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佐々木朗希と山井大介、2つの「幻の完全試合」

佐々木朗希投手の完全試合についてつづった4月10日の記事で、「かつて完全試合を果たせなかった中日・山井大介の代わりに、佐々木が日本シリーズでの完全試合に挑む日がいつか来るかもしれない」と書いた。

佐々木が再度、完全試合に挑戦する姿を秋まで待つ必要はなかったようだ。1週間後の17日、日本ハムを相手にまたも完全試合ペースでの投球を続けた。今回は佐々木の疲労を考慮して、投球が100球を超えた8回終了後に降板し、登板2戦連続での完全試合はならなかった。チームも互いに無得点で迎えた延長戦で本塁打を打たれ、継投での勝利も叶わなかった。

痛感するのは、現実が想像を追い越すスピードの速さだ。大リーグで戦う大谷翔平は「メジャーで二刀流が通用するはずがない」との声を渡米3年目で覆した。佐々木についても「現代野球で完全試合は達成しえない」との先入観をプロ入り3年目で覆し、「一度は達成できても二度は無理」との予測もあわや1週間でひっくり返すところだった。

翌18日付の日本経済新聞朝刊のスポーツ面で、佐々木の8回までの投球を伝える記事の左下に、スポーツライターの浜田昭八氏による『中日・山井の幻の完全試合』のコラムが掲載されていた。日本シリーズでの完全試合達成まであと3アウトとしていた山井を降板させ、岩瀬に継投した落合監督の判断については『野球的には正しい。たが、エンターテインメントとしてはどうか』との見解だった。

記事の締め切り日の関係で、浜田氏がこのコラムを書いたのは17日の試合前と思われるが、15年を隔てた2つの「幻の完全試合」の記事が同じ日に並ぶとは何たる偶然だろうか。しかも相手はともに日本ハムだ。

15年前の「幻の完全試合」は途中交代に非難の声があふれたが、今回の佐々木の交代はほとんど非難は聞かれない。佐々木はすでに一度快挙を達成したという前提条件の違いはあるが、「選手生命を守るための継投」の重要性が広く認知された面は大きいだろう。もうひとつは、完全試合への認識が「達成不可能なもの」から、たった1週間で「佐々木の力量があれば、いずれ達成しうるもの」へと変わってしまった影響もあるだろう。

現実が固定概念を崩すスピードは速い。観衆の受け止め方の変化もまた、時代の移ろいを感じさせる。

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