ショートショート #1「音声燻製」
雑貨屋でクリスマスカードを物色していると、「音声燻製承ります」の張り紙が目についた。
カードを三日三晩燻煙に晒し、燻製室に繋がるパイプから声を吹き込むと紙面に刷り込まれて、後日受取人はそれを燃やすことで音声を再生できるという。
あなた宛のカードは音声燻製にしようと思った。文字が残らないのがいい。けれど私の声は、燻製にするほどの美声でないと思い直す。今年もあなたへは手書きのカードを送った。
ところがあなたのクリスマスカードは、思いがけず音声燻製だった。
なにも書かれていない紙面を見つめながら、私は今も蝋燭の火を前に躊躇っている。燃やすのが惜しいのか、それともあなたの声を聞くのが怖いのか。
新年を祝いながら、私は年々別れを告げる思いだった。あなたはどうか。音声燻製を面白がりながら、楽しい内容を朗読するあなたこそ似つかわしいけれど。
カードの端に火が移る。
あなたはいつでも、後戻りできない選択を私にさせる。
たらはかに様。
FouFouと申します。
記事を拝見し、毎週ショートショットnoteに投稿させていただきました。
よろしくお願いいたします。