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「買わずに飼ってね」は動物をタダでもらえるという意味ではない

我が家の王子は約9年前、大阪のアニマルレフュージ関西(アーク)から譲渡していただいた保護猫です。(※アークの活動について、詳しくはHPをご覧くださいませ)
娘には幼少期から猫を飼ってほしいとせがまれていましたが、様々な理由から動物を飼うことはできませんでした。たまたま縁あってアークという存在を知っていたので、いつか猫を飼うときはアークから引き取ろうと決めており、環境が整いようやく迎え入れることができたのが2013年の冬でした。

それまでは、今は自分は飼うことができないけれど、犬や猫を飼いたいという方がいればアークを紹介していました。

そんなある日、当時の同僚に猫好きな方がいました。捨て猫を拾って飼っていると言っており、結婚して奥様も常に在宅されているということでしたので、拾われた猫ちゃんも安心だなと思っていました。お互い猫好きということで時々お話をするようになったある日、1匹では可哀そうだからもう1匹猫を飼いたいとおっしゃいました。そこで私はアークを紹介しました。

アーク 里親になるまでのステップ

アークでは譲渡の際に事前調査書への記入が求められます。飼育にふさわしい環境か、家族に反対している人はいないか、アレルギーはないかなど約30項目に及ぶ確認事項があります。写真や見取り図でもきちんと飼育環境を確認されますし、面接もあります。審査を通過していよいよ里親になると決まった場合も、里親料をお支払いする仕組みになっています。これらは安易な引き取りにより再び飼育放棄される悲劇を防ぐためのものだと私は理解しています。

可愛いからと飼ってはみたものの、実はペット不可の賃貸だった、家族がアレルギーでやっぱり飼えない、実は飼育にはふさわしくない環境で散歩にも連れていけない、思っていたより大変で面倒を見切れない等々、飼育放棄となる例は枚挙にいとまがりません。コロナ禍でもペットブームの裏で同じような理由で飼育放棄となったニュースが流れたのは記憶に新しいところです。

話しは同僚にアークを紹介したころに戻ります。はじめは黙ってアークの里親システムについて聞いていた彼が、里親料の話になったとたん、突然険しい表情になりました。そして話を最後まで聞くことなくいきなり激怒し始めたのです。
「捨てられた猫を引き取ってやるのに、なんで金払わなきゃならないの?」
「こっちは善意で引き取ってやるって言ってるのに、金とるってどういう神経なの?」
と……。

アークの里親料の中には、以下の費用が含まれています。
 ・ ワクチン
 ・血液検査
 ・不妊/去勢手術
 ・マイクロチップ
これらはすべて犬や猫のために必要なことだと説明しましたが、自分で獣医さんに連れて行けばもっと安くすむから払いたくないといって譲りませんでした。そもそも引き取ってやるのに、なんでお金を払わなければならないのか理解できないというのが怒りの原因のようでした。

彼が何度も口にする「引き取ってやる」という言い方も、なんだか上から目線でいやだなぁと感じ、この時点でアークを紹介するのはやめようと思いました。価値観が違うと感じたからです。
アークの考え方に同意できないのであれば無理に里親になってもらう必要はないと伝えましたが、彼の怒りは収まらず、いつまでも文句を言われたのを覚えています。

後日彼はどこからか子猫を1匹、無料で引き取ったそうです。しかし、その子は1年もたたずに亡くなったと聞きました。ひもを飲み込んだことが原因で気づいたときは亡くなっていたそうです。彼は猫が好きだったと思います。でも猫の安全を配慮してあげることができませんでした。自分で病院に行けば安く済むと言っていた彼ですが、結局避妊手術もしなかったと聞いて、こういう事態を防ぐためにも譲渡前に手術をしたりマイクロチップを装着したりすることは有効だと感じました。ただ彼のように、その費用を負担してまで飼いたくないという人もいるのが現実です。

ここ数年、テレビ番組や報道での影響なのか動物保護活動への関心が高まっているように感じます。そのなかでよく聞かれるのは「買わずに飼ってね」というフレーズです。もちろん私も同じ意見です。ペットショップで高額で取引されるペットの裏側で、ひどい飼育環境で繁殖のためだけにケージから出ることなく生涯を終える子や、売れ残って処分される子たちもいるからです。それなら保護犬や保護猫をシェルターから引き取って飼えばいいかといえば、やはりそこにも問題が潜んでいると思うのです。

◎無償譲渡に潜む問題

ひとつは保護犬や保護猫はただでもらうのが当然という認識です。
ずいぶん前ですが、事件を起こして捕まった人が、人間を傷つける練習台として何匹もの猫を虐待するためにシェルターから引き取っていたと報道されたことがありました。安易に譲渡すれば、幸せになると思って譲渡した子がもっと不幸になることもあるのです。
前述の彼のように、善意ではあるけれど無料だから飼う(でも必要な手術とかマイクロチップの装着はしないよ)という方もいらっしゃる。それが多頭飼育崩壊や脱走して野良になるという不幸にもつながります。

◎終生面倒を見る覚悟

もうひとつは最後まで飼う覚悟がない人がいることです。
いざ飼ってみたら病院代やら餌代やら思っていたよりお金がかかることを知り、やっぱりいらないと手放す人もいます。思っていたよりなつかない、しつけができないという理由で手放す人もいます。
猫を飼えば壁や大切な家具を傷つけられることもあるでしょう。犬を飼えば毎日散歩につれていかなければならないし、吠える声が近所に響くこともあります。
ペットを飼うことによる生活の変化を受け入れて飼い続けることができるのか、動物を飼うことによって生じるお金の問題む含めた諸々の事柄を飼う前にきちんと認識して、それでも最後まで面倒みるという覚悟があるのか、飼う前によく考える必要があると思います。
もちろん、自分や家族が病気や災害で飼えなくなるということもあるでしょう。未来は誰にも予測できません。それでも、そういうことがなければ終生面倒をみるという覚悟は必要だと思います。

◎買わずに飼うための環境づくり

「買わずに飼ってね」という言葉の中には、買わずに飼う環境をつくるということも含まれていると思います。
買わずに飼うというのは無料で動物をもらえるという意味とイコールではないという受け入れ側の認識を変えていく必要があるのではないかと思っています。手術費用やマイクロチップの費用を負担してもらうことで、動物を飼うことの責任と覚悟を認識してもらう助けになるのではないかと思います。

日本ではようやく動物保護活動が認知されてきたように思います。保護動物活動の問題は奥が深く、簡単に語れる問題でないことはわかっています。ひとつだけわかっていることは、動物に罪はないということだけです。

日本ではペットは「もの」として扱われていますが、ペットも人間と同じ「いのち」であることがもっときちんと認識されてほしいなと思います。


長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございました。


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