「5G」って、どこまで進んでいるの!? NTTドコモ・奥村幸彦氏インタビュー|第1話
新時代の通信システムである「第5世代移動通信システム」(以下、5G)。その、商用化が刻一刻と迫ってきました。
2019年4月、総務省は5Gを利用するための周波数をNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天の4社に割り当てを行いました。各社は今後、割り当てられた周波数を使用する基地局の設置を進めていき、いずれも2020年の春頃をメドに本格的に5Gサービスを開始する予定だとしています。
5Gの特徴はまず「超大容量・超高速通信」「低遅延」です。YouTubeなど生活に不可欠な動画サービスを快適に楽しむことができるようになるだけでなく、IoTやAIなど昨今話題の技術の柱となる「ビックデータ」を滞りなく送れるようになるとされており、ビジネス面においても非常に期待が高まっています。
また、静止状態・移動状態を問わず様々な場所や移動環境において5Gによる超高速通信が可能となるよう、こちらの特徴は、少し難しいですが「モビリティ=移動性」を考慮した高度な通信技術の確立も進められています。
さて、では5Gは実際にどのように私たちの生活を変えていくのでしょうか。NTTドコモで、実用化を見据え数々の実証実験・トライアルを担当してきた奥村幸彦氏に、5Gおよび関連サービスの現状を早速聞いてみましょう!
奥村幸彦(おくむら・ゆきひこ)氏
NTTドコモ5Gイノベーション推進室・5G方式研究グループ担当部長。1992年にNTTドコモ入社以来、デジタル移動無線アクセス方式・技術の研究、国際標準化、商用装置開発に従事する。同社5Gイノベーション推進室では、5G実現およびサービス創出に向けた実証実験、システムトライアルなどに奮闘している。
我々はいつ5Gの恩恵にあずかれるのか?
NTTドコモでは、5Gを使ったサービスおよびアプリケーションを「ユースケース」という言葉で表現しています。奥村氏は「ここ2、3年で、数多くのユースケースを確立するため試行錯誤を繰り返してきた」と状況を説明します。
奥村氏:
「現在、私の部門が開発に取り組んでいるユースケースは、基本的にビジネス向けソリューションが多数。
個人ユーザーの皆様が個別の端末で直接5Gを体感していただけるようなユースケースはこれから具体化していく段階です。
とはいえ、ビジネス(B)の先には個人のユーザー(C)の方々がいらっしゃいます。
例えば、5G遠隔医療システムは医師や病院向けではありますが、その先には患者さんがいらっしゃいます。そういう意味合いで、私どもとしても『B to B to C』という形で5Gのサービスをまずご提供していきたいと考えています」
冷蔵庫サイズからスマホサイズへ
NTTドコモが実際に開発を進めている「BtoB」もしくは「BtoBtoC」関連の5Gサービスについて後程詳しく紹介していきますが、私たちの手元にあるスマートフォンで5Gを気軽に体験できるのは、もう少し先とのこと。端末機器が「小型化」してからだと奥村氏は言います。
移動通信システムは、通信事業者がサービスエリアを形成するために設置する「基地局」と、ユーザが持ち運んで基地局との間で電波使って情報のやりとりをするスマートフォンなど「端末」で成り立っています。
※端末は、専門用語で「移動機」や「移動局」とも呼ばれます。
移動通信技術
基地局 = 電波を送る
端末機器 = スマートフォンなど
端末機器は、専門用語で「移動局」とも呼ばれます。
これまで、新たな5Gユースケースの実証試験/トライアルを実施する際、基地局装置のサイズは商用装置とあまり変わらないモノを使用する一方、端末の方は、スマートフォンのように気軽に持ち運ぶことが難しい大型の試作端末を用いてきた、と奥村氏は言います。
というのも、実証試験を開始した2~3年前は、まだ5G関連の端末は小型化がまさに始まったばかりの段階であったからです。
奥村氏:
「移動通信システムの仕様は、第3世代(3G)以降、世界的な標準仕様に統一されています。それまで、海外に行って移動通信サービスを利用するためには、行った先の地域毎に別の端末が必要でしたが、第3世代以降は基本的にひとつの端末を世界中どこでも使えるようになりました。
5Gの世界標準仕様の基本部分が決まったのが2017年12月。その後、細かい仕様の策定などによる仕様のバージョンアップが行われ、2018年の前半から後半にかけて、通信機器を開発するメーカーが仕様に準拠した装置をつくる段階に移行しました。
当初、5Gの端末は一人暮らし用の冷蔵庫くらいのサイズでした。それが、今やノートパソコンくらいになり、最終的にLSI(大規模集積回路)まで小さくなって、スマホやタブレット、USB型の通信モジュールなどに組み込まれます。
当初 → 5Gの端末は一人暮らし用の冷蔵庫くらいのサイズ
現在 → ノートパソコンくらいのサイズ
最終 → LSI(大規模集積回路)のサイズ
すると、5Gの端末は、当初一人暮らし用の冷蔵庫くらいのサイズであったものがが、途中ノートパソコンくらいになり、最終的には各種通信機能などがLSI(大規模集積回路)化されて端末に搭載されることで、スマートフォンやタブレット、USB型通信モジュールなどの気軽に持ち運べるサイズまであっという間に小型化されました。
なるほど。私たちが使うための5G端末に搭載される電子部品の小型化が一気に進んだということですね。
それにしても、冷蔵庫サイズの端末がほんの数年でスマートフォンのサイズまで小さくなるとは!
いやはや、驚きを隠せません。私たちが5G端末を手にする日が待ち遠しいですね。
奥村氏:
「NTTドコモでは、2020年の春から5Gの商用サービスをスタートさせます。また、それに先立って今年9月からはプレサービスをスタートします。
B to BのサービスのみならずB to Cすなわち一般ユーザ向けのサービスも小型端末の普及に伴って積極的に増やして行く想定です。
また、各サービスの開始にあたっては、各地域におけるサービスエリアは当初限定的ではありますが、日本全国で5Gサービスを提供できるようにしたいと考えています。
すでに4Gの基地局は日本全国にサービスエリアが広げられていますが、そこに5Gの基地局を多重配置(オーバーレイ)する形で設置し、徐々に5Gのエリアも広げていきます。そのため、5G端末は、従来の4G基地局との通信も可能としています。」
5Gがもたらす「働き方改革」
着々と近づく5G時代の幕開け。
奥村氏は「高速大容量」、「低遅延」、「複数の端末を同時に収容できるカバレッジ」などを5Gの特徴として挙げつつ、「既存世代のシステムに比べて、その通信能力は一桁、二桁も上の次元」と説明します。
5Gの特徴
・高速大容量
・低遅延
・複数の端末を同時に収容できるカバレッジ
例えば、通信速度であれば、従来は1Gbpsクラスが最大だったのに対し、5Gでは10倍から20倍の情報通信速度となる最大20Gbpsが目標として掲げられています。
では、5Gが普及するとどのようなことが可能になるのでしょうか。NTTドコモのユースケースの実証試験例から探っていきたいと思います。
5Gが普及することで応用が進む事例の一つとして、「仕事や作業の効率化」、それに基づく「働き方改革」があります。
例えば、NTTドコモが行った実証試験のひとつに「動くサテライトオフィス」があります。なおサテライトオフィスとは、本社や支社といった通常のオフィスとは別に、郊外や地方もしくは都心に開設されたオフィスを指します。
奥村氏:
「実証試験では、東京の本社と徳島県のサテライトオフィス、そして5G端末を搭載した移動車両である動くサテライトオフィスを3か所を繋ぐ試験を行いました。
協力いただいたのはCM映像制作会社の方々。編集前後の高精細・大容量映像を、それぞれの拠点で送受信してもらいました。
これまで、映像制作会社が撮影・編集した素材はデータサイズが大きくネットワークで送るにはかなりの時間がかかり非効率。
そのため、バイク便などの方法で送ることが慣習となっていたのですが、それを光回線と5Gを使って送れるようにしました。
このようなユースケースにおける5Gの応用が実現していけば、様々な業種の社員が分散している企業においても、リアルタイムで大規模なデータをタイムリーに共有しつつ効率的に作業することができるようになるでしょう。
人と人の距離を一気に縮めることができるというのも、5Gの特徴です」
・「5G」って、どこまで進んでいるの!? NTTドコモ・奥村幸彦氏インタビュー|第1話
・「5G」って、どこまで進んでいるの!? NTTドコモ・奥村幸彦氏インタビュー|第2話
取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真/荻原美津雄、取材・編集/ 鈴木隆文(FOUND編集部)
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