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【書評】LIFE SHIFT2―100年時代の行動戦略(アンドリュー スコット; リンダ グラットン著)

いわずと知れた大ベストセラー「LIFE SHIFT」の続編である。著書は、ロンドン・ビジネス・スクール大学経済学教授のアンドリュー・スコット、同大学経営学教授のリンダ・グラットンである。前著の「LIFE SHIFT」で「人生100年時代」という概念を世の中に浸透させたが、続編である本書では、事例に沿って具体的にとるべき行動についてが語られている。

人生100年時代を考えるにあたり、避けては通れないキーワードが「AIにより人間の仕事が奪われることへの恐怖」である。たしかに、AIにより人間の仕事の一部は奪われるが、全てが奪われるわけではないということを述べている。

職と業務を混同してはならない。機械は、トムのトラック運転手という職を構成する業務の多くを代替するだろうが、すべてを代替するとは考えにくい。大学教授の場合で言えば、採点や講義の準備──もしかすると講義そのものも──は、AIがうまくこなせる時代がやって来るかもしれない。そうした一部の業務が自動化されれば、どのような業務が大学教授という職の中核を成すかも変わるだろう。
自動運転車が実用化される際に、完全な自動化が実現するのか、部分的な自動化にとどまるのかという問題もある。少なくとも短期もしくは中期には、部分的な自動化にとどまる可能性が高いように思える。トムはやがて、言ってみれば副操縦士のような役割で自動運転車に乗務したり、どこかの司令センターから自動運転車を操作するバーチャル運転手として働いたりすることになりそうだ。
90~100%の業務が自動化可能な職は、すべての職の5%程度にすぎない。これまで自動化によって機械に置き換えられた職が比較的少ない理由の一端は、ここにある。1950年代にアメリカの国勢調査でリストアップされていた270の職種のうち、自動化により完全に消滅した職種は1つだけだ。その職種とは、エレベーター操作係である
すべての業務を自動化できる職種はほとんどないが、約60%の職種は、自動化しやすい業務の割合が3分の1を超えている。宿泊・飲食サービスの職では、自動化できる業務の割合は推計で75%程度。製造、輸送、倉庫、農業では、この割合は60%前後、小売りと鉱業では約50%と推計されている。一方、自動化できる業務の割合がもっと小さい職種もある。
アメリカでは、第1章で触れた表計算ソフト「ビジカルク」が登場して40万人の帳簿係の雇用が失われたが、60万人の経理専門家の職が新たに生まれた。表計算ソフトが導入されたことで計算のスピードスピードが速くなり、コストも下がったことで、企業が生成できるデータの量が増え、財務への理解も深まって、データ分析を土台とする職種の生産性が高まった。その結果として、経理専門家の採用数が増加したのである。

ATMが普及して、銀行員の数はむしろ増えた。機械が導入されたことにより、銀行員は、預金の引き出しに応じるなどの付加価値の小さい業務から解放されて、もっと付加価値の高い業務に時間を割けるようになった。具体的には、複雑なニーズをもった顧客を助けたり、さまざまな金融商品やサービスを売り込んだりといった業務である。こうした転換が進んだ結果、銀行員の生産性が高まり、銀行はより多くの職員を採用するようになったのだ

本書では、人間の仕事は完全には自動化しないことについて多数言及されており、イーロン・マスクも次のように語っている。

テスラで過度な自動化を推し進めたのは失敗だった。正確に言えば、私の過ちだった。人間の能力を過小評価していた。

AIを過度に恐れずに、AIを使いこなせるように自身のスキルを高め続けることが「人生100年時代」では大切である。そして、現代は、オンライン学習の整備により学ぼうと思えばいくらでも学ぶことができる環境が整っている。本書では、その事例として、グッチの広告イラストを担当したイグナシ・モンレアルが紹介されている。

2017年に高級ブランドのグッチが全世界のほとんどの広告で使用したイラストは、当時27歳のスペイン人のアーティスト兼イラストレーター、イグナシ・モンレアルが制作したものだった。モンレアルは、コンピュータとタブレット型端末を使い、毎日14時間作品づくりに没頭して、8カ月間で150点を超す作品をグッチのために制作した。この時点で2つの学位を取得していたが、デジタル関連のスキルは大学で学んだわけではなかった。「ユーチューブで勉強した。学習動画がたくさんアップされているから。それに、グラフィックデザインもユーチューブで学んだ」とのことだ。「写真家になりたいかはともかく、写真の撮り方は勉強したいと思っていた。そこで、いろいろ動画を見て、写真を撮れるようになった……強い忍耐心は必要。でも、辛抱強く取り組みさえすれば、無料で学習できる。(コンテンツが)体系立てて整理されているとは言えないけれど、本気で学ぼうと思えば学ぶイグナシきる」。モンレアルは、教育機関で学位を取得するタイプの学習から、テクノロジーを活用して、職につながる実用的なスキルを独学で学ぶタイプの学習へと転換したのである。

その他、本書で述べられているTipを紹介したいと思う。

研究によると、人は1日に多くの活動を詰め込みすぎると、ストレスを感じ、不幸せになるが、それらの活動を長期間にわけておこなえば、幸福感が大幅に高まるという
所得が高いと、人生の充実感は高まるが、日々の幸福感は高まらない。一方、所得が低い人は、人生の充実感が低く、情緒的な幸福感も低い」。つまり、金があれば幸せになれるとは限らないが、金はよい人生の重要な柱だと言えそうだ。
エドワード・デシとリチャード・ライアンの研究が明らかにしたように、仕事で自律性をもてることにはきわめて大きな意義がある。実際、多くの人は、給料など、仕事に関するほかの要素よりも、自律性を重んじている。自律性は、脳の健康にも好影響を及ぼす。自律性をもてている人は概して、ストレスをあまり感じず、燃え尽き状態に陥る可能性も比較的小さいのだ。
新しい事業を始めた人の年齢別割合は、30歳未満より50歳以上のほうが大きい。それに輪をかけて特筆すべきなのは、40歳未満の起業家よりも、40歳以上の起業家によって設立された企業のほうが高い成長率を記録するケースが多いという点だ。
イギリスでは、2022年までに、デジタル系の雇用数上位3つの職種だけで51万8000人の雇用が増えると予測されている。これは、過去10年にイギリスでコンピュータ科学の学位を取得した人の3倍に当たる人数だ。


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