久しぶりに、ライブを終えて

1

 久しぶりのライブを終えて、おそらくは今までで最も強い、悔しさというか後悔というか、そういう気分に襲われている。


 久しぶりなだけに、演奏面でも期するものがあった。可能な限り練習時間を作り、基礎力の向上に努めた。自分のこれまでの限界を打開するため、新しいマウスピースを購入もした。
 これを機会に、次回にもつなげることができるといいと思っていた。それは演奏面での自信だけではなく、集客に関しても言えることだ。

 けれども、実際にやってみて、主観としては演奏での手応えはあまりなかった。
 練習での唇の疲労が本番まで回復せず、演奏開始直後に楽器を口に当てたときの感触は「あ、これはまずい」という違和感だった。徐々に楽器と口が馴染んできたとはいえ、終始安定感のない演奏に終わってしまった。
 やりきったという感覚は、ほとんどなかった。


 ただし、終わってみて思ったことは、「もういい、これで終わり」ではなかった。そうではなく、「このままでは終われない」という思いばかりが頭の中で回っていた。こんな下手な奏者だと思われたままでいいわけがない。下手なのは確かだが、下手なりにもっとできることはあったはずだ。ただ普通に下手だと思われて終わりなのであれば、今までやってきたことはなんだったのか。

 このままでは終われない。これが、今の自分の思いを最もうまく表している言葉だ。
 こうやって、またしてもハマっていくのだろうか。


2

 終われないとして、それでおしまいというわけでは、勿論ない。
 今回はお客さんもそれなりに入ってくれた。配信経由でドネーションに応じてくれた人もいた。自分基準としては上出来と言っていい。でも、次にまた演奏するときに、同じようにできるか。同じお客さんが次回に来てくださる保証はないし、ならばどうやって潜在的な顧客にアピールすればいいのか。

 そういうことを考えたくないから、人前で演奏するのをやめようと思っていたのに。


 でも、ちょっとだけ、そういうことも考えようかと思っている。
 ただし、のべつ考え続けることはできないから、ちょっとだけ。だから、そういうことを考えなくてはならない機会も、そこまで多くしない。できるだけ負担にならないように。
 そして、ちょっとだけ自信を持って、「聴いてください」と言えるように、もう少し自分を鍛えたい。自分のやっていることは、一流ではないかもしれないけれど、それなりに悪くないものですよ。こういうの好きな人、たぶんいますよ。そう言い続けたい。今までだってそう思ってきたけれども、それをもう少し。
 ただし、辛くならないように。自分を追い詰めないように。背負いすぎないように。

  そのために、技量をもっとあげないと。


3

 今回、新たに発見したことがあったとすれば、自分に関心を持ってくれたり、どんな形であれ自分を認めてくれたり、そういう人は少ないとはいえ、ゼロではないということ。それは今回のライブだけではなく、ここ数ヶ月さまざまな形で感じたことだ。
 だから、過剰に自分を卑下する必要もなければ、過剰に自分を受け入れてもらうような努力をする必要もない。単に他人に対して、そして何より自分自身に対して誠実であれば、それでいい。自分は今のままではいけない、もっと努力しなければならないと、現状での自分を無闇に否定する方向に向かうことのほうがよほど好ましくない。

 僕はもう少し、他人を信用していいのかもしれない。
 そして、僕は僕なりの努力を続ければ、それでいい。いや、それを「努力」という言葉で表現するのは本意ではない。だって、それは、自分を変えようとする試みなのではなく、本来あるべき自分を取り戻そうとすることなのだから。

 僕は僕のいるべき位置を見失わなければいいのだ。


 そこさえ見失わなければ、僕に関わりを持てる人は、どこかで見つかる。あるいは、忘れていたとこから再度現れてくれる。全てを分かり合うことは難しくても、互いにほんの少しの何かを与えあう程度の関係は、おそらくまだ作ることができるかもしれない。そして、その機会があることを信じていればいい。それさえ信じられれば、不得手な営業活動も、一筋の光が見えてくる。
 それを感じることができたことは、自分の演奏に対する大きな不満を補ってあまりある。


 反対に、僕を必要としない人は、僕からも必要としなくていい。
 自分の中にある不信感を打ち消してまで、和解する必要もない。
 今までもそうだったけれど、これからもそれでいい。



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