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さよならの匂いのする音楽たち

例えば、好きなバンドの新曲が発売されたとして。
続々とアップされるインタビューや特集を読めば、あるいはメンバーの口から語られる機会があれば、一曲一曲がどんなインスピレーションで、どんな心境で、意図を持って届けられたのかを知ることができます。
作り手の言葉を聞けるのは嬉しい事だなあといつも思うのですが、色々と過去のインタビューなどを読んでいるうちに「自分がバンド/アルバムの中で特に好きな曲」における共通点を、曲調・楽器・メロディといった音楽文法以外で一つ新たに自覚することになりました。

それは「さよならの匂いのする音楽」です。

音楽の方向性の不一致、環境の変化……様々な理由によりバンドやユニットのメンバーが脱退したり変わったりする事はありますが、脱退する/したメンバーに向けて、もしくは脱退を考えているメンバーを引き止めるために制作された曲を、私はその背景を知る前からいつも気に入ってしまうのです。

曲を作るメンバーが、きっと苦楽を共にした近しいメンバーともう一緒に音楽活動ができない、出来なくなるかもしれないという区切りを意識して作られた曲たち。旅立つメンバーを鼓舞するように、はなむけのような沢山の思いを込めて作られた曲に漂うどこか寂しげな雰囲気にグッとくるのかな……などと思いつつ、というかシンプルに同じバンドのメンバーからメンバーに捧げられた曲が、良曲でない筈が無いのでは……?

例え作られた背景を知らずとも、聴けば自身が少し勇気づけられるようなエネルギーを持つ曲が多いと思うので、少しご紹介したいと思います。


Fire Sign / BUMP OF CHICKEN

2004年発売 4th Album「ユグドラシル」収録。

微かでも 見えなくても 命の火が揺れてる
歌うように 囁くように 君を信じて燃えてる

BUMPの歌詞は、基本的に悩んだり絶望した人を自力で立たせるタイプの歌詞が多く(超個人的感想です)そんなところが好きなのですが、Fire signでも同じように自分の中に灯る炎を見つめ直して立って欲しい気持ちが表れてるのかな、なんて思います。

ラララのコーラスも印象的な優しい応援の曲ですが、個人的には2番の「諦めない選択と諦める選択」を描写した歌詞がとても好き。ヒロがやめなくて本当〜によかった…またライブいきたいな…。


大洪水時代 / cero

2012年発売 2nd Album「My Lost City」収録。

旅に出ましょう 今こそ その時
全て捨て置いて
お別れの挨拶どころか まだ何も始まってもいやしないぜ

バンドにしては大編成のサウンドと、癖になる独特のリズムが堪らない…!抜粋した歌詞部分は、「バンドとして船出はしているけどまだまだこれからだ、さあ行こう!」という元メンバーへの鼓舞や煽りが込められているそうです。「風が吹いた…そのとき」という文中のような言葉で歌詞が終わりサウンドの盛り上がりに移り、波と共に消えるラストも大好き。

アルバム名「My Lost City」はそのままフィッツジェラルドの著作からの引用ですが、3.11後に発売されたアルバムということで現実と街を見つめるような視点の曲たちが揃っていてとても聞き応えがあります。大洪水時代は、ポジティブな曲でありつつも時期的にデリケートな要素を扱うものなので公開するかどうか一度揉まれたらしいのですが、私はこの曲に出会えて良かった。はあ……またライブいきたいな……。


SAYONARAMATA / Yogee New Waves

2017年発売 2nd Album「WAVES」収録。

あした晴れた 日にもなれば 楽しいこと想うはず
泣くな友よ 明日になれば 嬉しいこと起こるはず
戻る道はもうないと思えよ

ハンドクラップから始まる清々しい「晴れ」のサウンドに乗せられた、時の流れも感じるような歌詞。制作された背景を知ると、そこに入る「戻る道はないと思えよ」という言葉に、旅立つメンバー、残るメンバー両方の覚悟を感じるようで。
初めてYogeeのライブを見たのが元メンバーの矢澤さんが脱退する時のライブだったのですが(配信で見ました)、アンコールでみんなが泣きながらこの曲を演奏している様子に、当時あまりバンドのことを知らなかったにもかかわらず思いっきり貰い泣きしてしまったのを覚えています。

収録されているアルバム「WAVES」は、現メンバーが演奏する新旧の曲が一気に聴けてしまう良いとこ取りなアルバムだと個人的に思っています。爆発するギターが楽しいアップテンポな曲もすんごく好き。曲全体に漂うロマンチシズムが好き。はあ…………またライブ行きたいな……………………。


さいごに

能動的に情報を得ようと思うバンドでないとなかなか背景までは知ることができないので、かなり偏ってしまいました。ちなみに女王蜂の「空中戦」、東京事変の「落日」もそういうエピソードがある曲らしいのですが、例によってこの2曲もすごく良い曲ですよね…。

こうして説明も交えつつ文章を書いていると、なんとなくバンドの岐路を軽率に消費しているような気持ちにもなってしまい書きながら少し凹んでしまいましたが、決してエピソードありきで好きなのではなく、そして勿論どの曲にも沢山の思いが込められ大切に制作された曲だと言う事は大前提として!同じ音楽をやってきたメンバーへの思いが強く込められた曲というものは、純粋に惹きつけられる魅力を持っているし素敵だと私は思う、ということを最後に記して今回は締めたいと思います。

また気軽にライブを楽しめる日が戻りますように!!!

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