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ショートショート #14『穴の中の君に贈る』

とうとう君が穴の中に閉じこもったと聞いたものでね。

君は人知れず庭に穴を掘り続けたというじゃないか。その深さたるや、底に向かって叫んでも、こだまは一時間しても返ってこないとか。君のことだ、まだまだ掘り続けて、とことん底を目指すんだろうな。ひょっとしたら、生きた恐竜に会えるかもしれないね。

お姉さまは、君を助けてほしいと仰せになるのだけれど。助けを望まない君を助けるだなんて、いかにも本末転倒じゃないか。助けてもらいたいのは、他ならぬお姉さまご自身だ。しかしたとえ君を地上に連れ戻したところで、お姉さまが救われるかどうかは、結局は君たち姉妹の問題であって、もとより僕には手に余るわけだ。

それでも僕は、手を差し伸べることにしたよ。僕はもう、一昨日の朝から穴の縁にかがみこんで、君のいる遥かなる深みへと、手を伸ばし続けている。なに、休暇は一週間ある。いずれ君に追いつくさ。

そのときは、どうか僕の手にある花束を、受け取ってほしい。

(410字)

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