春の水窪、森歩き その1 ~新緑の麻布山へ~
さて、巷は春真っ盛り。ということは、奥の森はいよいよ春を迎えている頃だな、ということで、ゴールデンウィークのはじまりは4月29日、浜松の最北、信州との県境にある水窪(みさくぼ)の山へと向かった。
前日に降った雨を吸い、晴れ渡った空に新緑の山々はとても美しかった。美しすぎて思わず車を停め、車道に出て写真を撮ってしまう。この日、向かったのは標高1685メートルの麻布山(あざぶやま)。数年前に登ったきり、しばらく訪れていなかった山だ。登山口から山頂までそこそこの標高差があり、登頂して戻ってくるには丸一日はかかるだろう。
普段は週末であっても、あまりほかの登山者と会うことがない水窪の山々だが、さすがにゴールデンウィーク、登山口には10台ほどの車が停まっていた。どうもみんなすでに登りはじめているようだ。わたしは一本だけ咲いたコブシの木の下に車を停め、登山準備に取り掛かった。
コブシといえば、信州などでは春の訪れを知らせる花。標高1250メートルある登山口はいま、まさに春がやって来たところなのだ。足元をふと見ると、
純白のスミレ、シコクスミレかな?
春といえば、のマムシグサ(よく見ると地面にはウラジロモミの球果がバラけたもの、ブナの実の殻斗がたくさん落ちている)。さあ、今日はこれから、いったいどんな春の花に会えるだろうかとワクワクする。
それにしても、顔(とくに目のあたり)にまとわりつくその名も”メマトイ”という小さな羽虫がうっとおしい。手で払いのけても、顔や帽子に虫よけを付けても、そんなのはおかまいなしに寄ってくる。一説によると、涙(水分)に卵を産もうとして寄ってくるということだが、とにかく、離れてはくれない。この虫のおかげで春の鮮やかで眩しい森歩きの楽しさは半減してしまうのだが、仕方ない。いいことばかりはありゃしない。
こちらもまとわりついてきた虫の一つだが、メマトイと違って思わずカメラを向けてしまう。ミヤマルリハムシ?
森のなかはまさに新緑。緑の鮮やかさと空気の爽やかさ、そして、たくさん生えているウラジロモミという針葉樹が放つ特有の芳香も鼻をつき、ああ、深い山へやって来たな、という感じが強くする。ここまで来ないと味わえない、特有の空気だ。
登山口には10台ほどの車があったのに、登山者と会うことがない。まあ、早々に登り始めてしまっているのだろう。ひとり静かに山を登っていくと、頭上からは夏の渡り鳥、オオルリのさえずりが聞こえてきた。ほかにカラ類、遠くではツツドリも。はるか頭上はにぎやかだ。
ふと足元には、なにかのフンに集まるセンチコガネ。
だんだんと花が少なくなってきたので木を撮ってみる。
大木の樹齢は少なくとも100年、ひょっとすると200年近いものもあるのでは。深くていい森だ。
突然、目の前に真っ二つに折れた大木が現れた。強風にあおられたのか、それとも落雷にでも会ったのか。
こうした木にはあるものが生える。
そう、キノコ。おいしそうだったが、名前が分からなかったので採るのはやめた。折れた途端にキノコが生える。こうした菌類たちに分解されて折れた木はやがて森の土に還る。森ではすべてがリサイクルだ。
つづく
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