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【離婚後共同親権】世論はどのように操作されるのか(18)子の連れ去り処罰論を批判する②維新議員が触れない不都合な事実

【前回】

参戦

柴山議員のツイートから5日後。
インターネットテレビ局・ABEMAの報道番組「アベプラ」において、柴山議員のツイートが取り上げられました。

ABEMA TIMESからYahoo!ニュースに転載されたこの記事から、概要を大まかに掴むことができます。

主に保育などの社会問題の解決に取り組むNPOフローレンス代表、駒崎弘樹氏が、柴山議員の発言を批判すると、これに対応したのが、日本維新の会に所属する参議院議員・梅村みずほ議員です。
柴山議員と同じく、共同養育支援議員連盟に所属し、事務局次長を務めています。

今回は、梅村議員の発言を検証します。

【検証①】支離滅裂な子どもの権利条約の解釈

まずはこの発言から。

「特に共同養育支援議員連盟の中で問題になっているのは“子の連れ去り”で、ここには“虚偽DV”という問題も絡んでくる。日本が1994年に批准した『子どもの権利条約』の9条では“父母から分離されない権利”が謳われているし、やはり同意なく、いきなり子どもを連れ去るというのは問題があるし、連れ戻すことも含めて未成年者略取に当たると思う」。
(上記Yahoo!ニュース記事より)

では、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)9条を見てみましょう。

<子どもの権利条約9条1項>
締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。

確かに、第1文には梅村議員の言う通り、子ども(児童)が「父母から分離されない」権利を認められる条文があります。
しかし、ご覧いただいたように、長いただし書き(例外)があります。

(例外)
・権限がある当局が、司法審査に従うことを条件とすること
・適正手続きに従うこと
・児童(子)の最善の利益のために必要であると決定する場合

については、「この限りでない」。つまり、分離することが可能です。
そして、この可能なケースとして、2つ例示されています。

・児童を虐待・放置する場合
・父母が別居し児童の居住地を決める場合

です。
そして、2番目のケースはDVなどケースは限定されていません。つまり、子連れ別居で"分離"が生じたとしても、上記(例外)を締約国が満たすことができれば、分離しても良い(分離されない権利を制限可能)ことになります。
ちなみに、この条文の主語は「締約国」つまり政府であり、子連れ別居した当事者に遵守する義務が課せられているわけではありません。
そして、保障される主体はあくまで児童であり、別居親ではありません。

梅村議員の発言に戻ります。
発言の論旨は、当事者が子連れ別居することは、子どもの権利条約9条が定める、子どもの分離されない権利が侵害され、(相手方の)同意がない以上、未成年者略取罪に該当すると論じています。
が、一言で言うなら支離滅裂です。

が、既に述べたように本条を遵守する義務は締約国政府であり、当事者ではありません。
そして、ただし書き以下に述べられているように、子連れ別居のケースでも分離されない権利を制限することは認められており、締約国政府(日本政府)は既に、民法や家事事件手続法等を整備しています。つまり、日本政府にも違法性はない。
そして、梅村議員は口を滑らせていますが、子どもの権利条約9条の例外となっている別居のケースで、「相手方の同意」は要件とされていません。梅村議員が勝手に付け加えているに過ぎない。

テレビ番組でその場のノリで誰も条文を確認できないとタカをくくったか、そもそも確認する気がないのでしょう。稚拙で知的誠実さに著しく欠けています。

<参照文献>
なお、そもそも子どもの権利条約9条は、子どもの「不分離の権利」を保障しているかどうかについて、疑問が示されています。
鈴木隆文「不分離は子どもの権利条約が謳う権利か」(梶村太市・長谷川京子・吉田容子編「離婚後の子どもをどう守るか 親の利益と子の利益」29頁以下(日本評論社 2020年))

【検証②】未成年者略取罪の条文を勝手に創作

次はこの発言。

「刑法の224条に照らして、“正当な理由にあたる”という前提の下であれば、柴山議員のおっしゃる通りだと解釈するが、やはりDVによって身体に重大な危害が及ぶ可能性がある場合には、お子さんと一緒に逃げて未成年者略取にあたらない。警察でもいいし、コンビニだっていいので、とにかく逃げ込んでほしいというのが本心だ」
(同上)

しょうがない、昨日も掲載しましたが、もう一度お見せします。

<刑法244条>
未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

「正当な理由」は問題にされていません。
条文が勝手に創作されています。

昨日の記事でご紹介したように、警察はもともと、未成年者略取罪を、いわゆる子の奪い合い紛争に適用することは想定していません。
例外的に、平穏に別居していた母子に対し、父親が社会的相当性を欠く実力行使によって奪取したケースについて、誘拐罪の成立を認めています。
そして、今井功裁判官の補足意見にあったように、同罪の成立を認めたのは、家庭裁判所などの法で定めた適正手続きを無視し、実力行使(自力救済)をした違法行為に対してです。
反対にいえば、適法なケースについては同罪の成立はない。
最高裁判所は平成5年の判例において子連れ別居を原則適法と判断しています。

とすると、もし、子連れ別居を正当な理由がないものとして処罰すると、国の行為は、反対に子どもの権利条約9条ただし書きに違反することになります。なぜなら、国は本来分離して子どもの権利を適切に制限する措置を講じていない、ということになるからです。

要するに梅村議員の発言は1番目(子どもの権利条約)と2番目(未成年者略取罪)との間に論理的整合性がないのです。

<参照文献>
平成5年と平成17年の最高裁判決の連続性を指摘したものとして、江見健一「妻と離婚係争中の夫が、妻の監護養育下にある二歳の子を有形力を用いて連れ去った行為につき、未成年者略取罪が成立するとされた事例--最高裁(3小)平成17.12.6決定」法律のひろば59巻6号53頁以下(2006年)、同旨のものとして同「妻と離婚係争中の夫が,妻の監護養育下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った行為につき,未成年者略取罪が成立するとされた事例(平成17.12.6最高裁判所第三小法廷決定)」捜査研究659号2頁以下(2006年)

【検証③】いい加減な愛知中3刺殺事件の理解

次の発言。
これはかなり問題です。

「いじめでも同様の問題は起こっている。昨年、愛知県で中学3年生の男子生徒が同級生に刺殺される事件が起きたが、加害者は“いじめを受けていた”“生徒会に立候補するにあたって応援演説をしてほしいと頼まれたのが嫌だった”と供述したという。よほど腹に据えかねることがあったのかもしれないが、多くの方は、これがいじめに当たるとは理解できないのではないかという意見もある。それでも、いじめ防止対策推進法では、被害者がいじめだと思ったらいじめだとされている。DVについても、立法府としては限界に挑むような議論を迫られることになるだろう。DVとは何なのか、線引きが大変難しい問題があるが、そこに挑まなければいけないのは確かだ」

まるでこれが事実のすべてであり、警察での供述が完全に信用できるかのような言い草です。
(ご存知ない方にご説明すると、少年事件の大半は被害者は否認せず、捜査官に誘導・迎合的な供述をするケースが多いといわれています。)

この梅村議員の発言。朝日新聞も報じており、一応は事実です。

しかし、梅村議員の議論はこの記事のみ寄りかかっています。
例えば、この事件では弥富市の市立中学校で加害者がいじめがあったとアンケートで申告したにもかかわらず、当該アンケートを学校側が紛失していたことが明らかになっています。
また、デイリー新潮が報じたところによれば、加害者のいじめの申告を受け、学校側が被害者と加害者のクラスを別にする等の対応も取っていました。

この事件は、被害者・加害者双方の人権、亡くなった被害者の尊厳に配慮しながら考えなければいけない問題であり、簡単に「いじめと思ったらいじめ」という短絡的な議論に持っていくべきではありません。

そして、ここでも梅村議員の法律解釈に誤りがあります。
いじめ防止対策推進法が定めるいじめの定義は次の条文です。

<いじめ防止対策推進法2条1項>
この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

つまり、①いじめられっ子に客観的に心理的・物理的影響を与える行為、②いじめられっ子が心身の苦痛を感じたの2つの条件が必要です。
このうち①の客観的な行為の存在が必要なことはもちろんのこと、②についても「感じた」ことについて、客観的な証拠が必要なことはいうまでもありません(医師の診断書や保護者の証言等)。

この番組において、梅村議員は始終この姿勢なのです。
その場ですぐ確かめられない根拠をでっち上げて創作する。

他にもボロボロあるんですが、正直キリがない。。。

【検証④】迷信、強弁そして政治的野心

冒頭にご紹介したABEMA TIMESは、出演者たちの主な発言を抜粋したものであり、紹介されていない発言もあります。

誰かやってくれないかなー、と思っていたら、山内智恵子氏( @yamanouchi_ch )がまとめられていました。

これによると驚愕の発言が続出します。

(虚偽DVという主張のエビデンスを求められて)
梅村:これは悪魔の証明のようなもので、なかなかこれは実数としては出て来ないところはあります。

この後も、エビデンスは提示しないが虚偽DVは実在するかのような迷信を延々とぶっています。

(虐待死事件で、実父に会わせた救えたとはいえないとの指摘に対し)
梅村:逆にですね、じゃあ、会わせても死んだという証明もできないわけですね。おとうさんに会わせたとしても……

だから何だ。。。という強弁ですね。
はっきり言って、子どもの死を弄んでいる。

そして、これらの子の連れ去り処罰論の背景には、共同親権の問題があることを指摘します。

梅村:お子さんも一緒に逃げてください。で、ここはですね、私はお子さんと一緒にぜひ逃げてくださいという立場で、このあと、ちょっとこの問題というのは共同養育・共同親権と実は密接に絡み合っている問題なので、簡単に説明というのはできないんですけれども、子供と片方の親がずっと一緒にいるという状況が継続しますと、その後離婚となった場合に、親権・監護権に有利に働くというのが実はあるんですね。

(以上いずれも山内氏のブログより引用)

さすが共同養育支援議員連盟。
離婚後共同親権をやりたい。そのために、今の親権・監護権の指定基準は目の上のたんこぶだ。
だから、子の連れ去りを処罰し、安易に別居できないように威嚇したいのです。

一応フォローすると、梅村議員はDV避難を「正当な理由」として擁護し、この場合は未成年者略取罪に当たらない、としています。
しかしながら、この30分の映像で「正当な理由」として挙げたのは、その一例だけであり、かつ、その「正当性の証明」がどれほど難しいか、については一言もない。
そればかりか、梅村氏ご自身ですらエビデンスを提示できない「虚偽DV」論を持ち出し、唯一の正当理由すら封じようとしています。

まあ、何とも邪な政治的野心だこと。

メディアの"マッチポンプ"に対峙する

そもそもこの番組、柴山議員のツイートの5日後にセッティングされており、おそらくは出演者のスケジュールも調整されていたのでしょう。
駒崎氏、堀氏も含め、メディアに出るのが好きな「フットワークの軽い方々」のそろいが良すぎる。

太田啓子弁護士は、昨年発生した、フランス人男性によるハンガーストライキ事件に関して、男性に同情的なメディア報道に懸念を示し、次の4点について、理解の必要性を指摘します。

①子と会えない事件は法的紛争であり、基本的なリーガルチェックをすべき
②面会を強制されている子どもにもスポットを当てるべき
③離婚後共同養育に伴う失敗は欧米で問題視されている
④右派メディアを中心とした復古主義的な動きがある

<参照文献>
太田啓子「「子の連れ去り」訴える男性に同情的なメディアに必要なリーガルチェック」週刊金曜日1342号33頁(2021年)

(事件について)

メディアのマッチポンプに対峙するため、手弁当でリーガルチェックをする日々は、まだしばらく続きそうな気配であります。

(この連載つづく)

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