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パッシブデザインとプランニング~南動線と南縁側アプローチ~

こんにちは。
1985理事の米谷です。
設計者の視点から、
パッシブデザインとプランニングについて考えてみようと思います。
今回のテーマは、動線計画です。

■想定条件
比較的広い敷地に自立循環型住宅一般型モデルプラン(以下、自立モデルと呼ぶことにします)のような住宅を建てる想定とします。
北側接道で、3方隣地に住宅あり、第一種住宅専用地域(50/100、1高、壁面後退1m)想定の敷地に、2階建て、床面積120㎡程度、4寝室(客間+主寝室+2寝室)の住宅がほぼ南面している住宅です。
一般的には建蔽・容積ともにかなり余裕がある想定と言えます。パッシブデザインのひとつの設計要素である日射利用暖房を目指すものとします。
都市部で仕事をされている方には参考にならないかも知れません。その場合はご容赦ください。
平面形状は、『パッシブデザイン講義』※1のp74より、東西に長く(南面の開口部を多く設ける)して、日射利用暖房する上で有利な平面形状にして、主開口を増やすことを目指してみることにします。(以下、日射利用暖房に用いる南面の開口部を主開口と呼ぶことにします)

※1『パッシブデザイン講義』:野池政宏著 パッシブデザイン テクニカルフォーラム発行

■主開口はサッシと付属部材による「合わせ技」で考える
最近は、U値の低い高性能サッシを採用する傾向が強くなっていると思います。このこと自体は断熱性をUPできるので歓迎なのですが、高性能といってもサッシ単体だけで断熱や日射遮蔽を外壁など同じレベルまで引き上げるのは難しいので、何らかの工夫を考えなくてはなりません。日射取得をしたい、防犯もしたい、容易に庭にも出たいなど複数機能が要求される主開口では、十分に検討したいものです。
備えておきたい機能は一つではありません。夏は遮りたいし、冬は採り入れたいという矛盾を両立させるにはどうしたらよいかも検討しておきたいものです。
そこで登場させたいのが、外付けブラインドや断熱戸といった付属部材です。主開口ではサッシ単体を選定すること同様に、閉じたり開いたりと可変性がある付属部材をつける「合わせ技」を検討してみましょう。日射遮蔽するためにはサッシの外側に付属部材をつけ、主に断熱を強化するためにはサッシの内側に付属部材をつけて、サッシの性能を補完できるように備えましょう。

日よけは外で

■主開口の付属部材の開け閉めは忙しい!
次に、主開口に付属部材が装備されたとして、住まい手がどのような操作が必要かについて整理してみます。

冬においては、
①日照がある時間帯は出来るだけ日射取得したいので、付属部材は開ける。②日照がない時間帯は熱が逃げないように断熱性を上げたいので、内外ともに付属部材を閉じる

夏においては、
③日中は徹底的に日射を遮りたい(外ではじく)ので、少なくとも主開口に日射があたる時間帯は付属部材を閉じる
④外気が低い時間帯は通風もしたいので、付属部材やサッシを開く

このように操作自体は簡単なのですが、住まい手に外部の日射や気温などの変化に応じて、1日に少なくとも2回は主開口のサッシや付属部材を「無理なく」アクティブに操作して欲しいですね。この「無理なく」というところが、パッシブデザインを狙い通りに近付ける(温熱計算した快適さ)ポイントになると思います。

■プランニングを工夫してみよう!
さて、設計者がもっとも時間をかけるプランニングを工夫することによって、住まい手が前の①~④の「無理がなく」開閉できるようにするにはどんな配慮があればいいかを考えてみましょう。

私の考えを整理すると、
1.主開口を住まい手が意識しやすい位置(眺めたい庭側)に設ける。
2.主開口や付属部材の開閉にかかる手間(特に移動距離)を少なくする。
3.主開口を共用部(廊下など)に面して設ける。

こんな感じになります。
もう一つ付け加えるなら、
4.結果的にできた空間が他の用途(洗濯モノの内干し)にも使えるといいなぁ。

■ 南縁側動線の提案
 自立モデル(下図)をみてみましょう。北西が玄関になっており、居室群の北側に廊下や階段があり、これを挟んで北側に水廻りがあります。2階は北側に廊下があり、そこから各居室に入れるようになっています。
このプランのメリットは、居室を経由せずに各部屋に行けるため、部屋の独立性が保てることです。一方、デメリットは主開口の操作に手間がかかる(移動距離が長い)ことや廊下・階段が移動する用途以外に利用できないことだと思います。

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次に、同じ床面積で中廊下(2階は北廊下)や階段の動線を主開口側(南)にもってくるとどうなるかを考えてみます。

提案1階
提案2階

 このような組み換えをすると、主開口の操作はヨコ移動で済みますので短くなります。また、主開口が個室の中にないので住まい手の誰でもが操作しやすい位置になります。
確かに、2階の3室のうち手前の1室だけは奥の部屋を使っている人が通過しますが、両端の部屋の独立性は保たれます。1階の和室南側や2階の主寝室の南動線部分は居室に取り込んでも、縁側のようにしてもどちらでも選択できます。
この南動線の2階部分は、単なる移動空間にならず洗濯モノの内干し場所として最適になると思います。共働きの世帯であれば、一日中バルコニーに洗濯モノや布団を干して出かけることに抵抗があると思います。この南動線の部分を物干し場に使えば、急な雨で洗濯物が濡れてしまう心配がなくなると思います。
図上、建具Aと書いているのは、居室側に光が入る障子のような建具がよいと思います。開放さを表現したいときは引込めるような工夫をしてはどうでしょうか?

参考までに、食卓に座っている人が主開口の操作する移動ルートを図に青い破線で書いてみました。北(中廊下)動線の自立プランでは約65m、南動線の提案では約45mになります。細かな数字にこだわる必要はありませんが、移動距離は明らかに少なくなって、「無理なく」操作するために好都合だと言えないでしょうか?

■ 南縁側アプローチの提案
玄関の入り方を考えてみましょう。南縁側動線にフィットする居室への入り方を矢印で示しました。
南側の縁側部分にアクセスさせ、建具で仕切ってはどうでしょう。これに併せて、勝手口を駐車場のあるアプローチ側に設けてはどうでしょうか?自立モデルに比べ、玄関に至る長いアプローチがとれ、玄関と勝手口位置が近接しているので使いやすくなると思います。

このような南側に動線をもってくる住宅は、けっして珍しい訳ではありません。
少し前になってしまいますが、テレビドラマを観ていると、茶の間で団らんしているシーンに帰宅した人が縁側から現れ、会話に参加します。サザエさんでもカツオが縁側から侵入してきますし、大河ドラマでも家来や越後屋がやはり濡れ縁から登場します。
このあたりの動線部分と居室の関係が、パッシブデザインで求めたい主開口のアクティブな操作に役立つヒントがあるように思います。

戦後になって、個室化や水廻りを住宅内部に取り込むなどの変遷を経て、自立モデルのような北廊下や北動線が当たり前になったのではないかと思います。しかし、リビング階段が流行するなどして居室に動線を取り込むことに抵抗感のある人は減ったように思います。プランは建て主の住まい方の要望や敷地条件によって左右されるので、一概にこれが一番いいという種類のアイデアではありません。プランニングする際の一つの案としてポケットに入れておいていただければと思っています。

1950年代に建てられた平屋の名作住宅を紹介しておきます。戦後すぐですので、性能面では参考にならないと思いますが、玄関から居間~寝室の流れるような動線、玄関と勝手口の関係など、日射利用暖房を目指すときに参考になると思います。ご興味のある方は調べてみてください。

・『栗の木がある家』 /生田勉氏設計
・『斎藤助教授の家』/清家清氏設計

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