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制作雑記『キャロット・グラッセ』

citrusと申します。音楽などを作る者です。
 この記事では、以前作った曲『キャロット・グラッセ』について、制作時の話など書いていこうと思います。


完成までの経緯

 あまり正確には覚えていないのですが……制作物のログを見る限り、作り始めたのはおおよそ4年前らしいです。(ちょっと作っては飽きて他のものの制作に移るため、こういうことが起きる)
 一番最初にあったのは「ばにらび らみ だみ」の1フレーズ。もともとは「意味はともかく何となく面白い歌詞を作ってみよう」という試みから出てきた言葉でした。しかし、次に浮かんだ「さみしいのにしんじゃえないのかわいそね」の一文にすべての興味が移ってしまったので、当初の試みはガン無視されることになりました。そうして1番の歌詞ができた頃には、作曲にも着手していたと思います。

不衛生なファイル管理

 そんなこんなで作詞・作曲をチマチマ進めること数年。2022年に入ってようやくオケが完成したので、調声とMV制作をゴールデンウィーク中に一気にやっつけて投稿した、という次第です。


映像について

 なんとなく「アニメーションに初挑戦!」みたいな気持ちでMVを描いていましたが、そういえば処女作にもアニメーションは入ってました。5枚くらいですが。何にせよ、初挑戦同然に慣れが無いのは事実。「こんな面倒臭い作業本当にできるのだろうか」と思いながら取り掛かりましたが、思ったよりは何とかなりました。

ClipStudioで作画。未だに使い方がよくわからない。

 一枚一枚細かく見ると粗はありますが、まあまあそれらしく出来たのではないでしょうか。本当はもっと効果的な構図とか、画質を落とさない書き出し方とか、頑張れるところはあるのでしょうが……今回はこれぐらいにしておいてあげましょう。覚えてろ~~(上空へ吹き飛び一回瞬いたのち消える演出)

 うさぎのデザインは、アニメーションにしやすい&記憶に残りやすいように頭を捻って、結局ほぼ原案のままになりました。本当はもっとウサギ候なデザインにするつもりだったのですが、振り向いたときにあれこれなぎ倒しそうな重たい垂れ耳がどうにも捨て難くて、今のうさぎが採用されました。

原案ラフ。2019年。
うさぎデザインを模索
原案ラフ2。2019年。
動作テスト。まだ若干動きが固い。
2022年。ウサギ感を高めるためにキャラデザインを練り直した時のラフ。
骨格から全身のシルエットを掴もうとした形跡や、
モフモフ感を足そうとして足掻いた跡が見られる。
耳が立っていると横長の画面に収めにくいと思い、垂れ耳に確定。
アニメーション着手直前のデザイン調整。
襟、飾りボタン、サスペンダー等、動かし易くかわいい形になるよう模索。
襟・袖・裾のラインは無くてもかわいかったので省略した。
(情報量の多さは、書く側だけでなく見る側にも負担になると思っている。
リッチなデザインは万能ではないのだ。。)
最終的なデザイン。
モフ感は控えめで、顔立ちはすこし少年寄りに。
(配色かなり悩みました。苦手です。)

 MV中の文字は私の手書きです。アホっぽい癖字を目指して書きました。さ/き/そ/ふ/り/と の書き方を普段とは変えたり、それらしい丸字になるように何度も書きなおしたりしたので、結構疲れました。仕上がりには満足していますが、もうやりたくないです。

歌詞をモノローグ風に書き出して、動画に切り貼りするスタイル。
枠線も敢えての手描き。


歌について

 オケが出来上がる寸前までボーカルが決まらず、長いこと歌唱ソフトの音源を物色し続けていました。UTAU界隈は特にかわいくてリアルな良い音源が沢山あるのですが、ウィスパーボイス過ぎたり、女の子っぽ過ぎたりと、なかなかドンピシャな音源には出会えず……
 「できればずんだもんくらい元気な子供声が欲しい。ずんだもんがUTAU版の声じゃなく、VOICEVOXの声で歌ってくれればなぁ※」(※NEUTRINOリリース前。2022年4月頃のこと)と思いながら過ごしていた時、星界のデモソングを見つけました。

 声に程よくハリがあって、幼さが表現できて、滑舌も良い。「これならいけるかも」と思い公式の購入ページを探したのですが、なかなか情報が見つからず……。広報用のtwitterアカウントのログを漁って、何とかスターターパック(アクスタ付き/予約受付終了)のページを見つけました。一般販売の予定は分からなかったものの、予約購入者の入手日が5月頃らしいことは分かったので、「5月に情報が出たら即買おう」と思いながら続報を待っていたところ……
 4月下旬、かなりサイレントに発売されてました。気づいたのが発売日の4日後。人気Pのデモソングが投稿される度に情報を確認しに行って、購入リンクが無いことに落胆するのを何回か繰り返していただけに……私は非常に悔しい思いを……(暴れた)(音楽的同位体、宣伝ページから購入ページへの導線悪くて勿体ないと思う)
 何はともあれ即購入して、猛スピード(当社比)で完成させて投稿しました。どうでもいいですが、ニコ動の星界のタグ検索で"古い順"に並べた時に自分の曲が出てくるのは、ちょっと嬉しいですね。

 さて、CeVIO AI 『音楽的同位体 星界』の使い心地ですが、彼女はAIシンガーなので、ベタ打ちしただけでも歌い方にクセが付きます。VOCALOIDやUTAUのように入力通りの音程を従順に歌うのではなく、勝手にしゃくり上げや揺らぎ、ビブラートを入れて来るのです。これのお陰で頑張らなくてもパワフルでエモーショナルな歌声を作ることが出来るのですが、音程を外すこともあり、運が悪いとそれなりに修正が必要になります。人間が歌いにくい所が外れがちなので、修正の際は歌唱指導をしているような気分です。私はメロディの微妙な違いに拘泥する"半音ヤクザ"なので、ズレは見つけ次第矯正してしまいますが、「これぐらいの方がリアルで良い」という人もいると思うので、ソフト性能としてはそんなに悪いものではないと思います。

ベタ打ちです。緑の線がピッチで、かなりクセを付けてきます。
(UTAU上級者のustを見ているかのようで勉強になる)
この譜面だと「ん」「い」の音で、入力した音程が無視されてます。

 システムの特性か学習データの特性かわかりませんが、星界の自動調声はパワフルに――言い換えると"必死"な感じの歌い方に仕上げてくる傾向があるようです。大体の音にしゃくり上げを入れて、ロックやアニソン向きのエモーショナルな感じに歌ってくれるのですが、今回私が欲しいのはアホっぽい幼児声なので、星界ちゃんの提案は大分削られました。また、空白があるといちいち息を吸うので、スタッカートの様に細かく切った譜面を入れると溺れているみたいになります。基本、余分な呼吸は(ブレスの音量をゼロにして)止めさせていますが、これはこれでいい味が出ているとそのまま採用した部分もあります。サビとかそんな感じです。
 歌唱指導をしたり、歌い方の解釈を押し付け合ったり、息を止めさせたりと、殺伐とした現場でした。私と星界は河原で殴り合い、お互いの意匠をぶつけ合って1つの作品を作り上げたのです。「こんなじゃじゃ馬、もうごめんだぜ」と最初は思いましたが、その後も何度も使っているあたり、私は星界の歌声が結構好きなのでしょう。


詞について

 作詞の時はたいてい、思いついたフレーズから連想してテーマや設定を掘り下げるような作り方をしています。キャロット・グラッセだと、こんな感じで……

ばにらび らみ だみ(bunny/rabit/love me/damn it)
寂しいのに死んじゃえないの可哀想ね

大元の2フレーズ
  • 「寂しいと死ぬ」は俗説。ウサギへの偏見。だからこれは本物のウサギではなくステレオタイプの"誰かが想像するうさぎ"を描いている

    • 「ニンジンが好き」という偏見もある。空想上のうさぎはきっとめちゃめちゃニンジンが好き

      • ニンジンのグラッセって好かれてるのか嫌われてるのかよくわからなくてなんか気になる

        • ニンジン嫌いの克服を助ける(≒他者の問題を解消するために工夫する)という文脈を持つ食べ物

        • 個人的には、ニンジンの微妙な所は"変に甘い味"だと思うので、砂糖で更に甘くされてもなぁ……と思う

          • 他人の厚意を迷惑に感じるとき、喜んで受け取れない自分が悪いような、いたたまれない気持ちになる

          • 厚意や親切心があるからといって、物事が良い方に向かうとは限らない。暖かい家族や親身な友人が居ても、無理解に晒されるのであればかえって孤独だ

 突発的に思いついた数フレーズを元ネタにこういう連想が頭の中で行われて、設定やモチーフ、テーマ、見せたいもの等、構想がある程度固まってきます。あとはそれをいい感じのフレーズとして出力するだけです。簡単ですね。

君は人間と優しさとニンジンのアレルギーだって
それでどうやって生きて来たの?
とくにニンジンが信じらんない

出力されたフレーズ

 増えたフレーズをいい感じに並び変えつつ、また連想→出力を繰り返してフレーズをいっぱい作ります。1曲分溜まったら終わりです。要らないやつは捨てます。

没にした言葉たち

 構想をどうやって言葉に変換しているのかは、あまり定かではありません。頭の中でそれなりの数のトライ&エラーが行われている気がするのですが、選ばなかった言葉のことは覚えていないので、体感としては「なんか思いついた」が近いです。フレーズが出来た後にやった取捨選択や修正は把握しているのですが、フレーズを作る瞬間の思考は揮発性の領域で行われていて、認知の外にあるらしいです。とはいえ言葉選びの基準は共通ロジックだと思うので、大体前に書いた記事みたいなことを考えているのではないでしょうか。

 因みに歌詞はいつも、Windows標準のメモ帳に書き溜めています。背景が白くて殺風景で、動作が重くないという理由で使っています。デジタル派の作詞家の皆さんは何を使っているのでしょうね。気になります。


おわり

 書きたい話はあらかた書いたので、ここで終わりにします。お疲れさまでした。

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