【アイリス 楊氏】医療は特殊領域ではない。強みと成長機会が合致した選択肢
フォースタートアップス(以下、フォースタ)では、エンジニアに特化した専門チームであるエンジニアプロデュースチームをつくり、スタートアップに対してキーパーソンとなりうるCTO・VPoE・エンジニアのご支援をしております。
アイリス株式会社(Aillis, Inc.)(以下、アイリス)は、病院や医師向けの人工知能技術(AI)を用いた医療機器を開発しています。医師が長年の経験から培った匠の技を、他分野の医師も再現し、次世代にも継承できるよう、AIを組み込んだ新しい医療機器の実現に向けて取り組んでいます。
今回は大手SIerでパッケージソフトウェア開発後、AIスタートアップでAIプロジェクト推進の経験を経て、2021年10月よりアイリスに入社し、ソフトウェアエンジニアとしてファーストプロダクトのリリースを手掛けている楊 建星さんに、現在のお仕事のやりがいや転職のタイミングなどについてインタビューしました。
クライアントの声を聞き、PDCAを高速回転。見えたキャリアの「軸」と「人」が決め手でアイリスに
−−まず、楊さんのファーストキャリアを教えてください。
楊:大学院修了後にSI企業である株式会社電通国際情報サービス(以下、ISID)に入社しました。ただ、私自身はSIに従事したことはほとんどなく、8年間ほど製造業向け自社パッケージソフトウェアの開発に従事しました。実際にコーディングで手を動かす部分からプロジェクトリード、仕様検討、運用保守まで、プロダクト開発を一通り経験させてもらいました。
−−最初の転職はどのようなきっかけでしたか。
楊:業務面・技術面の双方でもっと幅を広げたいと考え始めたことがきっかけです。
入社以来ずっと開発部門に在籍していたこともあり、お客様と直接接する経験が圧倒的に足りないと感じていたことも理由の一つです。数少ない客先訪問機会の中で、百聞は一見にしかず、という言葉を痛感しました。実際に客先訪問してシステムを利用している様子を見たり、現場で直接お客様と話してみないと分からないことがたくさんありました。
そこで、お客様の業務や要望を直接伺うことができて、かつ新しい技術領域であるAI分野にチャレンジできると感じたAIスタートアップベンチャーの株式会社シナモン(以下、シナモン)に転職しました。AIを活用した業務支援ソリューションやAIコンサルティング事業を行っている企業です。
−−転職後は、どのような変化がありましたか。
楊:お客様と接する頻度が全く違いましたね。
ISIDでは年単位で開発を行っていたため、お客様と接する頻度も年に数えるほどでしたが、シナモンでは3〜5ヶ月程度の開発期間で、複数のお客様に対してソリューション開発やコンサルティングを同時に担当していました。そのため、さまざまな業界のお客様と頻繁に接する機会を得て、多くのことを学ばせていただきました。
中でも意識したことは、お客様の業務とAIプロダクトの架け橋となることです。本質的な課題解決につなげるため、課題設定を適切に見直す。クライアントごとに、どのように業務プロセスを変えれば改善につながるか、AIプロダクトをどう適用していくのがお客様にとって最善かを考えて提案する。そのためには、最も業務を理解しているお客様自身から詳細を聞き出すことが何より重要でした。そのためお客様とのコミュニケーションを高い頻度・精度で実施する必要がありました。
−−環境を変えたことで気づいたことはありましたか。
楊:多方面の業務知識をキャッチアップしつつ、スピード感をもってプロジェクトを導いていくなかで、より自分の得意領域がクリアになったと思います。それは、開発の実務経験、顧客業務内容の迅速かつ正確な理解、それらをベースとしたプロジェクト管理の3本柱です。
一方で、お客様に近くなった分、今度は次第に開発や技術と一定の距離を感じるようになりました。また、その頃には課題であったお客様とのコミュニケーションも、自分の中で十分に経験できたと感じたことから、引き続きお客様との接点が多くある環境で「より自分の強みを活かして、より開発に近い立場で仕事がしたい」という想いや、「技術や業務の領域も更に広げたい」という想いが膨らみ、2度目の転職を考えはじめました。
−−そこから、アイリスに転職されましたね。
楊:はい。転職活動のタイミングで様々な方とお話ししました。その中でフォースタートアップスさんに紹介いただき、現在のアイリスに出会いました。アイリスでは、感染症診断支援用AI医療機器の開発を行っており、「ここならシナモンでのAI開発の経験を活かしつつ、新たに医療機器開発に携わることで技術の幅を広げることができる。さらにソフトウェアプロジェクトのマネジメントを活かしつつ、ソフトウェアチームの組織マネジメントも経験できる」と確信し、入社しました。
−−転職時には多くのオファーがあったと伺いました。数ある中で、最終的なジャッジに影響を与えたものは何だったのでしょうか。
楊:最終的には人で選びました。
面接段階で特に印象的だったのは取締役CTO 福田敦史さんです。
面接の中でワークショップがあったのですが、その際にコミュニケーションの取り方や雰囲気などの波長が合う方だなと強く感じました。
また、お話する中で、新しい技術を積極的に採用している姿勢にも非常に惹かれました。入社後に最も近くで働くことになるCTOとの相性は大きな決め手になりました。
また、最初のカジュアル面談で代表取締役CEOの沖山さんの目線を聞けたのも大きかったです。現在の医療業界についてや課題感を、現役医師の目線で話してくれました。もともと医療業界に興味はなかったのですが、お話を伺う中で徐々に興味が湧いたのと同時に、CEO自身が強い当事者意識を持っていることに、非常に魅力を感じました。
技術の違いはない。最新の技術やアプローチは医療機器開発に横展開できる
−−2021年10月に入社され、現在はどんなお仕事をされていますか。
楊:アイリスのファーストプロダクトとなる医療機器の開発全体のプロジェクトマネジメントと、ソフトウェアチームの全体統括をしています。
−−プロダクトの正式リリース前かと思いますが、ファーストプロダクトがどのようなものか教えてください。
楊:咽頭を撮影するためのカメラとAIプログラム、それらをつなぐWebアプリケーションがセットになったプロダクトです。
インフルエンザにかかると、喉にインフルエンザ濾胞(ろほう)と呼ばれる腫れ物ができることがあり、インフルエンザの特徴的な所見として知られています。インフルエンザ以外の疾患でも濾胞ができることがあるのですが、インフルエンザ濾胞とそれ以外の濾胞は、お医者さんでも見極めるのが難しいと言われることがあります。AIのテクノロジーでその見極めを再現するのが狙いです。
−−リリースが楽しみです!ところで、「医療は特殊領域」というイメージを持ち、親しみが持てないという声も聞きます。
楊:開発しているプロダクトは特殊に感じるかもしれませんが、技術的には基本的に異なる部分はありません。Webアプリケーション開発やインフラは一般的なクラウドサービスと同じですし、開発言語やフレームワークも最新のものをどんどん採り入れています。そこはいい意味で予想を裏切られました。
ただし、医療業界は、法令規制やガイドラインなどのルールが多い業界です。特に医療機器は、疾病の診断支援などで人の健康に影響を及ぼすため、ルールを遵守することが非常に重要です。
一方で、ルール遵守は時に開発に影響を及ぼすこともあります。たとえば、現在のルールは、ウォーターフォール型開発を想定してつくられています。しかし、不確実性の高い昨今のソフトウェア開発では、アジャイル型の開発手法が採用されるケースが多く、我々としてもアジャイル型開発を採用したい。そのためには、アジャイル型開発を今のルールにいかに適合させるかを考える必要がありました。
つまり、ルールの目的や本質を正確に理解し、遵守したうえで、最新の技術やアプローチを開発に適用していく必要があります。そのためにも、開発ニーズとルール遵守をいかに両立させるかに日々腐心しています。他の業界でも特有の法令規制やガイドラインが存在する場合はあると思いますので、この経験や知見は他の業界でも役に立つと思います。
ユーザーが最も近い。現役医師が明確なビジョンと現場の声を届けてくれる
−−アイリスならではのいいところはどんなところでしょうか。
楊:現場とのリレーションが強いことです。
医療とITを掛け合わせたサービスを展開する企業は多くありますが、アイリスはCEOが現役医師なので医療現場と密接です。
CEO以外にも現役医師が社内に複数名在籍しており、医療現場で「こうしたい。ここが困っている」という課題の種があふれています。それを拾い上げて形にするのが私たちエンジニアチームで、できたものは社内や会社のリレーションからダイレクトに確認できます。入社してから気づきましたが、プロダクト開発においてこのサイクルの存在は非常に頼もしいです。
−−アイリスが掲げる考えに「知識は文字で蓄積できるようになったが、人間が持つワザは蓄積できずに一代限り、でもAIを使えば継承できる」とあります。
楊:この考えにも共感しました。ISID時代に開発していたシステムも「属人化をなくしてナレッジをシェアできるようにしよう」というコンセプトでしたので、アイリスの考えにはとても共感できました。
−−そのほか、入社後に感じたアイリスさんの魅力はありますか。
楊:創業時からリモートワークを積極的に採り入れている点ですね。ISIDやシナモンでもリモートワークでしたが、アイリスは非常に柔軟です。
「今度旅行に行こうと思って」と上司に伝えると、「じゃあ旅行の前後1週間くらいワーケーションしてみたら?」と逆に提案されるほどです。
ちなみに、採用面接も全てリモートでしたが、実際に会ってもギャップはなく、いい意味で期待通りでした。
成長が凪いだら転職を考える機会。情報を集め、学びを止めない環境選びが重要
−−ここからは、キャリアについて伺います。大手とスタートアップの両方を経験して、双方の良さや違いをどのようにご覧になっていますか。
楊:それぞれの良さがありますね。
大手だと体制やルールが整理されていて、研修も充実しています。何をすればいいか迷うことが少ない反面、ルールを守らなくてはならない、ルールがおかしくても変えられないこともあります。
スタートアップはこの裏返しで、自分次第。何を考えて、何をするかでキャリアが決まります。ルールがない、あるいは固まっていないところが多いので「自分がルールを作る」くらいのマインドの人には合うと思います。
最初からスタートアップに入るのもありだとは思いますが、大手で土台を作ってから、スタートアップに挑戦するのもおすすめですね。自分自身がそういうキャリアでしたから。順番が逆だとしても、両方経験することでハイブリッドな活躍ができると思います。
−−外の環境を考えるのにいいタイミングはありますか。
楊:成長が鈍化したタイミングです。成長の幅は一定ではなくて、グンと伸びる時もあれば、伸び悩む時もあります。ジョブローテーションや新規案件など、社内での変化で成長の幅を伸ばせるのであれば無理に転職する必要はありませんが、環境の変化もなく成長が凪いでいる状態がつづくようなら転職を考えるタイミングだと思います。
私の場合、最初の会社ではジョブローテーションのタイミングが合わず、成長が凪いできていたので転職で環境を変えました。2社目では入社時に習得したいと思っていたお客様とのコミュニケーションプロセスが自分の中で解像度高く再現できるようになり、新規案件を担当させていただいても成長の余地が少なくなってきていたため、転職を考え始めました。重要なのは、その会社に自身を成長させる何かがあるかどうか、そして成長の勢いを保てるかどうかです。
−−これからアイリスでどのようなキャリアを思い描いていますか?
楊:今後のキャリアには2通りあると思っています。
一つは、現状のプロダクトをさらに磨きあげていったり、新しいプロダクトを作ったりする道です。つまり、自らがプロダクトオーナーとなってプロダクトを取りまとめ、導いていくキャリアです。
もう一つは、ソフトウェアチームのマネジメント力を強化し、技術力・組織力を更に高めていく道です。理想的にはどちらも経験してみたいと思っています。
−−最後に、スタートアップに転職を考えている人への応援メッセージをお願いします。
楊:私自身、最初の転職はとても勇気が必要でした。一社しか知らない状況では、外でどれだけチャレンジできるか、通用するか分からず、不安を覚えるのも無理はないと思います。
そういった際は、転職するかどうかはさておき、まずはさまざまな人と会話することをおすすめします。会話することで相手を通じて自分自身を更に深く理解できると思いますし、仕事にしても自身が考えていた以上の成長の機会を見つけられるかもしれません。
私も1社目では転職するまでにキャリアを何度も考え、社内外の方と話しました。話を聞いているうちに、当初は興味のなかった業界やサービスに興味が湧いたり、自身では考えが及ばなかったキャリアの選択肢に気づけたということが多かったです。
人と話すなかで「まだこの会社で学び足りていない、得ておきたいことがある」と気づいて転職を見送ったこともがありました。結果として「残る」と意思決定をしてもいいんです。
重要なのは、いかに学びを継続できる環境に身を置くか、それに尽きると思います。
−−貴重なお話をありがとうございました!ファーストプロダクトのリリース、楽しみにしています!
インタビューご協力:アイリス株式会社
取材・編集:for Startups エンジニアプロデュースチーム