関西写真動向2020・第二四半期レポ 文:タシロユウキ

関西写真動向2020
第一四半期レポ
第三四半期レポ
注:本稿で触れる時事的な内容は、7月中旬執筆時点の状況です

 関西の写真動向を広くお伝えするために今年から始めた連載だったが、いきなり新型コロナ禍にぶち当たった。ウイルスはグローバル化した世界の潮流に乗って国境を越え、日本国内にも急速に広がり、早くも4月には自粛生活の呼び掛け、美術館やギャラリーの休業、展示イベントの中止・延期という事態に見舞われた。GW明けが一応の解除の目安として掲げられたが、実際にどこまで制限が続くかは、前回執筆時点では未知数だった。
 それでも感染者数は落ち着きを見せ、5月中旬に緊急事態宣言と休業要請が解除され、5月下旬には営業を再開する映画館やギャラリーが現われ始めた。
 6月は、ほぼ全ての美術館やギャラリーが営業再開し、街には賑わいと混雑が戻ってきた。日中気温30℃前後の中でのマスク姿は異例だが、自由な雰囲気が定着してきた。7月に入って全国の感染者数が伸び続けているところではあるが、何はともあれ現時点では、関西は「日常」を取り戻した実感から、ひとまずの安堵感を覚えているところだ。

 今回は、4月以降の新型コロナを巡る関西写真界隈の状況と、空間での展示に代わって模索されたオンライン上の動き、私の体験したオンラインでの写真の可能性などについて述べていきたい。


1. 4~5月、新型コロナ禍での関西ギャラリーの状況

  4月7日に「緊急事態宣言」が全国7都府県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県)に発令されたのを受け、「自粛」の名の下で多くの業種が休業を検討した。4月16日に全都道府県で「緊急事態宣言」の発令、同時期から各都道府県の判断に基づく「休業要請」が出された。それまで感染防止に配慮しながら営業していたギャラリーも、不特定多数の観客が訪れること、密閉空間であること、接客も一部伴うことなどの要因から、本格的に休業に踏み切った。
 ここから5月中旬の休業要請解除まで約1カ月間、個人の生活も社会の経済活動も、自粛解除が出るまで「ステイホーム」の指針に従い、基本はオンライン上の活動によって耐え凌ぐことになった。写真界隈でも同様に、リアル空間に集まることなくオンライン上で何が出来るのか、様々な試行錯誤があった。この点についてギャラリーの動向を振り返っておこう。

(1)メーカー系ギャラリー
 メーカー系ギャラリーは4~5月の間、完全に休止していた。ニコン、キヤノン、SONYは大阪キタの梅田、リコーは天満橋、富士フイルムとオリンパスは大阪市中央区の本町と、いずれも大阪市の中心街に位置しているため、大阪府の休業要請と解除指針に従って休館となり、6月に入ってようやく順次、営業再開することとなった。最も遅かったのはニコン系列のギャラリー「大阪ニコンサロン」「THE GALLERY」で、めでたく6月30日に展示が再開された。
 しかし衝撃だったのは、4月27日に報じられたニコンの情報拠点施設「ニコンプラザ」の閉館・再編計画だ。大阪では「ニコンプラザ大阪」の移設に伴い「大阪ニコンサロン」を閉館。東京では「ニコンプラザ銀座」を「銀座ニコンサロン」とともに閉館し、現「ニコンプラザ新宿」を改装して「ニコンプラザ東京」とし、そこで「ニコンサロン」を再開する方針である。これらの再編時期は2020年10月とのことだ。
 えらいことである。東京では「ニコンサロン」が残されるものの、大阪からは撤退が決定してしまった。個人的に真剣に途方に暮れている。もう一つの写真展スペース「THE GALLERY 大阪」は移設とのことで、展示空間が完全に無くなるわけではないが、二つの展示空間の性質は大きく異なる。
 「ニコンサロン」は、「写真文化の普及・向上」を目的とする公募制の展示場として開かれており、応募要件には会員や機材に関する自社縛りがない。外部から招いた評論家や写真家、キュレーター等による選考委員会を設置し、実力ある作者・作品が選出される。メジャーでなくとも、注目すべき気鋭の作家からベテランまで幅広く紹介され、しかも1~2週間の短いスパンで次々に展示が切り替わり、非常に理想的な場であった。
 同じニコンでも「THE GALLERY」は、基本的には写真団体やニッコール倶楽部会員向けで、ニコン製のカメラによる作品であることが応募要件となっており、比較的穏やかな展示の場となっている。他のメーカー系ギャラリーも応募資格はまちまちだが、自社製品のPRや、カメラ愛好家の期待に応える絵作りが多い印象だ。「ニコンサロン」ほど写真文化・作家性を強く求め、高いテンションで展開してきた場を他に知らない。
 そのような場が、大阪、いや西日本から無くなるということは、今、注目・評価すべき写真作家の存在をスルーしてしまうことに直結するため、大変に困っている。私が今まで写真界隈の動向をウォッチしてこれたのも、作家の生プリントや展示空間に触れて五感を鍛えてこれたのも、梅田の中心地にありアクセスに優れた「大阪ニコンサロン」あってのことだった。
 こうしたニコンプラザ再編計画が、新型コロナの影響によるものかは言及されていないが、折りしも老舗のカメラ雑誌『アサヒカメラ』が、新型コロナの影響から広告収入の減少により2020年7月号で休刊したことと無関係ではないだろう。大手企業の経済的余裕に、写真や表現のプラットフォームが依存している実態を改めて思い知る出来事だった。

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