見出し画像

【離婚後共同親権】世論はどのように操作されるのか(2)「裁判で暴かれたNHKのあまりに杜撰な偏向放送」

【ご留意事項】
本記事でご紹介した判決は20年近く前のものですが、判決で認定された事実をつまびらかに公開することは、当事者がすでに取り戻していると思われる平穏な生活を侵害する可能性があるため、当時の居住地や判決の事実内容の一部を、省略・編集する等の措置を取りました。
なお、判決文の主要部分・法的判断にわたる部分については正確に引用しております。

※前記事

前回記事の続きです。

離婚後共同親権をめぐる報道は、国内発であれ海外発であれ、非常に杜撰な内容のものが多いです。

それが高じて、裁判で捏造報道が暴かれた例すらあります。

生活ほっとモーニング事件控訴審判決です。(東京高判平13.7.18)

1、生活ほっとモーニング事件とは

司法試験受験生や憲法学の研究者の皆さんには、訂正放送命令の可否をめぐる、平成16年の最高裁判決が有名だと思います。(最判平16.11.25)

ざっくり事案をご紹介すると、ある夫婦の離婚問題を取り上げた、NHKの朝の生活情報番組「生活ほっとモーニング」(今のアサイチ的な番組)の放送が、取り上げられた妻のプライバシーを不当に暴かれたうえ、事実と異なる内容の放送をされ、精神的苦痛を受けたとして、損害賠償と訂正放送を求められたものです。

一審の東京地裁は平成10年に原告の全面敗訴の判決を下しましたが、二審の東京高裁は平成13年、原告全面勝訴の逆転判決を出し、NHKが上告していました。

最高裁は、プライバシー侵害による損害賠償を認めたものの、訂正放送を求める部分については、民事訴訟の手続でこれを請求することはできないとして、原告の訴えを退けたー。
というものです。

司法試験受験生、一般の雄実務家にはこの程度の内容だけしか知られていませんが、今年の2月、日仏会館で開催された離婚後共同親権セミナーにおいて、木村草太東京都立大学教授が控訴審判決の一部を解説され、興味が湧いたので判決文を取り寄せてみました。

その判決文には、驚愕の事実が認定されていたのです。

2、問題の放送内容とは

問題の放送は、平成8年6月に行われました。

「妻からの離縁状・突然の別れに戸惑う夫たち」という特集の一部分として放送されたもので、男性Xが、結婚生活21年目に突然妻Yから離婚して欲しい旨宣言され、4年後の現在も妻Yが離婚に踏み切った内容が思い当たらないー。
という内容のものです。

<具体的な放送内容>(判決文から抜粋・編集)

次のような内容が紹介されました。

①「その当時を振り返っても本当に分からないんですねえ。」と述べながら、一人で台所に立ち、洗い物をしている姿が映された。

②「結婚21年目で離婚したこの50代の男性は、大手企業の管理職です。4年前に妻Yが突然離婚を切り出し、長女を連れて家を出ていきました。今は、大学生の長男を2人暮らしです」とのナレーションが流れた。

③妻Yとの関係がぎくしゃくしてきたのは、8年前に会社で忙しい部署に配置され、帰宅が深夜になることが増え始めたころから」であり、妻がこれに理解を示さず、妻が不機嫌になった様子や、夫Xを避ける様子が記述された内容の、当時の夫Xが書いたという日記が映された。

④夫Xは、数学の問題を子どもに教えるときがあったというが、妻Yは数学を教えるのが苦手だったといい、そのため、代わりに夫Xが朝までかかって説いたことが度々あった旨のナレーションが流れた。

⑤「何でこんなにいらいらしているのかな、とか。ええ。なぜこんなささいなことにこう腹を立てているんかなとかですね。」と述べ、妻Yがささいなことでいらいらし、腹を立てているという事実を印象づける。
また、「庭仕事をしていて、はさみを出しっぱなしにすると厳しく注意された」旨のコメントもあり、庭仕事のためはさみを出しっぱなしにしていたなどの夫の行動に腹を立てたことが、妻の離婚申し入れの一部となるかのごとき印象づけがあった。

⑥ナレーションで「妻Yはどんなメッセージを伝えたいのか、2人は何度も話し合いの場を持ちました。しかし、その度に繰り返される妻Yの言い分が、夫Xにはささいなことにしか聞こえませんでした。妻の本当の気持ちが分からないまま、夫は、離婚に同意しました。」と紹介され、
「夫の知らない離婚のシナリオ」というテロップが流れました。
そして、夫Xが、自分が気づいたときには、妻Yの離婚のシナリオが出来上がっていた、十分に準備して、シナリオ通りに事を進められた旨のコメントが紹介され、夫Xが気づいたときには、離婚は不可避であった旨の印象付けが行われた。

(判決文)※一部編集
「この事実は、妻Yが夫Xに対する思いやりのない、自己中心的で、冷たい人間性に欠ける女性であるとの印象を与えるものだということができる。」

しかし、これら①~⑥の”事実”は全くの嘘、捏造だったのです。

3、放送内容と全く正反対だったモラハラ夫の真実

控訴審で、妻Yは徹底的に反論しました。
代理人弁護士の回想によれば、陳述書を4通提出し、うち1通はタイプで70枚にもなったといいます。

夫Xも証人として呼び出され、暴かれた事実は、放送内容が全くの捏造というものでした。

順番に判決文を参照していきます。

<②③突然離婚を切り出されたという点と、その離婚原因について>

 実は妻Yが離婚を切り出したのは9年前の昭和62年でした。
 それまでにいくつも原因が積み重ねられた結果であり、全くの突然ではありませんでした。

 夫Xはもともと収入が少なく、生活費は妻Yが稼いでいました。
 夫Xは家事や育児にほとんど協力しないことから、妻Yの不満が大きくなっていたところ、夫Xの転勤による自身の不満から、妻Yや子どもたちへの八つ当たり、大声での暴言、スナック通いにのめり込む等の行動が見られるようになるばかりか、その費用の無心、長男の月謝袋からの抜き取りまで見られるようになりました。
 この時向けられた「女は体一つで稼げる」旨の暴言にショックを受け、妻Yは自殺寸前まで追い詰められています。

 それでも妻Yは家計を切り盛りし、開いた学習塾がヒットするなど、経済的に余裕が出てきたものの、夫Xは発症した痛風の症状で家族に当たり散らし、会社の飲み会の送迎を強要する嫌がらせやあえて家の中を散らかすなどの行動に出ています。

 ある時、夫Xはゴルフの小遣いを妻Yが渡さなかったことに激怒し、塾やその生徒、親の前で暴言を吐いて妻Yに恥をかかせる暴挙に出ました。
 これがきっかけで妻Yは夫Xに離婚を切り出したものであり、その時、理由をつまびらかに夫Xに説明していたことが明らかになりました。

<④妻が数学が苦手だったとの事実について>

 実は妻Yは、中学校で教鞭をとっていたこともある元教師でした。

 夫Xが長男の宿題を解いたことは1、2回あったことは事実でしたが、判決文によれば「特段難しいものではなく…学習塾で数学を教えていた妻Yが解けないような問題でもなかった」とされています。

 問題の放送は大変な反響を呼びました。判決文で事実認定はされていませんが、妻Yには数学ができないなどの捏造された事実が放送されると、妻Yの教師ての能力に疑問符をつけられてしまいます。
 妻Yの塾は、生徒の在籍期間が比較的長く、地元で大変評判の良いものでした。ところが放送の結果、退会者が7~8名も出る結果となり、生活の糧を脅かされる結果となりました。
 結果として、塾は閉鎖に追い込まれています。

<⑤妻が夫の行動に腹を立てていたとう点について>

 これらの事実もやはり虚偽でした。

 すでにご紹介したように、夫Xは妻Yの学習塾が軌道に乗るにつれ、さまざまな嫌がらせを繰り返すようになりますが、はさみの1件もそうでした。

 (判決文より)
「夫Xが庭仕事用の切り込みばさみを庭の通路に放置したことがあり、妻Yは自宅の一部を使って学習塾を営んでいて、週に延べ150人もの子どもたちが出入りしていたことから、妻Yが、夫Xに対し、はさみを放置することは危険であり、子どもがはさみで怪我をした場合は責任を問われることにもなる旨説明して注意したところ、夫Xは「おれの責任にはならないもん」と言って、妻Yの注意を無視してはさみを放置する行動をとった」

 ここまでくると、もはや幼稚園児以下といえます。

<⑥離婚の経緯について>

 夫Xは平成元年ごろ、妻Yが趣味でスポーツクラブに通っていましたが、大会に出るようになると、妻Yの姉に「妻Yはスポーツに夢中で家庭を顧みない。男がいる。」などの作り話を吹き込みます。
 こうしたことが重なって妻’Yはついに夫Xへ離婚を切り出しますが、その後も夫Xの態度は改まることがなく、かえって「妻Yに代わるいい女を探すんだ」などの暴言を吐き、妻Yを精神病院通院まで追い込んでいます。
 さらに、夫Xは、長男の進学費用は出したにもかかわらず、長女の進学費用を負担するのを拒否し、長女は妻Yと家を出ています。

 そして、4年後、問題の放送が流されたのです。

4、NHKの無責任な偏向放送が、立ち直ろうとした妻Yの生活を徹底的に破壊した

 今日では、こうした報道・放送は、当事者のプライバシーに配慮する形で、モザイクをかける、音声を変えるなどの措置が取られることが一般的ですが、問題の放送において、夫Xは匿名で出演しているものの、素顔などはそのまま映されたたため、妻Yは、通っていたスポーツクラブなどで複数の知人から放送内容が事実かどうかの指摘を受け、激しく非難されました。

 控訴人の主張の部分にその生々しい様子が描写されています。

(判決文より)
「夫Xが素顔で本件番組に出演したことにより、地元では出演者が夫Xであることがすぐに分かってしまい、妻Yに対する非難が殺到した。妻Yは、友人知人から、「あなたはひどい人。」、「今後一切付き合わない」、「あなたの話を聞く必要はない」、「放送が真実」、「人間性を疑う」、「あなたは鬼だね」、「離婚のやり方が卑劣」等と言われ、夫Xへの同情から妻Yの話には全く耳を傾けてもらえるず、多くの知人友人を失った。」

「妻Yは、本件放送当時も学習塾を開いていたが、放送後、転居前から通っていた塾生がやめていき、毎年あった転居前からの新規入会者はなくなった。」「放送された年、7~8名の退会者が出た。」妻Yの塾は口コミだけが入会ルートであり、評判を失ったことはまさに死活問題でした。
また、妻Yの代わりに夫Xが数学の問題を解いたという”事実”が紹介されたため、「主に数学を教えている妻Yの数学教師としての能力も疑われた。

裁判所はその結果として、「人格的又は能力的評価や社会的信用を失墜させられ、経営していた学習塾の生徒がやめたり、新たな生徒募集に支障が生じ、ひいては学習塾経営による収入が減少したりして、重大な精神的苦痛を受けた」と認定しています。

5、なぜ、捏造は行われたのか? (3)へ続く

この妻Yに仕向けられた痛ましい仕打ちを見ると、日本人のNHK信仰というものがいかに病的に根深いか、を思い知らされます。

それにしても、なぜ捏造された事実がそのまま放送されたのでしょうか?

裁判所は、唖然とするような単純な事実を指摘しています。
妻Yへの取材が全く行われていなかったのです。

(つづく)

【次回】

【お知らせ】
2021年4月から、新しいニュースレターを発行します。
今までと変わらない、正確で信頼性の高い法律情報をタイムリーにお届けいたします。




 

【分野】経済・金融、憲法、労働、家族、歴史認識、法哲学など。著名な判例、標準的な学説等に基づき、信頼性の高い記事を執筆します。