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春、ミランは加速する。

■2020-21 8年ぶりCL出場権獲得
■2021-22 11年ぶりスクデット
■2022-23 16年ぶりCL4強、ユーロダービー

毎シーズン、新たな高みへと連れて行ってくれるこのチーム。緊張と興奮に胸を焦がしたここ数年の日々を、なぜ書き留めてこなかったのかと後悔している。だが、もう後悔する道はない。CL4強、ユーロダービー。書き留めておかざるを得ない。どれだけ心が震える、クレイジーな毎日だったかを。

春は騒がしい。

CL16強でトッテナムを2戦完封した時、単身赴任の部屋で一人、あまりの誇らしさにむせび泣いた。8強入りで今シーズンの目標は達成され、重圧から解放されて、準々決勝は無欲で楽しめると安心していた。あのとんでもない組み合わせが決まるまでは。

3月17日(金)、CLベスト8の組み合わせ抽選会。

ロマン?うんざり?大笑い?皆さんはどんなふうに反応しただろうか。準々決勝のドローが始まるも、ミランの名前はなかなか呼ばれなかった。
相手はどこなんだ。まさかインテル?違う。まさかシティ?違った。抽選用の透明な半球の中に2つだけ残った名前は、ミランと、ナポリ。もうくじ引きは意味をなさない。

まいった。レアルやバイエルンの胸を借りるのではなく同国勢が相手では、負けるわけにいかなくなってしまった。
俺たちはイタリア王者なのだ。

こうして決まった、セリエAとCL×2の対ナポリ「炎の3連戦」。3連敗もありうるか?いや、それは絶対に許されない。カンピオナートではすでにホームで1敗を喫している。3連敗は4連敗を意味するのだ。ならば、CL準々決勝がもつれる可能性は十分にある。

4月2日(日)「第1戦」
セリエA第28節、マラドーナ・スタジアム。

0-4。結末はアウェイチームによる衝撃的なポーケル(1試合4得点)だった。
前半、右のライン際という快適な持ち場を得たブラヒムは、一瞬でマリオ・ルイとロボツカを置き去りにするドリブルからレオンに完璧なラストパス。こぼれる白い歯、ミラン先制。

続いてはレオンの運びから、意外と珍しい左ポケットを使ったべナセルのワンタッチクロスが、ブラヒムの元へ。心憎いまでの切り返しから、左足で追加点。今シーズン最高の前半を終えた。

後半、ジエリンスキを餌食にしたトナーリがボールを奪う。右アウト気味のキックで前線のスペースに美しいパス。リーノとピルロのハイブリッド?違う。現在のミランの魂であり心臓だ。
ボールへと走る左WG。そう、3バックから4-2-3-1に回帰したこの日、レオンは左WGだ。こうなったら3人がかりでも奴は止められない。ドッピエッタで3点目。分かっただろう?そこがおまえを星と輝かせる宇宙なのだ。

サーレマーケルスの突進から4点目。おい、何があったんだ。この愛すべきイキり屋は、良くも悪くもチームの状態と同調するようなところがある。彼がセレブレーションでアウェイサポーターに誇示した胸のパッチは、まさにこの夜のミランが本来の姿を取り戻したことを示していた。
俺たちはイタリア王者なのだ。

4月12日(水)「第2戦」
CL準々決勝1stレグ、サンシーロ。

入魂のコレオは、相手を包み込む悪魔の両手。圧倒的な攻勢をかけるナポリに、10日前と全く同じ11人が立ち向かう。それにしてもカラブリア。ケアーやクルニッチと力をあわせ、クヴァラツヘリアを完封する仕事に惚れ直す。

そのカピターノからボールを受けたブラヒムが、一陣のつむじ風になった。無骨なターンの犠牲になったのは、またしてもロボツカとマリオ・ルイ。その真裏に開けた広大なスペースを駆け抜けると、なぜか右側にいた(まさに天才肌)レオンが左に折り返す。ジルーはDFをゴール前中央寄りに引き連れ、左側に味方のスペースを生み出していた。ボールに関与しなくとも、まさにストライカーの仕事だ。その左サイド、べナセルの左足が、GKメレトの左ニアをぶち抜く。
2戦連続の先制点にもみくちゃの歓喜。サンシーロの芝に、下手くそなスライディングのゴールセレブレーションが乱れ飛んだ。

望外の連勝。マンマミーア。
だが、最小の得点差で連戦の最後に待ち構えるのは、マラドーナでのアウェイゲームだ。リードはほぼない。まだ五分でさえないかもしれない。この時点では「準決勝への挑戦権を得た」というくらいの心境だった。

4月18日(火)「第3戦」
CL準々決勝2ndレグ、マラドーナ・スタジアム。

この土地の言葉で太陽を賛美する「オー・ソーレ・ミーオ」がスタジアムに響く。誇らしいことに、今夜も「ヨーロッパ」がイタリアだ。だがその輝きを享受したのは、北からの侵略者だった。

ほぼ一方的に攻め込まれる立ち上がり。反攻から獲得したPKは失敗するも、相手より少ない攻撃で複数の決定機を作る展開に、チャンスは何度か訪れると予感していた。

そして前半終了間際、相手のミスから、またしてもレオンが爆発。70mのドリブルで3人の敵に別れを告げると、中央へラストパス。全力で並走していたジルーは、丁寧に、とても丁寧に左のインサイドキック。敵地に沈黙を呼ぶ3戦連続の先制ゴールだ。契約問題に揺れるレオン。でもこの連戦を通じ、彼はミランとひとつになっていた。

後半、恐るべきクヴァラツヘリアのドリブルとPKで脅威に晒されるも、マジックイーグルの飛翔はゴールを割らせない。終了間際、今季ミラン戦初出場のオシメンに「さすが」の一撃を許すも、180分、270分を戦い終えて勝ったのは、イタリア王者だった。

ナポリに三たび同じ11人をぶつけ、3連勝にまで迫った。まさに悪魔の所業。今シーズン最強の相手に、多少なりともトラウマを植え付けただろう。一矢報いて、次のステージへ。

CL準決勝は、「もしかしたら」が実現したユーロダービー。

世紀の兄弟ゲンカをやらかそう。再びヨーロッパをイタリアの、いやミラノのものとして「私物化」するのだ。ここ数年いつも思ってきたけど、「僕らは今、ミランが歴史を作っている、そのさなかにいる」。将来語り草になっているはずのシーズンをリアルタイム体験しているのだ。

実際のところ、カンピオナートのトップ4(来季のCL出場権)とCLのベスト4、どちらの4強がより重要かと冷静に考えれば、明らかに前者だろう。だが、冷静になどなれるだろうか?

どこまで行けるか。どこまでも行こう。

CL4強決定後のセリエA第31節・レッチェ戦は、レオンのドッピエッタで無事に勝利したミラン。リーグの残りは7試合だ。
おしまいに、過去3シーズンのラスト7試合の戦績を振り返る。ミランはシーズン終盤に強い。とりわけ大一番に。

■2019-20 5勝2分0敗 コロナ中断から爆発
■2020-21 4勝1分2敗 Pioli’s on fire自然発火
■2021-22 6勝1分0敗 優勝。L’Italia è Milan!!

春は、きっともっと騒がしい。

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