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ショートショート#16『執念第一』

いきなり隣家が工事現場になる。

老夫婦が住んでいたはずで、それなのに朝からシャベルにヘルメットの男らの、夜勤明けのこちらの寝入りバナ挫く始業前挨拶の大合唱、間髪入れず重機のフル稼働で、たまらず寝床を飛び出した。

足場の横断幕には「安全第一」ならぬ「執念第一」とある。責任者連れてこいと作業員に凄むと、素直に連れてくる。これが初老の気弱げな痩男、こちとら夜勤明けだよと突っかかったら、あいすみませんご覧の通りうちは執念第一なんでと平身低頭するばかり。

大体こりゃなんの工事と聞けば、執念第一なんでわかりません。

わかりませんじゃないよと食い下がると、執念第一なんで。

塀の向こうを覗くとさっそく庭に大きな穴が掘られている。そこへクレーンが何かを吊って下ろそうとしていて、果たしてそれはダブルベッドの老夫婦。

唖然としていると、あれとて執念、あなたも文句ばかりが執念ですかと現場監督浮かべる会心の笑み、気づけばシャベルを持たされていた。

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