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必要だとわかっていても、「索引」をつくることが難しい理由

今、4月刊行予定の『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』という新刊の入稿・校了作業真っ只中です。

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カバーデザインはここから少し変わる予定です。

要するに忙しいわけです。
できるだけ柔らかくすることを心がけてつくっているものの、「事典」と銘打っていることからも、なんとなく学術的な匂いを感じると思います。だからこそ、アレを入れなければカッコがつきません。
アレというのは、「索引」。これが非常にやっかい。

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とりあえず、今つくっている索引。ここからブラッシュアップします!

日本の書籍、とくに一般書に顕著なのですが、索引が入っている本というのは多くありません。自己啓発書とかライトなビジネス書であれば、そもそも索引に入れるほどの要素の数は多くないので、読者もさして期待しないでしょう。ところが、世界史の本なんかで、本文をかなりつくり込み、情報量満載なのに、索引がついていない本はザラにあります。一読者としてはガッカリしますし、編集者としては「編集者、最後の最後でサボったな」などと考えてしまいます。
一方、翻訳書の編集をしていて気づくのですが、洋書は索引がかなり充実しています。
洋書は翻訳するとただでさえページ数が増えるので、原価や定価を考えると索引を割愛したいなどと考えてしまうのですが、そうはいきません。翻訳する場合は、勝手に割愛することができないのです。原著者やその出版社、エージェントに怒られます。それに、「ページ数が多くなるから割愛したい」ないんて、完全に編集者都合で、作品のクオリティを考えれば索引はあるに越したことはないのです。
反省すべきことなのですが、半ば「労多くして功少なし」と思いながら索引づくりをするわけです。

さて、こんな索引のつくり手について、読者の方はほとんどイメージしたことがないと思います。ここでは、私の愚痴ついでに、その内幕を少し暴露しましょう。

見出し語とノンブルの選定がたいへん

どんな見出し語を選んで何を捨てるか、要素の選定からして困ります。
何かしらの基準をしっかり立てないと、大切な要素を落としたり、トンチンカンな見出し語を選んだりしてしまいます。
さらに、見出し語のページシンクをどこまで入れるか?
たとえば、前出の『――認知バイアス事典』では、当然「バイアス」という言葉がそこかしこに出てくるのですが、そのページのノンブルを全部入れるわけにもいきません。では、初出ページだけにするというルールを決めても、どうも具合が悪い。なぜなら、「バイアス」についてもっと深く語っている箇所が後のページに出てくるから……。

索引をつくる時間がない

索引をつくる作業は、ページ数が固まってからになります。
ページ数が固まっていない段階で索引をつくったら、ページ数が変更したとたん、ページリンクを再度調べなければならなくなります。二度手間ですし、誤植を出す可能性がかなり高くなります。
ところが、ページ数が固まるのはだいたい入稿直前。
もう、索引をつくっている時間なんてありません……。
これが、日本の書籍に索引が少ない一番の理由ではないかと思います。

電子書籍の場合、コストが余計にかかる

厳密に言えば、紙の本では索引のページ数だけでもコストが上がり、定価にも反映されます。
では、電子書籍の場合はどうか? 実は索引のページは特別料金がかかる場合があるようです。
ページ数がフィックスされていない電子書籍は、紙の本に記されているようなページリンクは意味をなしません。電子書籍の場合は、索引の見出し語をタップして、該当する文章の飛ばせるようにしなければならないのです。
私は電子書籍の具体的なつくり方は知らないのですが、これが相当たいへんな作業であることは容易に想像できます。
ただ、電子書籍については、気になった言葉を簡単に検索できるので、もしかしたら索引は必要ないのかもしれません。
電子書籍の索引の必要性については、私の中でまだ答えが出ていません。

索引のルールがよくわからない

とりあえず、知らないことはGoogleで検索すればある程度答えが見つかる時代です。
ところが、「索引 つくり方」「索引 ルール」「索引 編集」などで検索しても、索引のルールを細かく解説してくれているページが見当たりません。
先に記した見出し語の選定やページリンクについても、どこにもその答えがないのです。
こうしたリサーチの過程で見つけたのが、次の編集者さんのnote記事。

やはり私と同様に、索引づくりに苦労されているようです。この記事で紹介された次の本をさっそくポチった次第です。

きっとこの本を読んだら、私がこれまでつくった索引のヘボさに改めて気づかされ、凹むことでしょう。しかし、これは自身を成長させるための通過儀礼だと覚悟して、読むしかありません。

索引は面白くできる

弊社でも2冊の著作がある『独学大全』の読書猿さんとお話して、こんなことを聞いたことがあります。
「世の中には索引マニアがいるんですよ」
当時は奇特な人がいるもんだなあ、などと呑気なことを考えたわけですが、今ならそんな索引マニアの気持ちも少しわかります。
『独学大全』は800ページ近くの本ですが、索引はその中で34ページを占め、おそらく見出し語は3000語はあるかと思います(これをつくった編集者と校正者の努力が偲ばれます……)。


これくらいの大著だと、頭から通して読んでもいいですが、索引で気になった見出し語からページリンクをたどり、つまみ読みするのも楽しいものです。
たとえば、「か行」に目を向けると、「漢学塾」「環境」「観察力」「関心外からの刺激」……と続いて唐突に現れる「ガンジー定食」……。

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「これは研究者の間ではよく知られている学術用語なのか?」
「非暴力・不服従主義の辛くもないが、甘くもないカレーライス?」
などと思って「ガンジー定食」のリンクをたどり、そのページの前後を読むと、新たな発見があったり、なかったりするわけです。
つまり、何が言いたいかというと、索引は無味乾燥なイメージがあるかもしれませんが(私もかつてはそう思ってつくっていた)、十分に著者や本の個性を表現できる工夫の余地があるということ。
こう考えると、編集者としての索引への向き合い方も変わってくるってものです。

とにかく、新刊の校了まで時間がありません。この期間内でできるだけクオリティの高い索引をつくるべく、今から取り掛かります!

(編集部 石黒)

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