関西写真動向2020・第三四半期レポ 文:タシロユウキ
関西写真動向2020
・第一四半期レポ
・第二四半期レポ
今号では7~9月の関西写真動向の特集として、関西の多くの写真関係者・写真ファンにとって定番のイベント「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2020」を取り上げたい。サテライト展示「KG+」等を含めると同時多発的に大量の展示があり、1カ月の会期で何か月分ものボリュームの展示を観ることができる。
今年度は後述の通り、新型コロナ感染の影響により会期が春から秋(9月19日~10月18日)に延期された上に、一時は資金不足から開催も危ぶまれたが、無事に会期を全うされた。
1.KYOTOGRAPHIE概要
KYOTOGRAPHIEは2013年に始まり、今年で8回目を迎えた。2011年の東日本大震災を受けて、写真家のルシール・レイボーズと照明家の仲西祐介の2人が、日本でも東京以外の場所で情報発信の拠点が必要であるとの思いから共同代表となり、フランスの「アルル国際写真祭」を参考に立ち上げた企画である。最初は京都という歴史ある地で各方面の理解を得るのに相当な苦労をしたというが、今では国内でも有数の規模を誇る写真イベントである。
全国区の写真イベントと言うと「写真新世紀」や「CP+」、「御苗場」などが挙げられるが、同じ写真でもイベントの種類や地域性、企業プロモーションの在り方など多くの点で違いがあり、一概に知名度や集客数の比較はできない。KYOTOGRAPHIEはその名の通り、京都市内の様々な施設・場所で写真展を展開し、トークやポートフォリオレビューなど多数の写真関連イベントも並行して催され、規模と充実度はかなりのものだ。想像するに「東川国際写真フェスティバル」を地域全体に面で広げたようなイメージだろうか。東川町には行ったことがないので、今後機会があればぜひ比較検証してみたいところだ。
今年度のKYOTOGRAPHIEやKG+の個別の展示内容については、私の個人blog『写遊百珍』にて会期中に随時レポートを上げてきたので、以下のまとめページから参照されたい。
2.今年度開催までの経緯:会期延期~クラウドファンディング
今年のKYOTOGRAPHIEは新型コロナ感染状況との兼ね合いの中で、イレギュラーな未知の状況に対応しながら開催を目指していた。観客の側にとって、実際に開催されるかどうかは夏を過ぎるまで、すなわちクラウドファンディングが終わるまでは全く未知数であった。
イレギュラー対応の一つは会期の延期である。
例年であれば4~5月にGWを挟んで催されるのだが、2月29日の時点で早くも開催時期を9月へ延期する旨のアナウンスがあった。この時点では政府も「2週間の大規模イベント自粛要請」(2月25日)を出すに留まり、様子見的に感染抑制を図っていたが、その後の緊急事態宣言の発令(4月16日に全国に拡大)や「自粛警察」のような圧力の顕在化があったことを思うと、見事なスピード感での決断だった。
緊急事態宣言の自粛後に一度は収まった新型コロナ感染だが、夏頃には再び感染者数が増え始め、感染第2波と思わしき兆候も見られたため、企画によっては安全策をとって入場規制や延期を決めるものもあった。しかし7月下旬からは政府の音頭で「GoToキャンペーン」が東京都を除外し展開されるなど、不安と戸惑いが混ざりつつも「感染に注意すれば移動・観光をしてもよい」という空気感が徐々に広がっていった。KYOTOGRAPHIEはそんな中で絶妙なタイミングでの開催となった。
対応の二つ目は、クラウドファンディングによる資金調達である。
6月30日、Facebook上でKYOTOGRAPHIE公式アカウントから投稿された【クラウドファンディング開始しました!】の記事には驚かされた。楽観視していたところに、厳しい現実を突き付けられた。記事本文とリンク先の「READYFOR」上での訴えでは、赤裸々に資金不足と開催困難についての実情が語られていた。Facebookの投稿は以下のように続いた。
『今年のKYOTOGRAPHIEは、秋に会期を延長した上、スポンサーの縮小・撤退により財政難に陥っています。
このままではKYOTOGRAPHIEの未来はないかもしれない。それほど切羽詰まった状況です。
クラウドファンディングへのご寄付を通して、KYOTOGRAPHIEの存続を助けていただけませんか。
目標は1,000万円、8月末日までの募集です。
どうか応援をよろしくお願いいたします。』
(KYOTOGRAPHIE公式アカウント)
財政難、開催困難という言葉をKYOTOGRAPHIE主催者から聞くことになるとは想像だにしていなかった。私がKYOTOGRAPHIEを観に行くようになったのは2015年からだが、CHANELやBMWといった世界有数の大企業がスポンサーに付く、経済力のあるイベントだという印象が念頭にあった。観客として接する限りそれは揺るぎのないイベントで、しかも年々豪華になっている印象だった。
だが新型コロナ禍が奪ったのは不特定多数の集まる場所と機会だけではなかった。地球全体で経済活動と交流・流通が停滞したことで、世界中の企業の経済的余裕もまた大きく奪われた。行政の支援金を受けず、スポンサー企業からの協賛金と観客の入場料によって運営してきたKYOTOGRAPHIEにとってその影響は大きく、「READYFOR」のページでは資金問題として『支出増:会期変更・会場変更で、約500万円の経費増』と『収入源:スポンサーの撤退・縮小により、約2,500万円減』の計3,000万円近い資金不足が見込まれることが記されていた。
この支援プロジェクトは広報に力が入っていた。FacebookやTwitter、Instagramでの進捗報告だけでなく、Twitter上の関連投稿のリツイートがこまめに行われ、またWeb版『美術手帖』などWebメディアで多く取り上げられたことも功を奏し、最終的には目標額1,000万円に対して、寄附者741人・寄付総額1,114万円での目標達成となった。公式HP上の報告ではクラウドファンディング外の寄付者も合わせると768名に上る。
結果的にはクラウドファンディングが成功したことに加え、スポンサー企業からも協賛を得られ、経済的影響としてはメインプログラムを一部縮小(当初予定13件 → 実施10件)した以外には、大きな変更はなかったという。公式HPでもプレミアムスポンサーのCHANELを筆頭に、計42団体の協賛とほか多数の後援・協力を得られたことが分かる。
なお、KYOTOGRAPHIEがクラウドファンディングに挑戦するのはこれが初めてではなく、2015年にも「MOTION GALLERY」にて資金集めが試みられていた。この時は純粋に展示プログラム実現のための支援の呼びかけだったが、支援者9名・計7万6,000円という、桁違いに小規模な結果に留まっている。広報の体制や取り組み方などに大きな違いがあったと思うが、やはり今年度は「存続の危機」のリアリティがより多くの観客やファンの間に共有され、周囲の人々を「支援者」へと後押ししたことが伺える。それだけ写真文化の存続を「我が事」と捉える人がいたことは嬉しい話ではあるが、しかし民間企業の体力が脅かされる際には、表現・文化もまた共倒れするリスクがあることを肌で感じた出来事だった。
実はKYOTOGRAPHIEサテライト展示企画「KG+」の方でも、メインプログラムの後を追うようにして「CAMPFIRE」にてクラウドファンディングを実施していた。こちらは期間8/21~10/18、目標金額300万円に対し、支援者24人・支援総額24万5,000円と、メイン側よりかなり小規模な結果に終わった。訴求ポイントはメイン側と同じく、資金確保の困難に対して「KG+」の活動――作家支援の存続を求めるものだったが、資金不足の危機を訴えるニュアンスはかなり控え目だった。そのため私自身を振り返ると、応募があったこと自体は覚えているが印象があまりなく、他人事になっていた気がする。また、KYOTOGRAPHIEは有料展示が多いため、リターンでパスポートを貰えることが支援の大きな動機となったが、「KG+」は元々が入場無料なので、リターン(Tシャツ)に旨味を感じなかったのは事実だ。メイン側を支援したことで満足したり、あるいは二つの支援を混同してしまった人もいたのではないだろうか。
3.各プログラムの構成と内容
KYOTOGRAPHIE 2020関連の展示プログラムは名前が似ているので、個人的に以下のように簡単に整理してみた。
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