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雨も赤旗も止められなかったフェルスタッペン9連勝——オランダGP

フェルスタッペンが母国オランダで3年連続優勝を飾った。シーズン11勝目で、連勝もF1記録に並ぶ「9」に伸ばした。レース1周目の雨も、サージェントのクラッシュによるセーフティーカー(SC)も、終盤の豪雨による赤旗も、フェルスタッペンを阻むことはできなかった。

チームとドライバーの冷静さを思い知る一戦

レッドブルのチーム力と、フェルスタッペンの冷静さを思い知る一戦だった。

1周目の後半に突然の雨が降ったとき、ペレスが真っ先にピットに入ったが、チームはすでに雨用のインターミディエイトタイヤの準備がすんでいた。素早くタイヤを交換し、ピットロードを駆け抜ける他車の動きを見ながら冷静にコースに送り出した。

突然のタイヤ交換にも平然と作業するレッドブルのクルー

隣のフェラーリは、ルクレールがピットに入ったのにタイヤの準備ができていない。クルーが慌ててタイヤを運び出すドタバタを演じた(彼らは去年のオランダでも同じ失敗をしている)。さらに前方のアルファタウリも同様の醜態をさらした。

結果論では、少々バタバタしようと1周目のタイヤ交換がお得だった。しかし、雨予報を受けていつでもタイヤ交換できる態勢を整えていたレッドブルと、そうではないフェラーリとの差が表れたシーンだった。

レッドブルは2014~20年のメルセデス専制時代もダブルピットストップを平然とやってのけ、戦術の高度化も怠らなかった。逆境でもクルーの士気は高く、2020年のハンガリーのレース直前にフェルスタッペンのフロントサスを修復した手際の良さは折り紙付きだ。

当時、「彼らが最強マシンと最強ドライバーを手にしたらどうなるのか」と思っていたが、いまそれが実現した気がする。

フェルスタッペンは2周目終わりにインターに換えたが、1周の違いは大きく、一時は中団に埋もれて首位ペレスに14秒差をつけられた。しかし、アルボンや周冠宇らを追い越して2位に上がると、7周目には1周で4秒も速い(!)タイムでペレスを追い上げた。

12周目のドライタイヤへの交換タイミングでフェルスタッペンがペレスの前に出ると、あとは独走状態に。16周目のサージェントのクラッシュによりSCが出たが、フェルスタッペンの障害にはならず、一人旅が続いた。

3位を走るのはアロンソ。このコースの3コーナーは大きくアウト側を走る「アロンソが見つけたライン」で知られるが、アロンソは1周目のこの場所をインベタで走り、ラッセルとアルボンをまとめてかわしていった。

48周目のタイヤ交換の作業ミスで後れを取ったが、52周目にサインツを抜き返して3位を取り返した。夏休み前に失速したアストンマーティンは、アロンソの腕一本で息を吹き返した。

雨の判断が左右した中団勢の争い

このレースは雨の判断が順位を大きく左右した。1周目の雨で得をしたのは真っ先にタイヤ交換したペレス、ガスリー、周冠宇らで、大きく割を食ったのがマクラーレン2台とメルセデス2台だった。

各車のタイヤ交換タイミング。角田のソフトタイヤ使用の異様な周回の長さが際立つ

レース終盤、再びチームに判断を迫る状況がやってきた。雨が予想されたが、降り始めのタイミングが分からない。

各車は40~50周ごろに3回目のタイヤ交換をしたが、雨に賭けてタイヤ交換を延ばしてソフトタイヤで走り続けたのが角田裕毅のアルファタウリ陣営だった。

40周目には8位前後を走行し、ノリスやハミルトンらを抑え込むバトルをしたが、60周近くになってもチームは角田をコースにとどめ続けた。

下位から一発逆転を狙うならともかく、雨を待ってタイヤ交換を延ばす作戦が成功した事例はあまり記憶にない。特に、タイヤの摩耗の大きい現代F1では。

角田はずるずると後退し、雨が来る前に入賞圏から消えてしまった。

豪雨にも冷静なフェルスタッペン

60周目に雨が降り始め、各車が一斉にインターミディエイトに交換した。64周目には豪雨となり、周がクラッシュ。レースは赤旗中断となった。

約40分後にSC先導で各車がコースに入り、残り5周でレース再開。

残り5周のレース再開時、フェルスタッペンのインをうかがうアロンソ

赤旗前に2位に上がったアロンソはフェルスタッペンのインを狙うが、首位は奪えず。(アロンソはレース後「クラッシュでも起こしたら(オランダ人ファンに取り囲まれて)サーキットを出られなくなるところだった」と笑って語った)

フェルスタッペンは冷静に1コーナーを抜けるとじりじりと2位との差を開き、チェッカーを迎えた。

ペレスはピットイン時のスピード違反を取られて降格し、1周目のタイヤ交換が奏功したガスリーが3位に繰り上がった。

路面がウェットからドライ、再びウェットへと変わったが、ドライ路面でもハミルトンが1コーナーの大外から追い抜きをみせるなど、随所に好バトルが見られたレースだった。

今回はフェルスタッペンの優勝カップも無事だった。

鈴鹿での王座決定も「射程圏内」か?

フェルスタッペンと2位ペレスの点差は138に開いた。日本GP終了時点で王座を決めるには、イタリア以降の3戦とスプリント1回で点差をさらに「42」広げる必要がある。1戦あたり14点。イギリスGPでこの計算を始めたときは「絶対不可能」と思ったが、もはやフェルスタッペンにとっては「射程圏内」になってきた。

表彰式では優勝者のオランダ国歌を地元の歌手が斉唱した。F1の表彰式で国歌が生歌付きなのは記憶にない。主催者はフェルスタッペンが優勝を逃すとは露ほども心配しなかったのだろう。


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