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通訳として船で地球を5周した後、23歳の僕が決めた進路

こんにちは!大家族フォーサイス家のJoeです。

先日は僕の生い立ちや思春期の葛藤について、そして通訳・翻訳者になった経緯を綴りました。今回は、通訳者から今の仕事に行き着いた経緯を書いてみました。

1) 23歳までに通訳として地球を5周

2014-17年の間、私はピースボートというNGOが運営する地球一周のクルーズに計5回参加し、距離にして25万キロ、約60カ国を訪れた。乗船した目的は通訳の訓練。通訳を大学で専攻しており、実戦経験を積むためだった。通訳として被爆者の証言活動の通訳をしたり、日本人の若者とシニア計20名を南アフリカ最大の旧黒人居住区ソウェトにホームステイをさせたり、アメリカと国交正常化前のキューバに50-80歳の日本人20名を1週間連れて回ったり。ガンジーのお孫さんの通訳をしたり。朝起きれば別の国にいるという、今振り返っても、非日常の連続だった。

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2) 70歳のおじいちゃんでも変われる

乗船者は毎クルーズ1000人ほど。9割以上が日本人で、その6割〜8割がリタイアされたシニアの方である。その中に印象に残った70代のおじいちゃんがいた。夕食の場で一方的に僕に話しかけ、挙げ句の果てに「外人のあなたに日本のことわからんやろ?」と言ったり、キューバのレストランに日本のおもてなしを求めて給仕の方にブチ切れて怒鳴っていたり。

そんなおじいちゃんでも、20か国以上を訪れた後、下船前に「お前さん、世界にはいろいろな考えがあって面白いな。俺は知らんかった。日本の常識は世界の非常識や。自分とは違う考えの人ともっと話して学びたい。あんたのお陰や。ありがとう」と言ってくれたのが衝撃的だった。

あんなに頑固だったおじいちゃんがたった3ヶ月にして変わった。それは新たな文化や価値観に直接触れたからに違いないと思った。自分の目で見て肌で感じた新たな世界観によって、日本から出たことがなかった70代の方の世界観が広がった。いつの間にか、グローバルマインドセットを養っていた。

日本とオーストラリアの狭間で自分のアイデンティティに悩んでいた僕は「異文化理解を進めるには、直接異文化に触れる機会を出来るだけ多くの人に作ればいい」と思った。

ただ、船では3ヶ月に1000人。それでは足りないのではないか。「飛行機なら1日に200人くらい連れて行ける。もっと多くの人を新たな世界に連れていける飛行機のパイロットになろう」と決めた。

3) パイロットへの挑戦

2017年にANAの自社養成パイロットという、未経験の大卒者が申し込み、合格すれば給料をもらいながら飛行訓練を受けパイロットになれるという試験を受けた。

数万人が応募して30人しか受からないという狭き門。選考期間は4ヶ月に及び、5次選考まである。書類選考(エントリーシート)、1次面接、2次は厳しい身体検査、3次は*TVゲームのような操縦の試験があった。
(*3画面あり、右の画面に表示される計算問題をチラ見して口頭で回答、真ん中はゲームのような飛行画面、足でペダルを押さえ、左は指示が聞こえたらボタンを押す。マルチタスクと暗算が得意なため突破できた)。

4)面接の練習のつもりだった

4次のフライトシュミレーターと面接の試験の前に面接の練習をしようと、有明のビックサイトで開催されていた*東京キャリアフォーラムに足を運んだ。(*国内最大級の留学生向けの就職イベント)

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中に入るともの凄い数の留学生と企業のブースに圧倒された。最初に目に入った企業がパナソニックだった。小学校からラグビーをしてきたので、「ラグビーの強いチームや」というイメージしかなかった。

説明を聞いてみると、「企業は社会の公器」「社会課題解決」など、NPOで聞くような理念で驚いた。興味を持って履歴書を提出すると、1時間後にホワイトボードに名前が書かれており、面接に呼ばれた。面接が終わると「オフィスで最終面接をするから来週お越しください」と言われた。

最終面接は人事担当2名と20分ずつくらいだった。そのうちの一人の人事部長が印象的だった。面接が終わり、内定通知をいただいた後の面談でのやりとりだった。

人事部長:他に受けとるところはあるんか?

Joe:実はパイロットになりたいんです。最終の手前まで来ていまして。

人事部長:そうか。パイロットか... 絶対なれると思いますわ。俺は応援しとる。でもな、考えたくないかもしれんが、万一受からなかったときは、いつでも歓迎するから。安心して受けてこい。絶対受かれよ!

5) 4次試験 フライトシュミレーター

その翌週が4次のフライトシュミレーターの試験だった。羽田空港の中で行う2日間の選考で、1日目の午前に操縦方法やコースを学び、午後に1回、2日目にもう1回操縦をする。箱の中に入ると計器がたくさん並んでいて、10箇所くらいの動きを同時に見なければならなかった。

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初日の操縦は思いの外上手くいき、「天職か!」と悦に浸っていたが、翌日の試験は強風に煽られているような感覚に見舞われ墜落しかけた。周りの受験者は、1日目〜2日目の上達度合いを見ていると言っている。ゲームオーバーだと思った。

2日目の最後に面接があった。何故パイロットになりたいか聞かれ、「これまでたくさんの日本人を海外に連れていき、異文化に対する理解が広がっていく様子を間近で見た。そのきっかけづくりをしたい」と伝えた。

6) それは目的か、手段か


2週間後、案の定不合格通知を受け取った。来年もまた受けようと思い、それまで時間と多少の貯金があったので、直ぐにスペインに5ヶ月留学することを決めた。スペイン留学中、例のパナソニックの人事部長と話した。

Joe: パイロットの試験はダメでした。

人事部長: そうか。残念やったな。

Joe: まだどうするか決めきれていません。

人事部長: ゆっくり考えればええ。ちなみにな、うちの会社は来年で創業100周年を迎えるんや。次の100年に向けて会社が変わらないかん。君の好きなことをしてええから、一緒に変えてみらんか。

Joe:・・・少し考えさせてください。

立ち止まって考えてみた。パイロットは偉大な仕事だと思う。常にコンディションを整え、訓練と勉強を続け、乗客の命を預かる任務だ。でも、面接で自分が口にしたように、僕にとってそれは異文化理解を進めるための一つの手段であり、目的ではない。そもそも、自分が操縦することで何が変わるのだろうか。安全に目的地にお届けすること以外に、与えられる付加価値はあるのか。

そう思うと、パイロットへの熱が一気に冷めた。そして、どうなるか分からないが、この懐の深い人事部長のいる会社で働いてみようと思った。

入社数ヶ月前の配属面談では、通常「営業を希望します」など希望する事業や職種を言うらしいが、僕は「新たな文化や考えに人々が触れるきっかけを作りたい。それが出来るところがいい。配属はプロの人事にお任せします」と告げた。

7) 900人を代表して決意表明

3月になり、スペイン生活も残り2週間、入社まで3週間という時に1通のメールが届いた。なんと100周年の入社式で900人超の新入社員を代表して決意表明をしてほしいと言うのだ。900人の新入社員とNHKなどのメディアを前に、社長の目を見つめながら、用意した原稿をほぼ読まずに訴えた。

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2018年度 Panasonic 入社式 決意表明

本社に配属されました、フリン丈と申します。

学生時代、私は専攻するの通訳の実戦経験を積むために、大学を一年間休学し、国際NGO主催のクルーズ船にボランティア通訳として参加しました。地球を5周、70か国以上を訪れた中で、最も印象深かったのは長崎、広島の被爆者の方々の証言を14か国で通訳したことです。

当時21歳の私には86歳の被爆者が70年前に見た地獄絵図を世界に発信するための想像力が不足していました。命を削って証言活動に従事する被爆者の思いを伝えきられない悔しさから、彼ら被爆者と三か月間、食事も含めて共に行動し、被爆者の立場になって毎日通訳をしました。その結果、三カ月後にハワイで行われた証言会では、ホノルル市長が私の通訳を前のめりになって聞き、涙を流していました。そしてこの活動は運動が、ICANのノーベル平和賞受賞にも大きく貢献することができましたしました。

これらの経験から私は「相手の立場になって考え、自分事として問題に向き合う想像力の大切さ」を学びました。

以来、私の座右の銘になっている言葉があります。それは、
"If you are not part of the solution, you are part of the problem."
直訳すると日本語では、「問題の解決に取り組んでいないのであれば、あなたは問題の一部なのである。」です。

地球市民(グローバルシチズン)として人々の生活をより豊かにし、次世代のために環境に配慮した技術や製品を世界中に広める。これがA Better Life, A Better Worldの意味であると私は理解解釈しています。

これからはパナソニックの一員として、あらゆることに世界のことまで想像力を働かせ、問題解決の一部となり続けることを宣言し、私の決意表明とさせていただきます。

その後1ヶ月の導入研修、滋賀県草津での1ヶ月の工場実習、福岡での1ヶ月の販売店実習を経て本社のグローバルコミュニケーション部に配属された。他人の言わんとすることを表現する通訳から、グローバルで企業のブランドイメージを向上させるための広報という違ったコミュニケーションに従事することになった。

<つづく>

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