見出し画像

【読書感想文】『ピアニシモ・ピアニシモ』 辻仁成著

『ピアニシモ』を返却しに図書館に行ったら、続編の『ピアニシモ・ピアニシモ』があったので続けて読んでみることにしました。

この作品は、デビュー作『ピアニシモ』から18年後に書かれたそうです。
具体的にどこが、とは言えないのですが、少し描写の方法が変わったような印象を受けました。

『ピアニシモ』の最後では、主人公トオルが自立への道を歩き始めるような雰囲気でしたが、この作品でトオルは中学一年生で、まだヒカルと一緒でした。

相変わらず孤独で、教室でもチャットルームでも「いるだけの人」トオル。生徒が殺人事件に巻き込まれ、そこから新たな混沌が生まれていゆきます。
校内に潜む殺人者への恐怖、絶望、悪意。
3年前に殺された少女の幽霊が彷徨い、学校の地下にはもう一つの中学校の存在。

どこからが現実で、どこまでが夢なのかわからなくなってきます。
これは孤独な少年トオルが心の中に作り出した妄想の世界なのだろうと思うのですが、体は女性だが心は男性であるシラトの存在が、それを少し現実味のあるものに仕立てている気がします。

大人が忘れてしまった10代の持つ感性や、不安、恐れが、トオルという存在を通して表現されているのでしょう。

辻さんの作品ぽいと思ったのが、あいまいなものに対する独特な表現の仕方です。灰色、パンの子、ガオー、いるだけの人。

あいまいな表現が、よりそのものの曖昧さを際立たせ、そして特徴をとらえている気がしました。

物語はトオルの目線で淡々と進んでゆきます。同じところをぐるぐる回っているような感覚がありながら、次の展開が気になるという不思議なとらえどころがない小説だと感じました。

ただ、10代のころを思い出すと、いつも心のどこかに逃げ場としての妄想の場があったように思われ、辻さんは歳を重ねても10代の純真さや恐れ、希望のような何かを持っている方なのかもしれないと思いました。
18年経ってもデビュー作のころと変わらない、みずみずしい感性があふれる作品に驚かされます。

家庭と学校という狭い社会の中でもがく少年の心と、シラトとの関係性で成長していくトオルは、身近なところにもいそうな気がしてきます。
大人と違って、簡単にはその世界から逃げられない子供だからこその葛藤が見えるような作品でした。

タイトルにある「ピアニシモ」という言葉が、何を意味しているのかはわかりませんでした。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
良い一日になりますように。

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,902件

読んでくださってありがとうございます!もし気に入っていただけたらサポートいただけると嬉しいです。猫さまのために使わせていただきます。