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『科捜研の女』のウソ

※全文公開です。おひねりをいただければ幸いです。
日々精進していきます。


某局の人気長寿番組、『科捜研の女』には、重大な嘘が二つもある。

まず一つめの嘘だが、私の小学校時代の友人にSという男がいる。


彼は大柄で、勉強はトップクラスだが体育は苦手、
そして小学生のわりには老け顔だったので、
クラスではいつも「おっちゃん」と呼ばれていた。


大人になったおっちゃんは、大学院を卒業後、
科学警察研究所というところに就職した。

まさに『科捜研の女』のような鑑識作業を行っている職場である。

ところが、
「あんなに最新の装置はそろっていないし、
高い検査をバンバンやったりもできない」という。


たしかに、
番組ではいつもぴかぴかの装置を使って
複雑そうな分析だの鑑定だのしている。

だが、現実には予算というものがあり、
しかも近年、警視庁もとみに苦しいというのだ。

エアコンの修理業者さえ安いところを使わざるを得なくなり、
当然の帰結として、修理の質も落ちていく。手を変え品を変え、
高価な検査を好き放題にできる環境というのは、
テレビならではの幻想のようだ。


二つ目の嘘は、
主人公の榊マリコさんが涼しい顔で言い放つキメ台詞である。
「科学はウソをつきません」

とんでもない。科学なんて、嘘だらけである。

そんなことをいうならば、昔は天動説だって科学だった。

子育てをした経験のある女性ならばわかると思うが、
親世代と自分世代では、
もうまったくもって子供の病気や予防接種に対する知識も態度も違う。
日進月歩というと聞こえは良いが、
科学とは、
ほんの少し前の常識だって切り捨てていく性質のものなのである。

それだけではない。

科学には様々な「基準値」というものが存在するが、
その基準値だって、しょせん人間が決めたものであり、
主観や忖度が入り込む余地はいくらでもある。

原子力発電所の敷地内では、
年間5.2msvの被ばく量がある場所は『放射線管理区域』とされている。

ところが、福島原発の事故後、
年間20msvまで下がったから帰宅してよろしい、
と被災地の住民たちは政府と科学者からお墨付きを与えられた。

いったい、どういう根拠でこんな結論が出せたのだろう。
これなんぞは、たんなる嘘というよりは『大嘘』に近いのではないか。

これまでの日本人にとって、ヒロシマのことは広島のことだった。
ナガサキのことは長崎のことだった。オキナワのことは沖縄のことだった。フクシマのことは福島のことだった。
全て局地的な災いであり、狭い国土の中の話であっても対岸の火事、
自分には関係ないと簡単に片づけられる問題だった。

しかし、今度はそうはいかない。

コロナウィルスの影響は、
ありとあらゆる産業に影響を及ぼしているうえ、
都市部の方が被害は大きい。多くの人間が活動すればするほど、
事態は深刻になっていく。

これまで
どのような災害を見聞きしても実感することのできなかった人間にも、
火の粉は確実に降りかかってきているのだ。

さて、そこで我々が目にしたものは何か。

素人よりも危機感の薄いとしか思えない国家権力の中枢部と、
お抱えの学者や医師たちに言わせている生ぬるい、
役に立つかどうかもわからない対応策だ。

彼らは性懲りもなく、
過去のやり方とまったく同じ手法でコロナウィルスにも臨んできたが、
今回は国内のほぼ全産業に従事する、ほぼ全ての国民が相手である。

降りかかってきた火の粉に対するブーイングは、
一つの県の一部の人間の叫びとはボリュームが違う。

今や、
全国民の目が科学者や医学研究者たちに向けられている
と言っても過言ではない。

しかし、我々の視線に宿るものは、崇拝や尊敬ではない。

「ほんとにそれで大丈夫なのか?」という疑念である。

政府がヘマをするたびに、不信は高まり、不満が募る。

『科学はウソをつかない』なんて、誰一人思っていない。

科学(者)も医学(者)も絶対的な存在ではない。

それは、いつの時代でも変わることはなかった。

私たちが忘れていただけである。


*原発事故についての記述は、2020年3月に行われたシンポジウム、「世界のなかの『3・11フクシマ』」における鈴木正一氏の報告ならびに藤本典嗣教授(東洋大学)の報告を参考にさせていただきました。

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