見出し画像

完全試合の「固定観念」は覆された——中日・大野の29打者への完全投球

4月20日の投稿「佐々木朗希と山井大介、2つの『幻の完全試合』」で、完全試合に対する固定観念の変化について、以下のように書いた。

完全試合に対する野球ファンの認識が「達成不可能なもの」から、「佐々木ほどの力量があれば、いずれ達成しうるもの」へとたった1週間で書き換えられた影響があるだろう

佐々木朗希と山井大介、2つの『幻の完全試合』

そのような認識の変化は選手にとっても同じだったようだ。

5月6日の中日-阪神戦で、中日の大野雄大投手が9回まで無安打、無四球ピッチングを続けた。しかしながら、対戦相手の阪神・青柳晃洋も9回裏まで2安打に抑える好投で、両チーム無得点のまま延長戦に。大野は10回表にツーアウトを取った段階で30人目の打者・佐藤輝明に二塁打を打たれ、10回での完全試合達成は幻に終わった。

試合は10回裏に3安打を放った中日が1-0でサヨナラ勝ち。大野は完全試合こそ逃したものの10回を1安打で完封勝利を挙げた。

ここで、上述の記事で取り上げなかった「さらにもう一つの幻の完全試合」を思い出した。2005年8月27日の西武-楽天戦で、西武の西口文也が9回までパーフェクトピッチングに抑えるも、相手投手の一場靖弘の好投で延長戦にもつれ、10回表に初ヒットを打たれて完全試合を逃した試合だ。今回の大野も同じ運命をたどってしまった。

しかし、「完全試合」への固定観念は大きく変わった。

1994年の槇原寛已を最後に二度と見られないのではないかと思われた完全試合が、22年に佐々木朗希によって達成され、その1週間後に同じ佐々木による8回・打者24人の完全投球、さらに1カ月後に大野によって10回・打者29人までの完全投球が成し遂げられた。1年に複数人による「完全試合」または「完全試合未遂」の投球が見られるとはだれが予想しただろう。

誰かがブレークスルーを成し遂げて以降に次々とフォロワーが現れる姿は、他の競技でも当てはまる。国内陸上界では100メートル走で伊東浩司が98年に記録した10秒00を上回る走者が長く現れず、10秒が「日本人の壁」とされてきたが、2017年に桐生祥秀が9秒98で壁を破って以降はサニブラウン・ハキーム、山縣亮太らが9秒台をマークした。その歴史と重なる気がする。

完全試合は別として、打席に立った大野が自分のバットで決勝点を叩き出さんとする8回裏の攻防、同じく打席に立った青柳が大野の完全試合を自ら阻止せんとする9回表のピッチャー同士のプライドをかけた攻防は見ごたえがあった。特に、代打との交代でみすみす完全試合を捨てるわけにはいかない大野にとっては一世一代の打席だったはずで、投手が打席に立つセ・リーグの面白さを認識させられた攻防だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?