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つくられた洋服の6割以上は捨てられているという現実。ファッションロスに私たちはどう立ち向かうのか。

私たちは、大量生産・大量消費の世界に生きています。

現代の経済は、大量生産、大量消費を前提として成り立っています。モノの豊かさという面ではたしかに私たちは豊かになりました。大量のモノを、より品質を高く、より安く、わたしたちの生活の中に運んできてくれるシステム。わたしたちはその恩恵を毎日受けて生活しています。

その最たるものが、棚いっぱいに並べられているコンビニのおにぎりやお弁当です。最近話題となっている『フードロス』問題ですが、今年の恵方巻廃棄問題が多くのメディアに取り上げられていたことはまだ記憶に新しいです。

さらに、ペットボトルやストローなどのプラスチック廃棄物も、環境を破壊する問題として注目を集め始めました。今や、どの企業も、そしてわたしたち自身もプラスチック製品なしには生きていけなくなっています。

そんな中、昨年、ある映像が人々の心を揺さぶりましたーー動物研究員が1匹のウミガメの流血している鼻から、プラスチックストローの破片を引き抜く映像です。ウミガメの目からは、涙のようなものが流れていました。

この痛々しいシーンは人々の心を酷く苛みました。私たち人間のエゴが積み重ねられることで、何の罪もないこの可哀想なウミガメをこんなにも苦しめたのです。憤慨と悲嘆のコメントとともに、動画は瞬く間に3,000万回以上の再生されていました。

このことを発端に、プラスチックストロー廃止運動が、全世界に広がっていったのです。

タンスいっぱいの洋服に、疑問を感じませんか。

今年頭に、「ときめく」という言葉が、アメリカでブームを巻き起こしました。「こんまり」こと近藤麻理恵さんが、NETFLIXと一緒に制作したお片づけがテーマのリアリティ番組で、毎度魔法のように唱える言葉です。

「あなたの洋服をタンスからすべて出してください。」第一話で、片付けが苦手なある主婦の寝室でこんまりはそう告げます。

「出してみないと、自分がどれだけの洋服を持っているのか、分からないものです。」

その主婦は目の前のベッドに山積みされたカラフルな洋服の塊に驚き、「こんなにもいっぱい洋服を持っていたなんて」と信じられないと言った口調で嘆きます。

「それでは、ときめくものと、ときめかないものの仕分けをしましょう」と、こんまりは片付けの魔法を教えるのです。ときめかないものは当然、処分されます。

今年の流行りの色と柄、著名ブランドとコラボレーションしたレアアイテム、セレブたちがストリートスナップで身につけているシャツやブーツ。人々の購入欲を刺激するような情報は世の中に溢れています。

「どんな服が売れているか?」に興味のある人はきっと多いと思います。ですが、「どれだけの服が捨てられたか?」に答えられる人どれくらいいるでしょう。

全世界で、生産された洋服の60%は廃棄されています。

コペンハーゲンのシンクタンク「GLOBAL FASHION AGENDA」の年間レポートによれば、2015年の時点で、生産された洋服の年間消費量が40%の6,200万トンに対し、廃棄量は約1.5倍の9,200万トン。廃棄量を枚数に換算すると、全世界で毎年約3,000億着の服が捨てられていることになります。廃棄服の82%は、焼却や埋め立てで処分され、わずか18%しかリユースやリサイクルは行われません。

この数字は、2030年には、信じがたいことに、消費量が1.02億トンに増加、同時に廃棄量も1.5億トンに達する想定になります。生産と廃棄においては、大量の水を消耗します。2030年には年間1,180億リットルの水がそのために使用されると予測されています。さらに、二酸化炭素の排出と化学製品の使用もそれに伴って増加していきます。

10年後の世界ではさらに大量生産・大量消費・大量廃棄の歯車が加速されると予測されています。地球も人間もどんどん疲弊していきます。

日本国内の場合、経済産業省の統計によりますと、アパレルの市場の規模はバブル期の15兆円から10兆円程度に減少する中、供給量は20億点から40億点程度へほぼ倍増しています。需要に対して大きく上回る供給量は、自然に廃棄を生み出してしまいます。

ファッションは楽しいものです。私たちは、数え切れないほど多くの服を選べる時代に生きています。タンスいっぱいの服がそれを物語っています。

かわいいもの、かっこいいもの、個性的なデザインのもの。時と場合に応じて違うものを楽しみ、季節に沿ってトレンドは移り変わります。

ファッションは、豊かさの頂点を超え、わたしたちが一生かけても体験し切れない数のアイテムを生み出しているのです。

For Fashion Future

食品の廃棄問題(フードロス)と同じく、これはファッション業界における大きな問題であり、すべての人々の生活に密接に関わっています。

『ファッションロス』問題は、低価格のファストファッションの問題だと思われたちですが、ラグジュアリーブランドも同じ問題に直面しています。

「H&M」が毎年12トンの売れ残り商品を廃棄処分したと報道されている一方、「バーバリー」が42億円もの商品を焼却したというニュースが大きなバッシングを呼びました。

これは、前述の「ウミガメ動画事件」のような話題にはなりませんでしたが、「なぜ焼却する必要があったのか」という疑問とともに人々のモラル意識や知られざる常識を告発する刺激的な内容でした。

このようなファッションロスの問題に、ファッション業界は以前から気づいていました。

ここ数年海外でも国内でも、数多くの企業がファッションロスに対する取り組みを試み始めたのです。まずはサプライチェーンを見直すことからはじまりました。

マーチャンダイジングの設計を見直し、仕入れの見直し、生産前にWEB先行予約を行うなど残在庫を最小限にするための取り組みが行われています。

また、廃棄量を削減するために、チャリティーセールを開催したり、災害支援物資のサポートをしたり、衣料品回収リサイクルなども行われています。

海外の著名ブランドの取り組みを例にあげると、例えば

●「H&M」:新素材やリサイクル技術研究への投資や、廃棄物ゼロの循環型ファッション業界を目指すイノベーション・コンペティションを設立。

●「アディダス」:100%リサイクル可能なランニングシューズを発表。2024年までにシューズやアパレルに使用するプラスチックはすべてリサイクル・プラスチックに切り替えると宣言。

●「ZARA」:2050年までに廃棄物ゼロを目指す目標を発表。

さらに、企業だけではなく、行政も少しずつ動き始めています。例えば、フランス政府は2023年までに売れ残りの洋服や非飲食品の廃棄処分を完全に禁止とする意向を表明しました。

日本国内でも、様々な企業やベンチャーが、この問題を解決するための突破口を探り始めています。

●アパレル在庫の企業間マッチングプラットフォーム「スマセル」を立ち上げ、日経優秀製品サービス賞と日経産業新聞賞優秀賞を受賞した「WeFabrik」。

●洋服レンタルのサブスクリプションサービス「エアークローゼット」は、廃棄問題解決のための新プロジェクト「シェアクローゼット」を発表。

しかし、ブランドやメーカーの力だけでは問題解決に大変な時間と労力を要することは明らかです。

大量生産大量消費の構造に依存するビジネスモデル自体を変革しないことにはこの問題の根本解決は望めません。そのためにファッション業界のすべてのステークホルダーの連携が不可欠ですーーブランド、メーカー、商社、リテール、問屋、NPO・NGO、政府、消費者、メディア。ファッションに関わるすべての人が手を取り合う必要があります。

このすべての人が集まり、オープンイノベーションで解決策を探ることができる機会と場所が必要だと考え、「For Fashion Future」プロジェクトは立ち上げられました。

10年後も、いつまでも、心地よく、ファッションを楽しめる世界であるために。そのような未来をつくるために。

小さなことからでも、少しずつ答えを探していき、できることから楽しい答えを生み出して行きたい。

そんな思いを込めて、「For Fashion Future」プロジェクトは立ち上がりました。

本当の豊かさについて

大量生産・大量消費ーー必ずしもそのすべてが「悪」とは言い切れません。しかし「ウミガメ事件」のように、私たちのモラルを揺さぶり、悲しみや怒りをもたらす事態・事件が明らかになってしまった今、変革の時が来たのではないでしょうか。わたしたちの豊かさは、この世界の誰か、また地球環境の苦痛・犠牲・消耗・疲弊の上に成り立つべきではありません。

本当の豊かさは「ウェルビーイング」という概念に近いのではないでしょうか。「身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」を意味するこの概念は、今後のファッション業界のあり方にもヒントをくれます。

物質的な選択肢が多いほど良いわけではない。シーズンごとに必ずしもトレンドを変える必要はない。購入と販売以外の、あらたなビジネスのかたちは存在する。

ファッションロス問題を起点に、ファッション業界のサステナビリティーに関するあらゆる課題に対し、「For Fashion Future」プロジェクトは問題提起を行い、その問題と向き合い、イノベーションとアイデアでその解決を目指します。

私たちと、子どもたちの世代が、心地よく、本当の豊かさを楽しめる世界をつくるために。


FFF - For Fashion Futureとは

大量の廃棄在庫を生み出してしまう『ファッションロス』問題を起点に、ファッションのサステナビリティについて考え、オープンイノベーションで解決策を探すプロジェクト。知る、学ぶ、考える、行動する。そして何より楽しむこと。小さなことからでも、少しずつ答えを。ファッションをもっと楽しめる未来のために。

https://www.forfashionfuture.com


文 / 楊 芊蔚

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