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私たち現役世代が親の年収を超えるために必要なこと

「バブル崩壊以前は公務員になるやつなんてバカだと言われたんだぞ」
今から20年以上前、ミレニアムに1人でソウル旅行に行ったとき、同じ宿に泊まっていた日本人のオッサンと酒を飲んだのですが、そんなことを聞かされました。
なぜこんな些細なことを覚えているのか。
それは私の父も公務員だったから。私が10代のころは、地元(ど田舎)にも不景気の荒波が押し寄せていましたが、父の収入は安定していたこともあり、私は経済的な困窮を実感することなく過ごすことができました。
では当時、父の年収はどれくらいだったのか?
上京してアパートを借りるときに保証人になってもらったので年収を聞きましたが、今の時代だったら「そこそこ稼いでいる」部類に入る金額でした。
今、これを書いていて実感したのですが、それ以来、私は当時の父の年収をずっと意識してきたようです。
「父が30歳のとき、どれくらい稼いでいただろうか。オレより全然稼いでたんだろうな」とか、「はたしてオレは父の年収を超えられるのか……」とか。
つっても平均よりは上程度で、富裕層や準富裕層から見たらケチな金勘定なんですけど。

さて、公務員はいいとして(よくわかりませんが)、私のような民間に勤めている人間は、かつての中間層に留まることもまた難しい時代になっています。
以下のグラフは、内閣府が発表したデータを基にNHKが作成したグラフですが、25年前と比べて世帯所得の中央値がおよそ130万円減少したというもの。

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pN0RjOVbo6/

ちなみに、中間層が沈没した原因の一端として、NHKは「バブル崩壊以降、日本企業は、グローバル化やIT技術の革新といった、新たな潮流に遅れをとってきました」としています。
そう、「IT技術の革新」は「AI技術の革新」にその様態を変化させながら、年々加速度を増しています。その流れに対応できなければ、現役世代のほとんどが、親の年収を超えられないかもしれません。
ちなみに、7月の新刊『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』(国分峰樹)では、現在の中間層が「無用者階級」へ陥ってしまうという悲しい未来の可能性について触れています。
本記事用に該当箇所を一部抜粋・改編して掲載します。

今後、私たちビジネスパーソンはどのように働けばいいのか? ぜひ本書からヒントを得ていただければと思います。


中流階級から「無用者階級」へ

 ビジネスパーソンの未来予測において、もっともシビアな見方を示しているのが、世界的なベストセラーとなった『サピエンス全史』(二〇一六)で、人類の進化の歴史を紐解いた歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリさんです。
『21 Lessons:二一世紀の人類のための二一の思考』(二〇一九)において、テクノロジー革命がまもなく何十億もの人を雇用市場から排除して、巨大な「無用者階級」が新たに生み出されるという、ビジネスパーソンにとって実に過酷な未来を予測しています。
〈芸術から医療まで、あらゆる分野における多くの伝統的な職がなくなっても、人間ができる新しい仕事が創出されれば、ある程度までは埋め合わされる〉という見方もありますが、〈こうした新しい仕事はみな、一つの問題を抱えている。おそらく、高度な専門技術や知識が求められ、したがって、非熟練労働者の失業問題を解決できない〉と言及します。つまり、〈人間のために新しい仕事を創出するよりも、実際にその仕事に就かせるために人間を訓練するほうが難しいという結果になりかねない〉のです。
 これからの社会においては、ほぼすべての種類の仕事が変化していくことは確実であり、〈スーパーマーケットのレジ係の職を失った四〇歳の人が超人的な努力をしてドローン操縦士になれたとしても、一〇年後には、再び新たな技能を身につけなくてはならない〉といった状況に陥る可能性があります。つまり、終身雇用も一生の仕事という考え方もなくなり、絶え間ない変動のなかで創出される新しい仕事には、〈高いレベルの専門技術や知識が求められ、AIが進歩し続けるなか、人間の被雇用者は繰り返し新しい技能を取得し、職業を替える必要がある〉と予見されています。
 一億総中流と言われた日本でも、格差社会が深刻化していくことによって、中流階級の人たちが徐々に「無用者階級」になってしまうかもしれないというのは、相当悲しい未来です。
 でも、このままいくとこうなっちゃうかもしれないよ、という推測があるということは、そうならないようにどうしたらいいか、ということを考えられるきっかけになります。ガラケーを使っている人は一〇年後にはほとんどいなくなるよ、とあらかじめわかっていれば、早めにスマホに切り替えることができたはずです。
 そういった視点でビジネスパーソンの一〇年後を見据えると、次から次へと新しい専門性が登場する社会になっていくから、今のうちに自分の専門性をどうやってブレンドしていって、独自の味を出せるようにするかを考えておいたほうがいいよ、という大事なヒントをもらっているといえそうです。

仕事で求められる専門性も高度化

 自分の専門性ということを考えるにあたって、特に意識しなければならなくなっているのが、AIの進化です。AIというのは「人工知能」(Artificial Intelligence)ですので、人工的な頭脳が生み出す知識についても、「新たな知識」を創造する装置として人間の競争相手になります。
 ChatGPTに聞けばわかることを、対価を払って専門家に聞こうという人はいなくなるため、専門性として認められるのはどういった知識なのかということを考えなければなりません。ChatGPTのようなAIシステムは三億人の仕事を奪う、というゴールドマン・サックスの予測もあります。
 AI研究者の松尾豊さんは、今までは「AIに仕事を奪われる」という意見に対して「いや奪われないよ」という考えだったのが、二〇二三年に入ってから「いやいや今度は本当に奪われますよ」に変わったと語っています。
 ChatGPTは、インターネット上に存在している知識を学習してすぐに答えを出してきますので、ビジネスパーソンにとってはかなりの強敵です。間違える頻度も、人間よりずっと少ないかもしれません。
 AIは新しく登場する専門分野にも即座に対応することができますので、ビジネスパーソンがプロとして求められる専門性のレベルもスピードも、一気に水準が上がっていくことが想定されます。
 今から三年後、五年後のビジネスにおいて、ビジネスパーソンの最大のライバルとなるのは、競合する他社や他業種から入ってくる企業のビジネスパーソン以上に、おそらくAIだと考えられます。そして、ChatGPTの登場によってパンドラの箱が開けられた感がかなり漂っていますので、こうなってくると自分が想定しているよりはるかに速い進化が、あっという間に目の前に迫ってくると心づもりしておくことが重要です。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 い し  ぐ ろ)

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