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「利上げ」に潜む世代間格差──高市より石破が選ばれた理由──

割引あり

石破茂氏が総裁選を勝ち抜き、自民党の総裁は石破茂氏ということに決まった。1回目の開票で1位だった高市氏は、後塵を拝した形になる。
1回目の開票で1位だったのに負けたということは、決戦投票だったのだから、つまり3位以下の票が石破氏に流れてしまったということだ。果たしてこの理由とは何なのか?それは、経済政策に対する支持、ひいては高市氏の経済政策より石破氏の経済政策の方が国民からの支持が集まると考えられたことが理由だと、私は考える。

高市氏の経済政策は、端的に言ってインフレ的だ。

『財政出動を行い、税率を上げなくても税収が増えるように手を打ちたい』と主張したり、防衛増税への意見に対し、『増税する必要はない。次の世代に祖国を残すための支出だから、基本的に建設国債で対応すべきだ。』と答えたりと、景気を良くすることや、経済成長に対して非常に積極的である。

対して石破氏の経済政策は、逆にデフレ的だ。

『法人税はまだ上げる余地があると思っている。』と答えたり、

金融政策について、『経済や国民生活に支障が生じない範囲、ペースで正常化されることを期待する』と答えたり、


総理になって何に取り組むのかと聞かれ、『金利引き上げだね。これはもう、ハードランディングするしかない。反発はすごいだろう、アベノミクスの否定になってしまうから。これを言えるのは、(安倍さんと対立していた)俺しかいない』と答えたりするなど、(まあこっちは半年ぐらい前の話だが。)景気を良くすることや、経済成長に、高市氏ほどの積極性は感じられない。
ここにある最大の違いは「総需要を政府が刺激すること」への積極性の違いであり、もっと言えば「目指すのがインフレかデフレか」の違いである。
ここにこそ、高市氏ではなく石破氏が選ばれた理由があるのである。
どういうものか、それをこれから説明していこうと思う。

まず、この国の政治に最も発言力を持つ世代とは、高齢世代である。それは少子高齢化がこれだけ騒がれているのを考えれば当たり前のことだが、それはつまり、経済政策も高齢世代の発言力を勘定に入れた上で行われるということだ。

ではここで一つの問いが生まれる。それは「高齢世代はどのような経済政策を望むのか」という問いである。それには、迷うことなく「日本経済がデフレや不景気になるような経済政策」と答えることが出来る。なぜそう思うのか、それは私がこれまで書いてきたnoteを読めば理解してもらえると思うが、noteペターでは味気がないので、改めて説明しよう。

介護や看護などの福祉産業は反景気循環的産業(景気が良くなると人が減り、景気が悪くなると人が増えるという産業)であり、好景気になると人が減ってしまうため、福祉が提供できるリソースが減り、福祉産業のメイン客の高齢者は好景気になると実物的に損してしまう訳である。ここら辺の話から「失われた30年」の原因を導いたのがこの記事である。よければ読んでみてほしい。

他にも、例えば年金生活者は、物価や賃金が上がっても、その恩恵に与れない。物価が上がって使わなければいけないお金は増えるのに、年金支給額は増えないし、

https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/858.html

公益財団法人 生命保険文化センター
どんな金融資産をどれくらい保有している?
(参照 2024.10.1)

そして年金を支給されるような年代の保有資産は中央値でも1100~1200万円と高くインフレは「現在の資産」の価値を下げるので、年金生活者にとってインフレや好景気というのは、あまり嬉しくない経済状況ということになるのだ。

福祉リソースの低下や、年金生活者などの、「好景気やインフレによる賃金上昇の恩恵を受けられない人」の相対的な地位の低下、及び購買力の低下、そしてインフレによる保有資産の実質的減少と、年金をもらっていたり、介護などを受けているようなほとんどの高齢者にとって、好景気やインフレは、望ましい経済ではないことは確かだ。

不景気なら福祉産業に人もガンガン集まるし、デフレなら年金生活でも十分に購買力を発揮できる。むしろ不景気で賃金低下の憂き目に遭う労働者より、相対的に地位は上昇するだろう。そしてデフレ下では、現在の資産の価値は実質的に上昇する。高齢者は、ボケっと突っ立っていても「資産防衛」に成功できるのだ。
だからこそ、高齢者は不景気やデフレを求めてしまう。

しかも高齢者は非常に数が多い。世代としての発言力という点で、現在の高齢者ほど強い世代はほぼ存在しないだろう。
その結果政治家には、そうした高齢者たちの声を聴くインセンティブが生まれてしまう。そして前述した通り、高齢者が求めるのは「日本経済をデフレや不景気に陥らせるような経済政策」である。
だから政治家は、発言やその思想にかかわらず、たとえどれだけ景気刺激策をその政治家自身が必要と考えていたとしても、「日本経済をデフレや不景気に陥らせるような経済政策」を実行する必要に駆られるのである。
少なくとも、政治家が好景気やインフレになるような政策を打てるのは、「高齢者が文句を言いださないような範囲まで」ということは、確実だろう。

それこそ直近にあった「利上げ」は、その最たる例だったと言えるだろう。

https://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/index.htm
日本銀行
(参照2024.10.1)

インフレ率がめちゃくちゃ上がってるわけでもなく、(何なら下降傾向だ。)

むしろ景気のバロメーターとも言える福祉産業からの人の動きも、『厚生労働省が8月27日に公表した「2023年雇用動向調査」の結果で、入職者が離職者より多い入職超過率は「医療・福祉」産業では1・4%だった。』とあるように、2023年度においては流入超過である。

反景気循環的産業である福祉産業に人が集まっているということは、日本の景気はさほど良くないと言える。「利上げ」など、考えるのもおかしいと言えるような経済状況だったにもかかわらず、数々の政治家が「円安是正のために利上げしよう!!!」と言い出し、また実際に「利上げ」は行われた。
その理由は、前述のように高齢者が「不景気やデフレになるような経済政策」を求めていることと、他には、円安やインフレで物価が上がる代わりに賃金が上がっても、ほとんどの高齢者は賃金上昇の恩恵を受けられず、ただ物価上昇の影響だけ受けて損をしてしまうということも、当然理由の一つだ。

そして、ここにこそ世代間格差があるのだ。
「物価が上がっても賃金が上がるからインフレを受け入れられる現役世代」と、「物価上昇に伴う賃金上昇の影響を受けられないからとインフレを受け入れられない高齢世代」という構造が存在し、しかも後者の意見の方が採用され、その結果「利上げ」のような景気を抑制する政策が行われてしまうことで、前者たる現役世代は労働需給の緩和による失業や労働移動の自由が制限されたり、物価抑制により賃金の停滞が起こるなど、数々の不利益を強いられてしまう。世代としての利益を優先される方(高齢世代)と、世代としての利益を優先されない方(現役世代)が決定しており、数の論理から、その構造が固定してしまっているというのが最大の世代間格差なのである。「利上げ」はそれが理由で行われたし、そして、高市氏ではなく、石破氏が総裁に選ばれた理由もそこにあると考えられる。

「高齢世代は、賃金上昇による恩恵を受けにくく、インフレで損をする傾向にあるので、デフレや不景気を求めてしまう。そして人口動態が高齢世代に傾いているために、その高齢世代の票を求める政治家には、高齢世代が求める政策であるデフレや不景気へ日本経済を誘導するような経済政策を実行するインセンティブが生まれ、その結果、利上げを促す発言を政治家がしたり、また実際に利上げが実行されたりする。好景気やインフレを主張する高市氏より、むしろそれに積極的ではない石破氏が総裁に選ばれた、つまり高市氏の経済政策より石破氏の経済政策の方が、国民、及び高齢者からのウケが良いと考えられたのも、そこに理由がある」というのが、このnoteでここまで述べてきた上で言いたかったことである。

インフレは労働者を富ませ、デフレは高齢者を富ませる。この経済状況により利益を得る層が変わるというのが、日本の経済政策がどう動くかの要因なのである。石破氏は、おそらく市場の反応にビビッてしばらくは好景気を支持するような政策や、発言を行うだろうが、しかし結局は、高齢者に阿って不景気や、デフレに日本経済を陥らせるような経済政策を実行してしまうはずだ。なぜなら石破氏は、そこで支持を集めていて、高齢者からの「この人なら日本経済を我々の思うような方向に動かしてくれる」(言わずもがな、その思うような方向とは不景気やデフレである。)という民意こそ、石破氏を総裁にした原動力だからである。

これを踏まえると、日本経済の根本的課題は人口動態であると言える。シルバー民主主義こそ、「緊縮財政」や「失われた30年」の原因と言えるだろう。「高齢者からの要望に応え、不景気やデフレへ誘導するような政策を行う必要がある」という構造は、前述の通りはっきりと日本に存在するのだ。

ではこれにどう対処すればいいのか?もはや人口動態が逆転しないからと、現役世代は諦めなければならないというのか?


否、そうではない。まだ現役世代には打つ手が残されている。例えば現役世代が結束して「好景気やインフレを主張する政治家」に票を投じたり、デフレ誘導的な制度である社会保障(これについての話はまた違うnoteで記述したいと思う。)を削減すると主張する政治家に票を投じたりなど、手段はいくらでもある。現役世代は確かに高齢世代に比べれば票を投じる能力は低い。しかし、例えばフェミニストは票を投じる能力が高いから政治を牛耳っているのだろうか?単に「うるさい」というだけでも、政治における発言力はある程度の強さを獲得できるのである。そして、現役世代もまだ数としてはそこそこの数だ。一団となって活動出来れば、まだ逆転の目はあるのではないか。

しかし、希望的観測(というより、私がこれから現役世代の仲間入りをするので、そうなってほしいという願望も込みの意見)をやめれば、非常に厳しい状況としか言えない。
とにかく、現役世代は「好景気やインフレ」を支持するようにして、高齢者が富むばかりの経済状況を主張することに一定のコスト、「デフレや不景気を主張すると現役世代からの票が離れる」と政治家に考えさせる必要はあるだろう。

そして、唯一現役世代を利するものである「人手不足」と、(短期的とはいえ)物価を押し上げ、インフレを日本経済に齎した円安がこれからも続くよう祈って、このnoteを締めたいと思う。


(ここからは本筋とはちょっと関係ないので、読まなくても良いです。)

こうしたことを踏まえると、「利上げ」に賛成する反サロや、高齢者福祉反対派は、「無能な味方」と言う他ないだろう。

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