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パッシブデザインとプランニング ~オープンプランニングの工夫しておきたい点~

こんにちは。1985理事の米谷です。
最近の1985会員の工務店さんの住宅づくりは、
断熱や日射遮蔽の工夫が加速し、
日射利用を目指した配置や開口の設計においても
充実してきた感があります。
同時に、住宅づくりが一気にパッシブデザインに向かったことで、
住宅に求められるパッシブデザイン以外の要素と
折り合いを付けておく必要も感じます。


住宅のオープンプラン化

研究者らが温熱環境をシュミレーションする際に用いられているプラン
(図2)では、
中廊下型の自立循環型のモデル住宅プラン(図1)のような(床面積約120㎡)
玄関から廊下を経ずにLDKに入れるプランへ移行してきました。
つまり、オープンプラン化が進んできており、これらは
最近の小さな家+全館暖冷房+1種換気の流れに呼応しているようです。
水廻りと居室の間に廊下を挟まないことで、
冷暖房室(LDK)と水廻りの室温ムラを是正する効果があり、
特に冬季のヒートショックの懸念が大きい脱衣室の室温を上げることに
役立っています。


空間構成を断面でみてみましょう。
図1に対応するのが図3、図2に対応するのが図4です。
図3の中廊下型プランは動線部分を境にして
4つのエリアに分かれてしまいます。
図4の廊下なしプランは動線部分も取り込んでしまうので
2つのエリアになります。


以前のコラムで取り上げた南動線や縁側アプローチは図5に示します。
北側中廊下から南側に動線部分を移動することによって、
階段や水廻りが居室に直接繋がることになります。(図5)

工夫しておきたい点


① 水廻り⇔ LDK間の視覚的工夫をしたい
図2の朱書き部分ですが、
居室から水廻りの扉がズラズラと見えると、
古い事務所ビルのテナントの一室のような表情になってしまいそうです。
居間からトイレの出入りが露骨に見えることは避けたいところです。
便器が見えるのはNGでしょうから、便器の位置も気にしたい。
たとえ半畳の広さであっても前室(バッファー)をとる、
踏み込みに垂れ壁を設けるなど
居室と水廻りが違った空間に意識できるような
間取り上の工夫をしたいものです。

② 北面にも視線の抜け感が欲しい
温熱計算では、
主開口面以外の開口部は出来るだけ少なくした方が有利になりますが、
通風や昼光利用の点では、
南側の主開口と反対側にある操作しやすい位置にも開口部は
あった方がよいでしょう。
居間の北壁に並ぶ水廻りの窓を使って通風してもいい訳ですが、
一か所ぐらいは居間と直接外気に接する窓を設け
視覚的な抜け感や明るさが欲しいところです。

③ 居間には落ち着くコーナーが欲しい
オープンプランでは居間に玄関や階段、水廻りやキッチン、その他の居室が
繋がっているので緻密に動線計画をしておく必要があります。
内壁や外壁に囲われた部分に限らず家具を用いてもよいのですが、
動線にならず、人がホッコリ落ち着けるスペースをつくりたいものです。
(図6)

小さめの家、区切ることができる住宅


私事ですが、この数年、年初めになると、
過去に新築住宅を設計させていただいた建て主から
リフォームの依頼をいただくことが多くなりました。 
築10年内外なら、子供部屋を間仕切るご要望です。
築20年を経過した概ね50~60歳の建て主の場合は
次の25年の暮らし方を想定され、
子供が独立したので(住み継ぐ人がない)、自分たち夫婦だけのために
手を加えたいなど、ご要望は様々ですが、
おおむね、住む人の位置が特定され、かつ人数が減っていく傾向が
強いと感じます。
省エネ基準程度の性能をもった住宅をリフォームする際、
元の面積が小さめであれば、気積を変えなくても何とかなりますが、
逆に元の面積が大きければ、気積を小さく区切りたくなります。
前者は、余剰スペースができにくいので区切る必要が低くなります。
しかし、
後者は、使う人が居ないスペースができるので、
これを区切れるようにした方がよいでしょう。
この場合、平面的に区切ることは比較的簡単で建具を設けておしまいです。
一方、吹抜やリビング階段などのように断面的に繋がった空間がある場合は
あとで簡単に区切れるように新築時から一定の工夫をしておいた方がよいでしょう。(図7、8)


全館空調vs間歇空調、小さめの家vs大きめの家の様々な議論がありますが、
容易に1~2人暮らしに適切なスペースに区画できるデザインされた住宅が無駄なエネルギーを使わずに済むと考えますが、どうでしょう?

パッシブデザインと住宅の質を同時にブラッシュアップ

居間の吹抜け、2階から導光などの手法を用いて
計画的に日射利用暖房をする住宅が増えていると思います。
このような手法だけに陥ることなく、視覚的な工夫。
何もしなくても、ほっこりできる居心地のよい空間づくり。
住まい手の人数の変化に対応できる丁寧なプランニングが
重要だと思います。
家庭の省エネルギーと室温上の快適性を同時に
達成しようとする私たちにとって、
住宅の質と言えるような要素にも目を向け、
少しづつブラッシュアップしていきたいですね。


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