだ。同じHulu制作でDisney+配信の『Wu-Tang Clan - American Saga』。これは、ヒップホップグループ、Wu-Tang Clanの結成から成功、その先を描くドラマだが、このドラマの最大の魅力は、ライブシーンとのちに名曲となる数々の楽曲の制作過程をドラマチックに、かつリアリティをもって描いた点だ。しかし、『MIKE - マイク・タイソン』の場合は、どうだ。試合どころか、そこに至る過程は一切描かれることなく、試合はナレーションとKOシーンのみ。もはやダイジェストですらない。これを見せられて誰が一体熱くなるというのだ。同じボクシングものの最高傑作『ロッキー』シリーズで最も熱くなるのは、ロッキーが死に物狂いでトレーニングに励み、リングの上で闘う姿だ。観客が観たいのは、そういうシーンだ。『MIKE - マイク・タイソン』には、そういったシーンは一切出てこない。

挿入されまくる”壁越え”と”講演”、そして最大の欠陥であるオブラートより内容の薄い試合とその前後(その前後はそもそも描かれていない)。これらが、『MIKE - マイク・タイソン』を許すまじクソドラマに仕立て上げた要因と言って間違い無いだろう。これを1話60分×10話の3シーズンで描くならもっとまともな内容になったかもしれないが、1話30前後×8話のリミテッドシリーズで進めた時点でこのドラマの仕上がりは、目に見えていたのかもしれない。許すまじ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?