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夜行バスにはドラマがある

社会人になって、大学生よりも時間がなくなった。けれど、その分お金に余裕ができた。

お金に余裕ができると、いろいろな選択肢の幅が広がった。一方で大学生のころはよく選んでいたのに、選ばなくなったものも増えた。

夜行バスもそうだ。

乾燥したあの車内に閉じ込められるよりは、4列シートのリクライニングをギリギリ下げても首がいたくなるよりは、まだ到着じゃないのかなと目を開け時刻を気にするよりは

どうせなら仕事終わりか朝イチに新幹線や飛行機に乗る。ふかふかのベッドで眠りにつく。そういう思考が優先的に働くようになった。

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夜行バスを選ばなくなったけれど、

夜行バスにはドラマがある。いまでもそう思っている。

電車や新幹線や飛行機にももちろん、さまざまな人(人生)が乗っていると思うけれど、夜行バスという小さな密室空間にたまたま乗り合わせた人たちの人間ドラマはなぜか濃度をおびて感じる。

あの1人の女性は、帰省なのか。もしくは遠距離恋愛中の彼にでも会いに行くのか。

あの若い子は就職活動で東京にでも来て、今から帰るのだろうか。うまくいったのかな?

ディズニーランド帰りのような女子大生グループは、いつごろから仲良しなんだろう。

運転手のアナウンスで明かりが消えた車内で、眠りにつけるまでそんなことを勝手に想像する。


みんなどこへ行くのか。誰に会いに行くのか。

そんなことを考えているうちにいつのまにか眠りについて、目を覚ますと目的地に着き、いそいそと降りていく人々の姿を見る、薄明かりの朝。

夜行バスにあまり乗らなくなったからこそ、なんだかいとおしく思える。素性すらも知らないけれど、あの夜、あの時間、あのバスを選んだあの人たちを。

#エッセイ #夜行バスで行きます   #夜行バス  

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