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【映画評】MONOS 猿と呼ばれし者たち

半世紀以上にわたって続いたコロンビア内戦を背景に、ゲリラ組織の少年少女たちを描いたサバイバルドラマ。第35回サンダンス映画祭ワールド・シネマ・ドラマ部門の審査員特別賞をはじめ、世界各国の映画祭で数々の賞を受賞した。出演は「キングス・オブ・サマー」のモイセス・アリアス、「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」のジュリアンヌ・ニコルソン。「コカレロ」のアレハンドロ・ランデスが監督を務めた。

本作の舞台はコロンビアの山岳地帯だが、過酷な環境の中での長期間の撮影だったことが伺え、撮影クルーの半端ではない苦労が垣間見える。よくこんな過酷な環境下での撮影を決行したなあと尊敬の念を覚える。それだけに、他の映画では味わうことができない映画体験を味わうことができる。

しかし、この映画は山岳地帯での撮影でないと成立しない。この映画のテーマの一つが、限られた情報しか持たない子供たちの集団の狂気である。この映画に出てくる子供の戦士たちは、自分たちが何のために戦っているのかもよくわからない状態にいる。山岳地帯を舞台にしていることが、他の世界から隔離された世界であることを象徴している。観客にも、なぜ彼らが戦っているのかという情報は一切提示されない。それはおそらく観客にも戦士たちと同じ状況に身を置かせるためだと思う。

彼らが何なのか、何のために戦っているのかよくわからない状態のまま、山岳地帯を舞台に生き延びていくドラマは不気味ですらある。情報を一切持たない子供たちの集団の狂気性が映画を通じて描かれている。それを観客も同じような気持ちで体験することができる。

映画館という、他の世界から隔離された空間の中で、この体験をすることは何事にも代えがたい経験である。これは、自宅のテレビやパソコンでの鑑賞ではなかなか味わうことができない、映画館ならではの体験である。

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