ショートショート#17『十年パンイチ』

「……でね、四十越えたあたりから食べカスが歯に挟まるらしくって、爪楊枝が欠かせなくなって。楊枝の先を一度眺めてからパクッとする一連の仕草が耐えられなくなって、それですっかり冷めたってわけ」
「わかるわかる。十年パンイチだよねえ」
「マチコさ、さっきから十年パンイチってなに？　ことわざみたいにいってるけど」
「中学校で習うじゃん」
「習わねぇし」
「習うよ。好きな男が風呂から上がってパンイチで冷蔵庫開けるじゃない。缶ビール取り出してプルトップ開けて、ぐびぐびいくじゃない。なんかセクシーだなって。すると男も調子に乗ってそれから毎晩風呂上がりはパンイチ。それが一年すると見慣れて、三年するとちょっとウザくて、五年目には目障りで、十年目には殺意を覚える。これが十年パンイチ」
「いや初耳だし」
「中学校のとき、テストで十年◯◯◯◯の◯を埋めなさいって問題でパンイチって書いてあってたけど」
「いやそこ、いちじつ、だから」
「え、いちじく？」

（410字）