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覚えておいて損はない中国語「抿」

■台湾メディアに出てくるレア単語

台湾では、先々月にあたる2022年11月に統一地方選挙が行われ、桃園市長に国民党の張善政氏が当選した。

しかし、就任早々飲酒運転を行なったと周囲から爆料(暴露)され、去就が注目されている。

日本なら市長が酒気帯び運転などしたら、クビが飛んだ上でその足で「しくじり先生」行きの案件だが、台湾では果たしてどう対処するのだろうか。桃園市は台湾の中でも成長著しい都市なので、その動向を台湾中が注目している。

ところで、この記事中にある単語が出てくる。

張善政強調當時只有抿了兩小口紅酒,且過了5個小時,怎麼會是酒駕。

上の新聞記事より

中国語中級以上なら、いちいち日本語訳をつけなくてもわかる程度の内容だが、一つ

「あれ?」

と、その中級者でも引っかかる単語が一つ、存在すると思う。
である。

発音は"min3"で、意味は以下の通り。

  1. (刷毛に油などをつけて)髪の毛をなでつける

  2. 口をすぼめる

  3. (盃やコップに唇を軽くつけて)ちょっぴり飲む

この記事で使われている「抿」は3.の意味で使われており、これで上の文章の「最後のピース」が埋まるはずである。
それを踏まえて翻訳してみると、以下のようになる。

張善政強調當時只有抿了兩小口紅酒,且過了5個小時,怎麼會是酒駕。
:張善政(市長)は、
「当時は紅酒*1をちょこっと口にしただけだし、(運転したのは)それから5時間後のこと。それは酒気帯び運転と言えるのか」
と強調した。

*1 : 紅麹菌を使って造る、台湾や中国華南地方独特の醸造酒

これを見てわかるとおり、「飲んだ」「運転した」ということは認めているものの、「飲んだのはほんの2~3口」「時間が経っていた」と弁解していることがわかる。

「善政」市長が就任早々に法律違反を犯すという、「悪政」をやってしまう疑惑に襲われるという、風雲急を告げる事態。負けた民進党などは黙ってないと思うが、これに関しては外国人、しかも台湾に住んでいない人間がとやかく言うことではない。

◆「中国語」の違い

中国語学習者にとって、ある意味永遠の課題がある。

「『中国語』でも、『中国普通話』『台湾華語』のどちらを習えばいいのか。

学習・実践経験を踏まえた私の結論は、「どちらも習え」ではある。普通話と台湾華語の二刀流、少なくても肌感覚で違いがわかる人はそうそういない。
が、基本的には台湾に興味があれば「台湾華語」、中国に興味があれば「中国普通話」で良いと思う。台湾なら、学習に余裕が出てきたらオプションとして台湾語(余裕があれば客家語)も頭に入れておくと、言語を通して台湾をより深く理解することができる。

しかし、これだけは言えることがある。

読み書き・・・・なら圧倒的に台湾華語」

中国のメディアは、使用する単語が国の方針で決まっているのか、単に乏しいのか、表現が画一的。
良く言えば、覚える単語が少なく効率的かつ簡単ではあるのだが、悪く言えば超がつくほどのワンパターン。

対して台湾メディアの新聞・テレビの見出しは、各メディアによって非常にバラエティがある。中国ではすでに「死語」扱いされ、ポケット辞書なら未掲載の文語的表現もふつうに出てくるし、台湾語や現地に同化した日本語(「日式台語」)まで出てくる。ここまで来ると、中国普通話の辞典では完全にお手上げである。

中国ウォッチャーも、こんなことを述べている。

私にとっては中国と台湾の新聞を読み比べると、台湾の新聞の方が難しいんです。表現力がより豊かだから。語彙が多いんですよ。
それに対し、中国の官製メディアは表現方法がパターン化されています。

宮崎正弘・河添恵子著『中国・中国人の品性』p32-33

これには非常に同意する。中国メディアのニュースは、政治や軍事などかなり込み入った話題でも100%理解できる文章が、台湾メディアの新聞やニュースとなると、見出しでさえ時折、

「あれ?何書いてるんだ?」

とわからなくなり、慌てて辞書を引いたり、ツイッターで台湾人に聞いたりすることがある。

「抿」もその一つ。日常会話で使うというレベルの単語ではないものの、「ちょびっと(酒を)飲む」という絶妙の言い回しとしては、どこかで使いたくなる単語ではないだろうか。


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