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デザイナー視点でみる、星野源「不思議」MV

星野源さんの、「自己と他人」の考え方が好きだ。
家族・恋人・親友…一体どんな関係であっても、他人は他人にしかなりえない。手を取り合っても抱き合っても一つには決してならない。ばらばらのままでいい。
まさにそれがストレートに表現されたデビュー曲「ばらばら」をはじめ、数々の楽曲やエッセイに一貫した哲学が見えるところが源さんの好きなところの一つなのですが、彼が初めて「ラブソング」に向き合って制作されたという新曲「不思議」はタイトルのチョイスから中身まで、そんな哲学を持った源さんだから書ける曲になっていてすごく良いなあ…と思いました。
(正直ちょっとラブソングと聞いて不安だったけどめちゃくちゃ杞憂だった〜良かった〜〜!)

お察しの通り色々追ってしまう程度にはファンなのですが、今回文章を書こうと思ったのは新曲「不思議」のミュージックビデオがとても素敵だったからです。コンセプトからレイアウトまでバチ決まりで気持ちよく、特に写真を撮る方、趣味として始めたい方にはぜひ観てほしいな〜と…。写真集をみているようなMVです。

建造物を活かしたお手本のような構図美

普段写真を撮ったり扱ったりする方はすでにご存知の方も多いかと思いますが、写真を撮る上では基本となる”構図の法則”があります。

参考までに解説記事を一つピックアップしてみました。日の丸構図、三分割法、シンメトリーなど…メインの被写体をどこに配置するかで印象や注目度もガラッと変わりますね。

不思議のMVを見ると、上記で挙げたような数々の基本構図が分かりやすく使われています。まさにお手本のよう…!
基本的にメインの被写体となる源さんが中心に映る構図が多いですが、引きの分割構図やカメラワークなどメリハリもつけられていて、カットが変わるごとに気持ちよさを感じます。
また、舞台となる羽田空港(貸切!!!)やスーパーマーケット、道……建造物や人工物の形がうまく構図の中に捉えられているのも面白いところ。窓の柱が床に反射するところ、駐車場の模様、スーパーの棚、三次元を「線」として捉え映像に落とし込んでいるような印象があります。三次元を二次元として見る。この視点を持って散歩に出かけたら、とても楽しそうじゃありませんか?


徹底された色彩設計

全体的に青っぽいフィルターがかけられている不思議のMV。実は、青系以外の色がかなり統一されているのにお気づきでしょうか。
色に注目してみてみると、全体の大部分を青系が占めている中でアクセントになっているカラーが2色。

赤系トーン…源さんのスニーカーやシャツの色、空、タイトルロゴ
黄系トーン…駐車場の壁、スーパーのライン

これらのアクセントカラーは全て、被写体である源さんを立たせるために使われていることが分かります。

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コストコみたいなスーパーに並んでいる細かな商品たちも、当然ですが全体のトーンに対してノイズにならない色彩になるように陳列されているのがいいですね。このようにMV全体で色彩の統一感があると、カットごとに場所が切り替わっていても世界観が崩れません。

ちなみに、配色における黄金比は「ベースカラー:70%、メインカラー:25%、アクセントカラー:5%」と言われています。これをMVに当てはめるなら「ブルー:レッド:イエロー」でしょうか。なんとまあ…お手本のような……!(2回目)


コンセプトと世界観

このMVは「他者」という存在が不可欠なラブソングでありながら、基本的に源さん以外の人間が一切排除された世界観でストーリーが進行していきます。
なんだか人類滅亡後の世界でただ一人生き残ってしまった設定みたいでワクワクしてしまいます(映画やSF系が好きな人間はもれなく全員「誰もいないスーパー」に興奮すると思ってるんですが、本当にあのシーン最高でしたね…??)

冒頭でも述べた「人は誰もが一人である」という哲学、「違う」からこそ人は惹かれ合うという考えがベースにある上で出来たであろう世界観。あの世界における源さんは私であり全ての人間でもあると解釈しているのですが、MVの中での「あなた(≒他者)」のモチーフが犬なのが可愛くて微笑ましくて…。人間も犬も区別しないところ、なんだかいいなあ。
ペットに置き換えてみると分かりやすいかもしれないですね。違うのに、一緒に喜んだりできる不思議。それは人間同士でも同じ。そういう事なのかなと思っています。


さいごに

童謡のような耳馴染みの良いメロディーラインにぶつかる屈折したコード進行。音楽的チャレンジを感じる楽曲群が好きなのはもちろんですが、CDジャケットを大原大次郎さん吉田ユニさんが手がけるなどクリエイティブにも毎回力が入っていて、デザイナー的にも新作が毎回楽しみになってしまう星野源さん。毎回「集大成か?」と思うほどのクオリティは見ていてとても刺激になります…。
今回のMVは「“基本”の強さ」を感じる、なんだか初心に立ち帰りたくなる丁寧な作品だと感じました。観て聴いてテンションをあげて、仕事に活かしたいと思います!もりもり!

今回紹介した「不思議」と両A面での発売になる、スーパーマリオ35周年記念テーマソング「創造」。冒頭が英詩なのは任天堂サイドからの要望なのかなあなんて思ったり。ワールドワイドマリオ!

最後に、個人的に大好きなMVを。

2012年…わ、若い〜…………!!!!

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