関西写真動向2020・第一四半期レポ 文:タシロユウキ

関西写真動向2020
第二四半期レポ
第三四半期レポ

自己紹介など

皆様こんにちは。初めまして。タシロユウキです。

この2020年、四半期ごとに関西(京阪神)の気になった展示などをレポートしていきます。できるだけ関西固有の企画を取り上げますので、例えば東京・大阪で巡回するメーカー系ギャラリーの展示などは取扱いの優先度を下げるといった塩梅でお送りします。

まずそもそも「あなた誰ですか?」という方が大半でしょうので、かんたんな自己紹介をします。

本業は勤め人で、医療機関の事務職でして、診療報酬だの病床稼働率だのと辛気臭いことに関わっています。大学時代の専攻は西洋哲学で、フーコーがどうのデリダがどうのと辛気臭いことをやりつつ、おつむがやや残念だったので、暗室に立て籠もっては辛気臭く写真を焼いていました。写真史や美術を学んだのはつい最近です。

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これは「hyperneko」(ハイパーねこ)という自作のキャラで、このアイコンでFacebook、Twitter、はてなブログ「写遊百珍」などを運用しています。「これは猫なので好き勝手やらせていただきます」というスタンスを暗に表していると言われています。はい。

写真との関わりは思春期からで、大学時代はフィルムで暗室に籠り、社会人からはデジタルでやっていました。されど昨今の、「いいね」至上主義の場と化したInstagram等SNSで飛び交う、華やかりしフォトジェニックな「写真」に吐き気を覚え、しめやかに発狂したので、2016年から「大阪国際メディア図書館」(旧・IMI/インターメディウム研究所)の写真系講座「写真表現大学」に入学。作家活動のいろはを学びます。

そこで写真や美術について人並みの見識を得たので、作品制作の傍ら、写真を鑑賞した体験をブログ「写遊百珍」にて言語化するようになり、今に至ります。昨年度には雑誌「日本カメラ」で連載や取材も行ったので、関西を中心にじわじわ認知されつつあり、今回の連載も、そうした活動を評価いただいてのご縁ということであります。はい。

それではやっていきましょう。なお、以下、時事的な話が頻出しますが、いずれも2020年3月末・執筆時点ということでご了解ください。

3月の関西――新型コロナの影響

いきなりですが、関西の第一四半期の総括は「新型コロナのせいで文化が凍結」です。結局3月はまるまる壊滅的でした。関西に限ったことではなく地球規模の話ですが。地球がヤバい。人類ヤバい(語彙)。

ちょっと簡単に振り返ります。

クルーズ船からの乗客下船後、新型コロナウイルス感染症の感染報告が国内で散発的ながら続き、2月26日、安倍首相より全国的なイベントについて2週間の自粛が要請されました。これに端を発し、全国の美術館で休館の決定が相次ぎました。そして3月10日、首相から更に10日程度の自粛延長を求める表明があり、様子見。それでも全国で感染報告が止むことはなく、3月20日には専門家会議の提言を受けて、引き続き警戒が必要であることを強調し、大規模イベント等については「主催者がリスクを判断して慎重な対応が求められる」との見解を示しました。「自粛」の継続です。

こうした自粛要請に国立国際美術館など公的な美術館が応じたわけですが、足並みを揃えて呼応したのがメーカー系の写真ギャラリーです。3月末の本稿執筆時点で、ニコン、キヤノン、富士フイルム、オリンパスといった、関西の写真シーンの主力となる大手ギャラリーが軒並み「休館延長」となっています。つまり3月は真っ白でした。政府や都道府県は集団感染、オーバーシュートの危険性を繰り返しアナウンスし、危機感を連日強調しながらも、開催するしないは主催者の自己責任に委ねる取扱いだからです。そら、怖くて開館できませんわね。

こうした新型コロナ感染の動向を受けて、2月~3月に予定されていた美術系大学や専門学校の修了展が一部中止・延期になり、急遽、オンラインでの作品提示に切り替える校もありました。2月末~3月第1週目の時点では、北海道や愛知県を除く都府県の多くは感染者報告がゼロ、あるいは数名といった状況で、「そんなに気にする必要はない」との楽観論が勝っていました。

しかし関西でも徐々に患者の発生報告が上がり始めていたため、例えば、新進作家を多数輩出している京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)・通信教育部(写真コース)が、修了展を夏頃に延期するとの報を聞きました。私の所属する「大阪国際メディア図書館」の修了制作展も同様に7月へ延期です。されど学校に集まるわけにもいかず、現在はFacebookのグループ内にて講師が生徒の作品・活動を総括するSNS講評が行われています。

そして、関西を代表する写真イベント、今年で8回目となる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」及びサテライト展示「KG+」も、開催時期が普段のGW頃から9月中旬~10月中旬へ延期するとのことで、異例尽くしの事態です。

なお、個別のギャラリーは今のところ、概ね平常通りの営業を続けていますが、消毒薬を置く、マスク着用を呼び掛ける、一度に入る観客数を制限する、トークイベントを取り止めるなど、感染予防に神経を遣いながらの運営が行われています。

尾仲浩二「Faraway Boat」@入江泰吉記念奈良市写真美術館(2020.1/18~4/5)

そんな騒ぎの中で通常通りの展示を行っているのが、奈良市写真美術館です。地理的に都市部から離れていてあまり混雑しないことや、奈良県自体の感染者数が少ないためだと思いますが、このご時世での大がかりな展示は貴重でありがたいです。

本展示は80年代から現在に至るまでの「旅」の作品を集めたもので、年代ごとに6つのパート+スライドショーで構成され、初期のモノクロ作品から直近のカラー作品まで、作家のキャリアが一望できる、貴重な機会でした。

つくづく、どのパートを見ても旅に出ており、「旅」自体が住まいのようですらあります。目的やアテはないようで、とにかく移動に満ちており、一枚隣の写真を見ると、もう別の街に移動しています。目を離すとすぐ移動しています。

写真内には道・路地や、車、駅・線路・列車、船といった「移動」に繋がるイメージが頻繁に登場するため、そうした印象が強まるのです。そしてもう一つ、重要なモチーフが、路上で出会う犬や猫などの動物です。地域によって馬や驢馬が登場しますが、彼ら彼女らはその土地土地の住人でありながら、人間世界、各地の町からは少し浮き上がった存在として登場します。なおかつ妙な親密さも覚えます。作者自身の分身なのでしょうか。

これらの写真に気付かされるのは、作者の個人的な思い出や旅情の、外側の世界が濃厚に写っていることです。どこかに旅をし続けていて、旅が終わらないこと、それは「どこにも行かない・辿り着かない」ということでもあり、写真に刻まれた各地の表情は作家の私的さを超えて、地方に染み付いた「昭和」のドキュメンタリー・記録として立ち上がります。また、犬や猫などの闖入者によって、単なる記録とも異なった曲がり角、精神的な奥行きをもたらしています。深く暗い焼き込みが印象的な『Slow Boat』シリーズの4枚はまさにその極地で、短編小説の中に迷い込む風味がありました。

百々新「WHITE MAP-On the Silk Road」@入江泰吉記念奈良市写真美術館(2019.11/2~2020.1/13)

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